私の父兄
前作『私の幼馴染』の続編?っぽいもの。
勢いで書いてるので、色々可笑しいかもしれませんが、スルーしてください。
私の家は、さかのぼれば華族、という由緒正しい家柄な上、一流企業の本家として有名。
そんな家の当主・厳木 総一郎の長女として、私は生まれた。
一つ上の兄・聖一がいたから、跡取りとかは全くの無縁で助かったとは思う。
けど、文武両道、眉目秀麗、賛美する四字熟語が乱舞するであろう完璧超人と年子ということで比較され続けて来た。
比較する筆頭が、両親と祖父母とか救いようがないと思わない?
家庭教師が同情するとかってどうよ。
大抵の事はすぐできるからか、家庭教師をバカにしたように嫌味のオンパレードな兄よりも、人の倍の努力をして上の下の結果を出す私の方が家庭教師にとっては安心だったらしい。
…人間性が底辺な兄で申し訳ない。
そんな家で、最初は愛されようと頑張ったけれど、両親と祖父母は出来すぎた兄に構いっぱなしで、私の事は乳母と使用人に丸投げ。
乳母は我が家にずっと仕えている家の出身だから、私に非情に冷たい。ぶっちゃけ、育児放棄されていた。今は必要ないから、側にはいないけど。いてほしくないし。
…雇われた身だから強く出られない使用人達の優しさと控えめな温もりに初めて涙したのは、確か7歳の時の誕生日だった。忘れられてたんじゃない。どうでも良いと捨て置かれていたのよ。
あの時、使用人一同から送られた四葉のペンダントは今でも宝物。ノーブランドがどうした。プレゼントは気持ちでしょう。
7歳の時点でとうに諦めていたけど、キレそうになったのは10歳の時。
勝手に婚約を決められて、言われたのが「我が家の恥をもらっていただくんだ、感謝して誠心誠意尽くせ」って、親としてどうよ?
顔合わせの場で暴れてやろう、と思った私は悪くないと思うんだよね。
…暴れなかったけど。
しょうがないじゃない。婚約者である朱堂 玲司さんが、かっこよかったんだから。
一目惚れよ、悪い?
玲司さんとご両親はとても優しい人達だった。
朱堂家は平安時代までさかのぼる家柄で、呉服店から拡大して服飾企業として世界進出も果たしている。うちには劣るけど、安定性もある優良企業だから、婚約したのもうなずける。
そんな名門でありながら、庶民的でもある玲司さん達は私の事を可愛がってくれた。
私は何も言わなかったけれど、父親に会ったり話したりして何となく察してくれているみたいで、理由をつけては家に呼んでくれたりしてくれた。
…それで癒されたし、満たされたんだよね。ぶっちゃけ、家族とかどうでもよくなった。
兄と同い年の玲司さんは、東京の中高一貫校に通っている。ちなみに寮生活。
私は親の命令で地元(京都)の私立女子中学に進学することになっていたから、数年は離れてしまう。そのことが寂しくて泣いていたら、玲司さんに告白されて舞い上がってしまったのはちょっと調子が良すぎると自分でも思う。
…まぁ、それはともかく。
兄も東京の私立中学に通うことになったのは非常に疑問だったけど、関係ないとして見送った。
そっちのことはどうでもよくて、私は中学で勉強と友人関係に勤しみ、家にいる間は自室にこもって、休日は泊りがけで朱堂家に赴く。遊んでるんじゃなくて、花嫁修業だから。それだけじゃないけど。
…精神的な平和って、生きる上で一番重要な気がするんだよね。
それから2年半、私にとっては随分と平和だった。
家の事を丸無視してたからだけど。問題ないよね?
