006
チャララララララー。
チャララララララー。
チャララララララー。
チャララララララー。
「………………う、うぅん……スマホ、スマホ」
寝ぼけ眼で探し物を手にした途端、通話終了ボタンを押す。画面を見ると起床時間がいつもより二時間も早い。再び目を閉じ眠りに入ろうとするも再度呼び出し音が鳴り出した。
チャララララララー。
チャララララララー。
チャララララララー。
チャララララララー。プルルルルルルル。
チャララララララー。プルルルルルルル。
スマホどころか家電まで加わり耳障りな合唱が始まった。止む気配のない不快音に亜姫は早々に白旗を挙げ、通話ボタンを押した。
「おはよう。起きたか。十分後そちらに行く」
返答を待たずして一方的な会話は終了した。
十。行く。………………………眠い。
十分。行く。…………眠い。
十分後。行く。眠い。
「十分後?来る!!?」
理解した途端、亜姫は覚醒し飛び起きた。辺りを見渡せば、そこはいつも寝起きする寝室ではなくリビングだった。
いくら鈍い亜姫でも『関係ある』という言葉と『キス』から導き出される想いなど一つしか考えつかない。自分の気持ちに悩んだ末にそのまま寝てしまったが、久人からのモーニングコールはいつも通りで昨日の出来事が嘘のように思えた。
だが、テーブルに目をやればそこには昨夜持ち帰った食べかけのシュークリームが夢でないことを伝えるかのように置いてあった。数分後にどんな顔をして会えばいいのか分からずまたしても悩んでしまう。これからどのように接するかと考えも纏まらない。
玄関から物音と共に人の気配が近づいてくる。同時に心臓の音も段々大きくなっていくのが亜姫自身でもわかった。
「珍しく電話だけで起きてるな。――――やっぱり、そのまま寝たんだ。制服しわくちゃ……。予備を持っていただろ。早めに起こしたからシャワーを浴びる時間もある。準備してる間に片付けや朝ご飯用意しておくから急げ」
勝手に部屋に入ってきた久人はすでにいつでも登校できるように制服をきっちり着ている。カバンを片手に声をかける姿はいつもと変わった様子は見当たらなかった。
朝が弱い亜姫は目覚ましをいくつ掛けても起きようとしない。全て止めて二度寝しようとするため久人が必然的にモーニングコールするようになっていた。ただ、それでも起きようとしないため電話後毎朝、家の鍵を開け亜姫を起こすことが久人の日課となった。
今までの関係を変える出来事があったはずなのにいつもと変わらない久人の態度にやはり夢だったのではないかと内心戸惑ってしまう。
「あぁ、そうだ。一応いっておくけど昨日いったことは嘘じゃないし夢でもないからな」
「なっ!?」
「そういう考えに辿り着いて無かったことになるのは予想済みだから先手を打っておく。ただ返事はまだしなくていい。今日、爺さんから婚約について話があるだろ。仮に俺を振るという答えを出していても気にくわない相手だったりしたら俺を利用して話を断って構わない。付き合ってることにした方が俺も味方しやすいし関係者として口出しできる。爺さんには折を見て別れたと言えばいいしな。付き合っててその後別れたなんてよくある話だろ。まっ、どうせ姫のことだからまだ結論出してないだろうしな。これからじわじわ攻めていくからよろしく」
「よろしく!?いやいや、よろしくって爽やかに言っても誤魔化されないよ!確かに結論だしてないけど久ちゃん損な役じゃん!?私にかなり都合よくない?」
「そうとは言い切れないだろ。俺が攻めると言ったこと忘れていないか?まぁ、そうだとしても俺にとってその方がいいんだから問題ない」
「いやいや、問題あるでしょ!?」
「本人がないといってるからいいんだよ」
「で、でも…」
「話は終わり。早くしないとシャワー浴びる時間なくなるぞ」
これ以上話すことはないとばかりに久人はキッチンへと姿を消した。 高鳴っていた心音は今では嘘のように正常に機能している。先程までとの高低差に疲れを感じるも貴重な朝の時間を無駄にしている暇はない。亜姫もしぶしぶながら脱衣場に向かわざるおえなかった。
久人と亜姫の住まいは同じ間取りをしている。キッチン設備やバスタブまで全く一緒の造りだが、唯一違う所がある。各ドアに鍵がついている点だ。
一人暮らしでの必要性は感じられず今まで久人がいても使用したことはないが、昨日からのやり取りを考えると意識して鍵を掛けずにはいられなかった。
感情的であり嘘が苦手なことは亜姫自身も自覚している。だから理性的に対応する久人の提案は正直有り難かった。
好きか嫌いかと問われれば好きであるが、それがどういう意味での好きかはまだ分からない。もともと恋愛に興味がなかったのでそのようなことを考えたこともなかった。故に時間が必要であるというのは理解できるが、素直に頷けないのは自分が天の邪鬼だからなのか、それとも片方に好条件すぎると思ったからなのかは不明である。
結局、現状をまとめ提案されたものを受け入れると納得しシャワータイムは終了した。
髪もしっかり渇かし続き部屋のウォークインクローゼットから目的の服を出す。シワひとつない新しい制服に袖を通すと思考も晴れた気がする。身支度を整えリビングに行くと食卓には朝食が用意されていた。スクランブルエッグとベーコンの芳ばしい香りが鼻孔をくすぐり食欲をそそる。だが、亜姫の定番の席に用意されているのは緑色の液体が入ったコップのみである。
「久ちゃん、よく朝から入るね」
「同年齢の男子高生なら少ない方だろ。まぁ、姫はちゃんと固体を食べた方がいいと思うけど……」
「私はこの久ちゃん特製スムージーがあれば十分だよ」
「……飲むだけまだましか」
いつも通りの何気ない会話は朝食を終えた当校中でも変わらなかった。
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