004
昼食終了後、亜姫はそのまま授業を受けることにした。
薬のおかげか午後からは痛みは治まったが隣にいる久人は相変わらずうつ伏せに睡眠を満喫している。
毎度のことではあるが注意をしようとする講師はおらず亜姫もまた怒る気になれず放置した。時たま助力を乞う視線を教壇から感じたが職務怠慢ではないかと意を込めて全て無視してやった。毎回注意すると思ったら大間違いである。
終礼が終わると同時に体育会系の部活生は勢いよく教室から出て行き、それに続くように文化系の子たちもそろそろと部室に向かう。クラスで部活に入っていないのは二名だけ。ならば部活生が去れば帰宅部の亜姫と久人だけが残るのは必然である。
ラッシュを避けた結果、静寂が動き出す合図となっていた。
さりげなく二人分の鞄を持ち久人は出入り口で帰宅を促してくる。
「姫、帰るよ」
「はーーい」
本来なら自分の荷物は自分で持ちたいところだがそれに相当な労力を消費しても奪い返せないことは登校初日に学習済みである。無駄なことはしない。ただ疲れ損するだけである。
学園を出れば似たような建物が立ち並ぶ。迷子になりそうな通学路を過ちなく進めるのは久人が登下校を共にしてくれるからだろう。
「しかし、まぁ、久ちゃんにはいつも迷惑を掛けて悪いねぇ」
「......」
「いや、そこは『お互い様だろ』と即答してほしいところだよ」
「......」
「ちょ、久ちゃん。無言で会話しようとするの止めて!って言っても今更かぁ。まぁ、私といる時はいいけど他の子といる時はちゃんと会話するんだよ。母は心配だよ」
「母じゃないだろ」
「ちゃんと聞いてるのか確認しようとボケてみたんだよ。でも、感謝してるのは本当だよ。ありがとう」
「急に何?」
「いや、こうして久ちゃんが行き帰り一緒に行動してくれなかったらこの道歩けなかったなぁって、ふと思って」
「徒歩五分も掛からない距離を送迎しようと思う程じぃさんも心配してんだよ」
「それはわかるけど断ったらまさかの代打案がボディーガード五人体制の送迎ってどういうことだろう。目立ちたくないのに余計に目立つ提案だよね?」
一人の女子高生を黒スーツの男性数人が取り囲む図なんて怪しすぎる。即、却下しようとすれば久人が自分が送り迎えをやると商蔵を説得してくれたので助かった。
祖父が高校入学を許したのは白紀宮学園だけだった。その当時から中等部の方に久人が通っていた為に何度か門前まで行ったことがある。同敷地内に高等部や大学もある学園から本邸までは車で片道一時間と自宅から登校不可な距離ではない。そのままでも通える距離であるが、それだと意味がない。出された条件を承諾するしか願いが叶わないのならば答えは決まっている。
商蔵が所有するマンションは学園まで徒歩八分程の場所にあり、朝が弱い亜姫にとってありがたい物件だった。そこには既に久人とその父・嶺人が暮らしており建物の最上階ワンフロア丸々が亜姫の新たなる住まいとなった。
スマホで一人暮らしについて色々調べていた亜姫にとっては別次元の住まいだったのはいうまでもない。
下のワンフロアに同じく住む久人から部屋が余っていると聞いた時、それに加えて貰えないか聞いてみた。すると、その話はすでに久人も商蔵に提案したが親族といえど同い年の男女が一緒に住むというのはよくないということで一つ上の最上階まるまるワンフロアになったという話だった。
いくら一人暮らしに百三十坪程は広すぎるとゴネても条件をそのまま受け入れないなら白紙に戻すと言われれれば有り難く承諾するしかなかった。
全ての要求を呑むと保護者も祖父から叔父に変更され現在の生活に至っている。
二人で歩く時はいつも一方的に亜姫がしゃべり、たまに久人が答える。
そうこうしている間に二人はコンシェルジュに出迎えられエレベーターに乗った。
フロアのボタンは二つしかない。元々、上二つの階は親族が使用するために設計をしていた為に専用のエレベーターがこれである。
「久ちゃん、今日のご飯は何?」
「オムライスとオニオンスープとサラダ。デザートに貰ったシュークリーム」
料理など今までしたことがなかった亜姫も一人暮らしをきっかけに挑戦してみた。結果、危うく家事や大ケガをしそうになり久人に止められた。
元々、自炊していた久人が一人分増えるのも同じといって亜姫の分も作ってくれるようになった。
「いつもの時間にできるから着替えて来いよ。スマホは持ってるだろ?勉強も食後に見てやるから荷物はこのまま持って行っとく」
「うん。持ってる。ありがとう」
エレベーターは久人の住まいに着き二人は一端別れた。
亜姫は家に着くとすぐにリビングに向かう。先程から喉が乾いて仕方がなかった。
冷蔵庫から水を取り出し飲むが、飲めども飲めども一向に潤わない。とうとう満杯に入っていたのに二ℓのペットボトルは空になってしまった。
異様な感じはするがこんな時もあるだろうと特に気にすることもなく一つ下の久人の家へと向かおうとすればスマホのコール音がポケットから鳴り響いた。
画面を見るとよく知った人物からの電話だった。
お読み頂きありがとうございました!