いない者として扱って見下してた奴らが悪いんだし。
2年の前期から生徒会長になったらしい兄は、運命的な再会をしたようだ。
幼少期、数回一緒に遊んだことのある男の子がいたらしい。
厳木の人間と知っても態度を変えず、名前を呼び捨て、屈託のない笑顔を向けてくれた彼に執着と依存心を持っていた。…再開してようやく気付いたらしいけど。
…別に、同性愛とかは個人の自由だと思う。そういう小説も普通に読むから私に実害が無ければ別に良いや、て感じ。…腐ってるとかいうな。事実だけど。
その彼には姉がいた。モデルをしている綺麗な人。
彼は姉に虐げられていると兄に話し、辛いと泣いたらしい。
…片思い(多分)相手の涙に、兄はコロッと騙されてその無駄なカリスマ性を発揮して学校の九割を味方につけて彼の姉を糾弾した。…その前に、姉弟で話し合いだろうとは思うけど。
生徒会執行部にも属していた彼の姉は姿を消し、数か月前の夏休み明け、幼馴染である女子副会長さんが全校集会で全て暴露したことで彼の姉の無実が知れ渡り、糾弾した兄を含んだ生徒会は謹慎処分を受けた。結果、兄は実家に戻って来ていた。
…いや、知ってはいたけど、面倒だったから近寄らなかっただけ。家の中の雰囲気も悪いから、勉強はかどらないってことで朱堂家に居候してた。
一応、進路の話をするために戻ってきたら、緊急家族会議が始まった。
この数か月、なにをしてた。
重苦しい沈黙と美麗な顔を歪めた威圧感漂う父、諦めが入った視線を向ける取り柄は美貌だけの母、青白い顔で俯きがちな暗いオーラの兄。
…心底、帰りたい。
「芹香」
「はい」
「お前を跡継ぎにする。朱堂との婚約は解消し、九條の次男と婚約させる。心得ておけ」
「嫌です」
ふざけんなよ、バカ親父。
※※※
面子に嫌な予感しかせず、続く沈黙に意識を飛ばしていたら変なことを言われた。
え、本気?
「…お前に拒否権はない」
「いや、ありますよ。私、人間何で。明らかな人権侵害です。お言葉には気を付けた方がいいと思いますよ」
拒否権ない、とかあほか。
というか、朱堂との婚約は厳木から持ちかけたはず。それを一方的に破棄するとかありえない。
玲司さんは一人息子だから、婿養子は無理ってことなんだろうけど。
「というか、そもそも、どうしてそうなりますか」
「…聞く耳も見極める目も持たない聖一を、跡取りにはできん。それぐらいもわからんのか」
「言われないと分かりません。それに、さんざん、私の事をバカにして見下して蔑んでこられた方に跡継ぎにするなんて言われて喜ぶとでも? あっさり頷くとでも? 常識ある人間としてまずありえません」
…いや、なんで非難がましい目で見られるのかわからないんだけど。
え、真っ当な愛情を向けていたとでも思ってるの?
ありえない。
「というか、誰しも失敗はするんですから、一度の失敗で切り捨てるなんてどうかと思いますよ。しかも、まだ中学生です。起こしたことの責任はどちらかというと親にあるのでは? もちろん、本人に多大な責任がありますが。親としてすべきことは、切り捨てるのではなく躾けなおすことではないのですか?」
そういう私は兄より一つ下なわけだけど。
…信じられない、と言いたげな表情で瞳を輝かせてこっちを見ないでくれない? 別にあんたを庇ったわけじゃないし。跡継ぎなんてまっぴらごめん。私は朱堂に嫁ぐんだから。
「その失敗自体、お二人が原因では?」
「何だと?」
「物心つくかどうかという年から10年以上、肯定され続ければ人格も歪みます。何をやっても肯定され、賞賛され、黙認され、喜ばれる。中には、間違っていることも多くあったのに、誰も咎めない。そんな中で、まともな人間が育つと思うんですか?」
例えば、熱を出して二日休んだ使用人が復帰すると、蔑んだ眼差しで「体調管理もできないバカは寄るな」と言い放つとか。周りは遠ざけるだけじゃなく解雇しようとさえしたし。
ちょうど、私の面倒を見てくれていた使用人の一人が父が倒れたので家を継ぐってやめた直後だったから、私付きにしてもらったけど。
…心配する言葉の一つ、労いの言葉一つ、かけてもいいと思うんだよね。
「自分は間違っていない、自分のすることは正しい、自分に口答えする者が悪だ。そんな考えを植え付けるかのように言葉を与え続けたのは誰ですか」
黙ったってことは思い当ったってことか。
記憶力までバカになってなくて何より。
