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009

こんにちは!

評価ありがとうございます。

 「姫、姫。もう起きないと放課後だ」


 「ん~~?きゅぅ…ちゃん?」


 「大丈夫か?先生には言っていたが、ちょっと用事ができて来るのが遅くなった。他の生徒ももう下校を促されていないし俺たちもそろそろ帰らないと」


 「んぅ…………っ!?久ちゃん!大変なの!!先生が――――藤柄先生が」


 「今日は随分と寝ぼけ方が酷いな」


 「寝ぼけてない!藤柄先生が隣のベッドで血だらけで」


 「あらあら。騒がしいと思って来てみればそれは大変ねぇ」


 「ふぇっ!?」


 自分でも間抜けな声だと思った。しかし、それも仕方がないだろう。現れたのは今しがた名を口にした人物――――藤柄だった。

 普通に歩いている姿をこの目で見ても信じられないのは、先程の光景があまりにもリアルすぎたためかそれともいまだにあの香りが鼻の奥に残っている気がするためか分からない。

 納得できず隣のベッドを確認しようとカーテンを乱暴に開けたそこには清潔なシーツがシワ一つ無い状態で整えられていた。


 「嘘…………夢?」


 確かめるように口から零れた言葉を目前の光景は嘲笑うかのように事実だと伝えてくる。


 「もういいか?その様子なら問題ないようだな。今日の予定だけど爺さんに連絡して日付変更してもらおうとしたけど無理だった。車はもう迎えに来てるが少し遅れるくらいは大丈夫だそうだ」


 「…………わかった。…久ちゃん、ありがとう」


 「頭痛は大丈夫かしら?」


 「あれ?そういわれれば頭、痛くないです。……なんかこんなの久しぶりな気がするけど、久ちゃんのど渇いた~」


 「そういうと思って飲料水買ってきた」


 「さっすが久ちゃん。ありがとう」


 受け取ったペットボトルにはまだ水滴がついており時間がそんなに経っていないことを教えてくれる。

 早速、一口また一口と口にするが冷たい液体がのどを通り過ぎていっても一向に潤わない。そのまま飲み続けているとあっという間に中身は空になっていた。


 「そんなに急いで飲まなくてもいいだろ」


 「別にそんなつもりはないんだけど……なんかのど渇いて……」


 「水分はこまめにとるようにした方がいいわよ。でも、大丈夫そうね。それなら気をつけて帰りなさい」


 「はい。お世話になりました」


 「あ、お世話になりました。……久ちゃん、なんか保護者みたい」


 ジロリと睨まれれば口を噤むしかなく、大人しく持ってきてもらった荷物を持って保健室を出て下駄箱へと向かった。

 廊下は静まり返り生徒の声は一切聞こえない。


 「静かだね」


 「あぁ。今日からテスト勉強期間に突入したから部活生も帰らされているしな」


 「あ、今日からか。テストかぁ~」


 「用事が済んだら帰って勉強みてやる」


 「…………」


 「何だよ。その無言」


 「いや、久ちゃんはしないのかぁ~と思って」


 「俺は毎日復習予習してるからいいんだよ」


 「…………」


 「だから何だよ。その無言」


 「学年主席に返す言葉がないという私の無言の言葉だよ!」


 「あぁ、そうかよ。じゃ、ちょっと担任に声掛けてくるから姫は先にそこにあるベンチに腰掛けて待ってろ」


 「一緒に行こうか?」


 「いや、すぐ済むからいい」


 「わかった」


 「大人しく待っとけよ」


 「その言い方だとなんか私がいつも迷惑掛けているように聞こえるんだけど~」


 「…………」


 「まさかの無言!?」


 「…………。じゃ、あとでな」


 そう背中越しに手を振り久人はその場を後にした。

 話している間に付いた下駄箱を見渡せば通学靴は二人分以外見当たらない。言っていた通り他の生徒たちは帰ってしまったのだろう。

 先程、指示された通り亜姫はベンチに腰掛けた。待ち合わせ等で利用されているのをよく目にしたことはあるが実際に座ってみたのは今日が初めてだ。靴を履き替える前に置かれたベンチは便利だけど、短時間とはいえ待つ時間は退屈である。

 鞄の中に入れていた水を飲みながら待とうとしたが、保健室にいた時と変わらない飲み方ではあっという間に空っぽになってしまった。

 濡れた唇を拭おうと口元に手を近づけると覚えのある匂いがした。ブランデー入りチョコレートのように甘く酔う香り。微かな匂いを辿り爪先を見ると皮膚と爪の間にほんの少しだけ赤黒い色があった。


 「違う。夢じゃない」


 やはり現実だったのだとその香りが語っている。


 「私、見た。先生の血だらけの姿を……」


 しかし記憶に新しいのは元気だった姿。


 「私、舐めた。先生の血を……」


 鮮明に思い出せたのは血の味だったのか記憶だったのか――――。

 誰に伝えることなく呟いた言葉は混乱する頭を落ち着かせようとしているようだった。

 保健室にまた戻るのか思案していると周囲に芳しい匂いが漂ってきた。脳に直接語りかけるような匂いに抗えず亜姫は考えるより先に駆け出していた。

【ご注意】

※血を舐める行為は危険です!フィクションによるものですので真似しないで下さい。


お読み頂きありがとうございます。

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