おまけ小話
「真中。ライバル出現だ」
「な、なんだ? 急に電話してきたかと思ったら、冗談か?」
「冗談じゃねえよ。ライバルは二人。どっちもあいつの会社の奴だ。右城って上司と、前園って後輩」
「会社、だと? っくそ、俺は不利じゃないか!」
「まあ、どうせ結果は同じだから、そう嘆くなって。あいつも言ってただろ? 「ゲームは二次元に限る!」って」
「……どういう事だ?」
「あいつ、このままだと、『おひとり様エンディング』だぞ。お前ら全員、振られて終わりだ」
「なっ。そうなのか!? ただでさえ、俺の他にも攻略対象が居るって聞いて、動揺していたんだぞ!」
「ゲームだからな」
「は、薄情だぞ」
「まあ、阻止する手立てはある」
「どうするんだ?」
「お前ら全員で逆ハーレム作って、『生身の良さ』を分かって貰えばいい。一種のキャンペーンだ。別に今まで通り、甘ったるい乙女ゲー生活送らせてりゃいい。邪魔が入るかも知れねえが、まあ、ガンバレ」
「なるほど! 分かった。俺、頑張るぞ」
一気に声を明るくした真中に思わず笑いそうになりながらも、背後の存在に気を引き締めて、携帯の通話を切った。
「話は通った。約束通り、真中には関わるな」
「勿論だよ。彼女が幸せなら、何もしないさ。彼は優しい子のようだからね。ご協力、感謝するよ。それじゃあ、僕はこれで」
「ちっ」
あの契約からしばらく経って。
右城と名乗る男が接触してきて、自分ともう一人、女の会社の奴を含めて、あいつを取り巻く逆ハーレムを作りたい、と言い出してきた。
店の事も知られていて、黙っている代わりに、と言われれば仕方ない。
意外だったのは、あいつの選択を尊重する、と言った事。無闇に、真中や俺の邪魔をする事はない、と。
加えて、あいつが誰かを選んだ後の事には関与しない、と約束を交わした事だ。
目的は分からねえが。こうやって行動するだけでなく、それだけ深く想えるだけの価値が、右城にとってはあるって事か。
ライバル出現、ねえ。正に、ゲームみてえじゃねえか。
真中にはあえてゲームの演出として話した。どこまで本気で信じているかは分からないが、まあ、燃えていたからいいだろう。
元々のゲームの期限は、あいつが真中か俺を落とした「と思い込んだ時」、だったはずだが。こうなると、誰かがあいつを「落とした時」、になっちまったな。
電話を切って、ベランダの手すりに寄りかかり、夜空を見上げる。ここんとこ、店には出勤していない。
「真中、右城、前園、……か。あーあ」
まさか、あいつがあんなに消極的な上に。こんな、面倒な事になるとはな。
煙草の深く吸い込んで、ふーっと大きく吐き出した。
風が吹いて、煙が。あいつの小さなアパートの方へ、流れていった。