実は、壁際に立っているけど我が家の執事もこの場にいる。
私がちらっと視線をやれば気まずげに視線をさまよわせる。
まぁ、気まずいよね。私の事をさんざん罵倒してたのはあんたもだし。
「泣いている友人の為、泣かせた相手を責める自分は間違っていない。その相手を村八分状態にして孤立させることは正しい。自分の友人を泣かせる奴こそ悪だ。そうなってしまっても仕方ない考え方を植え付けて、教育を施したのはお二人とこの家に仕える大部分の人達、親族一同です。たかだか中学生に全責任を押し付けて自分達は被害者面するのはどうかと思いますけど?」
反論したければ反論してみろ。
思い当ることがある以上、あんた達には何も言えないだろ。
「お前が、それほど兄思いだとは知らなかった」
「はぁ? 何ありえないことをほざいてるんですか」
あ、ちょっと素が出ちゃった。まぁいっか。
どうして驚いた顔するのか、この兄は。自分の言動を振り返れ。
「別に庇ってませんよ。本人ばかりの責任じゃない、ていってるだけです。まぁ、バカな事しなければこんな事態に陥らなかったということで、心の底から恨んでいるし憎んでいるしいっそ殺してやりたいですね」
殺したら面倒だから、絶対にしない。
嫌がらせはするかもだけど。
「そもそも、向井 亮太、でしたっけ? 彼が姉に虐げられている、と泣きついたからと言ってどうして貴方が出るんですか。姉弟、ひいては家族の問題でしょう。赤の他人が口出しするなんて、何様のつもりですか。というか、彼を友人と言ってますが、姉の方は? 友人だったんじゃないんですか?」
他県、他校、でも情報は来るんだよ。
さっき言った、解雇されそうになった使用人の従姉の娘さんが兄と同じ学校に通ってるから猶の事。ついでに、同校の友人に凄まじい情報通がいるから。
…情報源は怖くて聞けなかった。それくらいに、情報通。
「同じ友人、片や1年以上学校生活を共にし、片や古い記憶の片隅にいるだけの存在。どちらが重いかは人によると思いますが、普通は、第三者として仲裁に入ることはあっても片方の味方になるなんてしてはいけない事でしょう。なにより、厳木の御曹司である以上、その言動には細心の注意を払わなくてはいけなかったはずです。軽率に過ぎる」
はっきり言って、このバカ兄が割って入らなければ、関係修復は出来たと思うんだよ。
夏休み明け直後の報道で、ある程度は読める。
「まずは家族で話し合うべきだったでしょう。それを嫌だというようだったら、仲裁役としてその場にいるだけにすればよかったでしょう。それらの提案もせず、片方の言い分を聞いて片方を一方的に責めるとか、跡取りとか以前に人としてダメですね」
何で睨まれなきゃいけないの。
結構なことを言った自覚はあるけど、事実でしょう。
「総合病院院長と知り合いで、モデルをしてる彼女が、どうしてあそこまで耐えたんでしょう? 彼の為じゃないんですか? それぐらい、彼女を知らなくても予想がつきます。訴える機会は何時でもあったはずです。保護を求めることもできたはずです。逮捕までは出来なくても、保護を受ける事だけは最低でもできたはずです。それをせず、彼の事を考えた結果、あの報道だったんじゃないんですか? それだけ献身的な人を、完全な悪だと思った理由が彼の証言以外にあるんですか」
「それは………」
「ないんですね。裁判で状況証拠が揃えば物的証拠が不十分でも有罪になるでしょうが、物的証拠がないだけではなく状況証拠が一つもない状態で有罪と判断するとかバカでしょう」
バカに可哀想な気がするけど、私の頭じゃバカ以外に当てはめる言葉が無いんだよね。
「こんなバカと比べられて、バカと見下され、無能と蔑まれ、我が家の恥と罵られ、努力を踏みにじられ、育児放棄をされて、それで庇うとかありえないでしょう。いっそ、自分で貶めてやりたいくらいですが、やりませんよ。面倒ですし。それに、良く言うでしょう? 因果応報、自業自得、人を呪わば穴二つ。自分のやった事は自分に返るんですよ。それを考えもせず、一方的に人を貶めて来た貴方方は、似た者家族です。私をそこに巻き込まないでくださいませんか」
「…なんて子なの。これがわたしの娘だなんて…っ。出て行きなさい! あんたなんかわたしの娘じゃないわ! 生まれた時から思ってたのよ! この子は、性質の悪い子だって! とっととどっかに養子に出しておけばよかったわ!」
