プロローグ
「雷鳴が轟く早朝に生まれし女児はこの世界を滅ぼす」と伝えられ産まれてすぐに殺さすことがこの国の法律で定められている。
ムクナ村のアイクは困惑していた。掟に従い生まれたばかりの愛くるしい赤ん坊の命をこの手で奪わなければならない。
それだけでも辛いのにそれを子供の母親にどう伝えるかが難しいところだ。
いや、わかっている。同じように悩みながらも逆らうことなどできず皆やってきたことなのだ。
アリエル王女はここに強い魔力を持つ子供が産まれたことも気づいているはず。アイクは溢れる涙を我慢することなく「すまぬ…」そう呟いて首を絞めようとした。
ところが手は見えない何かによってはじかれてしまった。戸惑いながらも今度は手に魔力を集中させるが普段なら何の問題もなく使いこなせるはずの魔法が使えない。
「何かに守られている?」
今度は殺そうとするのではなく愛おしい気持ちでその顔に触れてみると温もりが手に伝わってくる。
アイクにもう迷いはなかった。隣で大声で泣く男の子の額に手を当て、そして女の子の額に触れる。するとその姿は男の子全く一緒になった。どちらがどちらか見分けが付かないほどに。
そして身震いするほど膨大で強力な魔力。こんなに強い魔力の持ち主にあったとこがない。もしかするとこれが世界を滅ぼす所以かもしれない。
アイクはその魔力を赤ん坊の体の中に封印するために自分の魔力を使い切ってしまうほどだった。
これがバレればワシだけではなく村全体が危ないだろう。だが…
「レイナ大事な話がある。」
振り返り二人の母親に向かいあった。
--王都にて--
アリエル王女は目を覚ますと全身に汗をかいていた。激しい胸騒ぎがする。
ドンッという激しい音がした。窓辺まで行きカーテンを少し開けると同時にまだ薄暗い闇を明るく照らすように雷が光って程なくしてゴロゴロと音がした。
雨が降っているわけではない。
そしてまた雷鳴が鳴り響く。またもどこかに女児が産まれるのだろう。
意識することなく東の方角に強い魔力を感じた。こんなに強い魔力を感じたことはない。手を握り締め汗が背中を伝ったがアリエルは気づいていない。
産まれたばかりだというのに、私と変わりない量の魔力を持っているとは。早く殺せ!早く殺せ!!「早く殺せ!!!」思わず声に出したときその魔力が小さくなるのを感じた。
こんなにも危機感を感じた子供は始めてだ。魔力が消えたというのに不安感は以前として消えない。
「遂に本気で私を潰しにきたか…」
その瞳には憎悪の炎が燃えていた。