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GAME START?

「ここか……」

 オーナーに呼ばれた、あの日からしばらく経って。

 結局、二次審査をやらされる事になった俺は、そいつに出会った。

 と言っても、一方的に、だが。

 住所を頼りにする必要もない程、俺の住むアパートにほど近い、小さなアパート。

 部屋を出てきたそいつの顏を見た時、妙な既視感を覚えた。そして、すぐに気が付いた。

 掃除をしていたアパートの管理人に、挨拶を交わす、その笑顔。

 

 同じだった。

 受けた講義が重なった、俺のひとつ前の席。

 真中がぼんやりと眺めていた、ソレ。偶然、目に飛び込んできた、携帯電話に映っていた写真は。 

 目の前に居る地味な女の、笑った顏と同じだった。


 真中透は、俺の通う大学、いや、近隣全体で超有名な、美形中の美形の男だ。

 だが、アイツは、女嫌いでも有名だった。

 それでも自分に自信満々の女が、絶えず寄り付こうとしては、ことごとく袖にされていた。

 その真中が。なんで、あんなもんに引っかかるような、馬鹿な女の写真なんて。

 

 まあ、恋愛感情自体は、分からなくもない。

 俺も女が嫌いだが、初めからそうだった訳じゃない。

 俺だって、人並みに、初恋だってあったんだ。

 だが、当時の俺には、見る目がなかった。

 付き合う奴は、自分を高く見せる為に俺を利用する奴だったり、いくら言っても浮気を疑ってきたり。

 一見まともそうな女も、勝手にイメージを押しつけては、幻滅し、去っていった。

 悪かったな、王子じゃなくてよ。

 イケメンだから、なんでもこなせる完璧超人かと思っただ? 

 ふざけんな。こちとら、人間なんだよ。そんな奴がいたら、んなもん、見えねえトコで努力して身に着けてんに決まってんだろうが。

 

 常に減点方式で見てりゃ、分からねえだろうがな。

 

 ようやく見つけた、心を預けられる相手でさえ、突然別れを切り出し、転校していった。

 そいつは女同士の嫉妬を買って、影で、陰湿な嫌がらせを受けていた事を後から知った。守ってやれなかった事も合わせて、しばらくは怒りが収まらなかった。

 関われば関わる程、女ってもんが、嫌になっていった。

  

 過去を思い出してイラついてきた俺は、やっぱ女なんて、食い物にするくらいで丁度いい、と思い。ふと、真中の目を覚ましてやった方がいいんじゃねえか、と、真中とコンタクトを取る事にした。

 実は家族でした、ってオチもあり得るからな。


「で、な。笑った顏が、見てると、なんでか、すごくほっとするんだ」

 短い時間で意気投合した俺たち。話した結果、あの平凡女は、赤の他人だった。

 その女を語る真中の目には、星が瞬き、頬が仄かに上気している。嬉しそうな顏は、実に活き活きしていた。

 おお。遠くから携帯電話構えてる奴がごろごろいやがる。んな遠くじゃ、ピント合わねえだろ。威圧しといて正解だったな。

 それはそうと。

「話しかけねえのか?」

「何度か、そうしようとはした。だが、反応が怖くて躊躇してる間に、彼女は行ってしまうんだ」 

「反応が怖いって。お前、乙女だったんだなー。んな事してる間に、横からかっさわれちまうぞ」

「っ。そ、れは……」

 しょぼくれた顏に、あからさまに動揺する顏。この数分で、見たことのない顏がぽんぽん出てくる。

 ギャラリーの奴ら、すげえ望遠レンズのカメラ持ち出しやがった。ちっ。金取りてえ。

 しっかし、ねえ。あの、真中に。こんな顏をさせるなんてな。

 

 試しがいがあるってもんだ。

 

 にま、と笑って。

 俺は、真中に一つ、提案をしてみた。

 そいつに、恋愛対象として、攻略されたくないか。俺が、きっかけを作ってやるよ、と。

 真中は目をぱちくりと瞬いて、直後、こくこくと首を縦に振った。よーしよしよし。嬉しそうで何よりだが、まだ分かんねえからな~? 


 俺はオーナーに許可を取り、この女の担当を任せてもらう事にした。

 件の、『乙女ゲーム』を利用する為だ。

 まずは、コレが俺の作戦だと思っている真中――お前すごいな、と目をきらきらさせていた。なんか、すまん。――を、ゲームの攻略対象としてあの女の所に送り込む。

 女が、何も考えず話に乗ってくるような馬鹿女だったら、すぐに真中にゲームの真相をバラす。

 頭に花を咲かせた女に幻滅して、真中も目を覚ますだろう。真中も、期待と猜疑心が半々くらいのようだから。

 俺の一番の目的はそこだ。真中が目を覚ませば、もう女に用はない。最初の選択ミス、バッドエンドだっつって、はい、さよ~なら~、だ。

 

 だが、もし。

 真中の語るように、アンケートからも分かるように。例えば、何かの調査が目的で応募しただけの、本当は、優しく、思いやりのある女なら。

 すぐに話に乗ったりせず、ちゃんと考える頭があるのを見せれば、チャンスをやる。

 もちろん、女にじゃない。真中に、な。

 女が真中を相手にゲームをするように仕向けて、『甘い生活』とやらを送らせてやろうじゃねえか。

 真中の為の目的が果たせれば、それでいい。ゲームが終わろうが続こうが、どっちにしろ、店への勧誘はナシだ。適当にごまかす。

 

 いつも見る真中の顏は、眉間に皺を寄せた仏頂面で、心からの笑顔なんて、見た事がない。

 それがあの輝きに変わるくらいだ。友人として、応援してやりたくもなるってもんだ。

 どのみち、真中にとっての不利益はない。

 どう転ぶか。

 

「イケメンをお届けにあがりました」


 ――さあ、ゲームスタートだ。


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