…さすがに、真正面切って言われるときついね。
でも、これで私は自由になれる。
「分かりました。出て行きます。元より、私は長らくこの家に帰ってきていませんでしたし、朱堂家の方々はこのまま住めばいいとさえ言ってくださっていましたし」
「なっ…」
「あぁ、やっぱり気付いていませんでした? 私が家に帰っていない事。必要な荷物は偶に帰ってきて少しずつ持ち出していたんですけど、使用人すら私を空気扱いですからね。気付かなくても不思議ではありませんけど」
私の味方だった使用人の人達は、折を見て辞めて再就職している。…五人中四人が朱堂家に来て、再び私付きになってるとかどういうことだ。
「今日、帰って来たのは進路の話をする為だったんです。もう必要はなさそうですけど。縁を切るならどうぞ。朱堂家が弁護士を用意してくださっていますので、問題なく、つつがなく全ては終わると思います」
「…まさか、最初から」
「予定では、高校を出たら、と思っていました。こんなに早く、厳木から離れて朱堂に入れるとは思っていませんでした」
中学では厳木で通すけど、高校では朱堂で通そう。そうしよう。
「あぁ、そうそう。九條の方との婚約、そちらの事ですからとうに進めておいででしょうけど、そちらで処理してくださいね? 私は関係ありませんし。それでは、頑張ってください。今後、何らかの場で会うことはあるでしょうから、それまでお元気で」
必要な荷物は全て朱堂に移し終わっているから、もうこのまま帰ろう。
三人とも動かないし、何も言わないから、それでいいんだろうし。
「お嬢様…」
玄関で靴を履いていたら、いつの間にか背後に青い顔をした執事がいた。
「貴方にそう呼ばれるのは初めてですね。別にいつも通りに呼んでくださって構いませんよ? 残りかす、て」
もちろん、表では呼んでいない。
お嬢様、と呼ぶのがよっぽど嫌だったのか、私に呼びかける時のセリフには私を示す名詞が存在しない。
青を通り越して白くなっていく執事に、少しばかり溜飲を下げる。
「で、バカの才能の残りかすに、何か御用ですか」
「…っ、本当に、出て行かれるのですか」
「親にそう言われたんです。勘当、絶縁と同義では?」
「奥様は感情が高ぶっただけで…」
「つまり、つい口走ってしまった本音、ということですよね?」
もういいわけが出ないのか閉口する。
…言語能力低すぎない?
「一応、言っておきますが、先ほどの会話は全てボイスレコーダーに録音されてますから。朱堂の弁護士に提出します。ですから、後日、『話し合い』をしましょう、とお伝えいただけます?」
卒倒しそうなほどに顔色をなくしているけど、知ったこっちゃない。
何も言わないから、さっさと玄関をくぐって外に出る。
…門までが遠すぎる。朱堂も広いけど、厳木は倍は広い。無駄なことこの上ない。
というか、どうして私を引き止めようとしたんだろうか、あの執事。
※※※
「相変わらずだよな、芹香様の無自覚」
「全くだ。オレを助けてくださった時の芹香様を知っていれば、絶対に無能なんて言えない」
「あぁ、あのバカに濡れ衣着せられた時だっけ?」
「そうそう。うん千万の壺を割ったの、あのバカ付の使用人だったのに、そいつにオレが犯人って言われてあっさり信じやがったんだよ」
「確か、芹香様が、自分に付き合ってくれていたからついさっき帰って来たばかりだ、て言ってくださったんだよな」
「実際は違うけどな。休憩時間に外に出てたのは事実だけど、基本的に芹香様の部屋のある別館にいたし」
「それを把握したうえで、「私に関する仕事をしてくれていたんだから半分は間違ってないし、貴方がそんなことをして言い逃れするような人だなんて思ってないから」って…。かっけぇ」
「…あのバカも、信頼してるからこそだったのかもしれないけど、信頼のベクトルが違うよな」
「あのバカは盲信、だもんな。明らかに」
「僕の時なんか、明らかに人間扱いされませんでしたしね。それに対して、「人の心を無視して踏みにじるんだったらロボットでも使えばいいのよ。でも、体調が悪い時に無理をした貴方も悪いから、気を付けてね?」って、芹香様に微笑まれた時、ガチで天使がいるって思いました…」
「「「わかる」」」
「あのバカ、機嫌が悪いと人に当たり散らすんだよな。物投げられたこともあるし。一回、頭に当たって流血したってのに、避けない方が悪い、ってぬかしやがった」
「非常識…」
「まぁ、その後、芹香様が同じものをあのバカに投げつけて「痛い? 血が出た? でも、避けない方が悪いのよね? …手当てするから、こっち来て」、て。なんで芹香様がバカにされていたのかがわからない」
「ご令嬢らしくはないけど、人としてあのバカと比べるのが申し訳ないほどに立派だよな」
「「「確かに」」」
「あたしの時なんか、他人の恋愛ごとなのにあのバカが口出して来たからね。まぁ、職場恋愛で別れたのは空気を悪くしたって思うし、もうちょっと考えるべきだったとは思うけど」
「まぁ、確かに…」
「ただ、男の方に味方して、完全にあたしが悪いって責めて来たからかなり腹が立ったけど。あいつが浮気したのに、なんであたしが浮気したことになってんの? というか、証拠もなく決めつけんな、って」
「あのバカらしいっちゃらしいな」
「会う度に嫌味言われていい加減辞めようかと思ってたら、「婚約者に褒め言葉の一つも言えず、上から目線で放り投げるようにあげたプレゼントも頓珍漢な奴が、人の恋愛に口出ししてんじゃないわよ。そもそも、浮気したのはその男だし。なんだったら名誉棄損で訴えて、裁判にかける?」って、芹香様が…。もう一生ついていきます、って思ったわ」
「あ、それ知ってる。あのバカ、顔真っ赤にして黙り込んだんだよな。男の方はあのバカに嘘を吹き込んだって言うんで解雇されたよな」
「僕も知ってます。芹香様寄りの使用人一同、噴き出しましたよ」
「秋澤家のご令嬢だっけ? 7歳の時からずっと、誕生日プレゼントとか真っ当じゃなかったよな。自分が好きな作家の本はまだともかく、趣味でやってる乗馬の鞭とかはありえない。秋澤の令嬢は虚弱体質で生まれて、今でも運動は最低限以外禁止されてるって話なのに」
「相手の事を知りもせず、自分を押し付けるんだもの。婚約解消も仕方ないわよ」
「秋澤家の言い分が、「体が弱く、子供を産むことも難しいから」、て言う納得できることだから、すんなり終わったけど」
「まぁ、その後、九條の嫡男と婚約したよな、令嬢」
「な。というか、九條の事、あのバカ達どうしたんだろうな」
「ちくちく嫌味言われて、婚約話は簡単に潰れると思うわよ。なんたって、九條家が溺愛する末娘は芹香様の友人なんだし」
「…それを知らなかったのか? 同級生の名前ぐらいは把握しとけよ」
「さすがバカの代名詞」
「そういえば、バカ寄りの筆頭だった執事が、我に返ったのが意外だったな」
「遅すぎるけどな。芹香様の資質に気付いて、何とか引き留めようとしたみたいだけど、出来るわけねぇのに」
「あの家に留まるなんてありえないませんよね。自分を虐待した人間の道具になることを了承するほど芹香様は弱くないですし」
「全くだ。しかも、自分から追い出してるしな」
「バカに申し訳ないほどのバカだな」
「…思ったんだが、あのバカ、今回の一件以前に元からそうだったってことだよな。自分が信じたいほうだけを聞いて、見たいことだけを見て、自分を全肯定して動いて、一方的な感情を押し付ける。ガキの頃から変わってないってどうよ」
「確かに、そうね。中学生になったら、善悪の区別がついて当然なのに。それすら出来ないくせに、よく芹香様を無能と罵れたものだわ」
「無能が天才ともてはやされたがゆえ、ですね。結果、無能以下であることを自ら示したわけですが」
「…ひとまず、言えることは一つだな」
「「「「厳木家、ざまぁ」」」」
「さっきから何話してるの? 四人とも」
「「「大したことではありません。芹香様」」」」
「そ? 何か困ったことがあったら言ってね?」
「「「ありがとうございます」」」
「……気持ち悪いくらいにぴったりね。芹香親衛隊」
「…無自覚に信者を作り出すくせに、自分を上の下とのたまうとか、芹香さんも結構おかしいですわ」
語り手:厳木 芹香
一流企業総帥の娘であり、名門旧家朱堂家嫡男の婚約者。
中学では万年主席、運動も上位に入り、人当りもよく面倒も良い。
下級生にはお姉さまと慕われ、上級生には頼られ、同級生には心から信頼される。
本人、無自覚にかなりのハイスペック。
使用人達の名前は考えてません。母親の名前も。面倒だったんで。
最後の二人は、親衛隊発言・日向 紀子(作中の情報通。ちなみに少々裕福な一般庶民)とおかしい発言・九條 香乃子(作中の溺愛されている九條家末娘)です。
芹香にとって親友な二人。