フレンド
『ばっっっっっかじゃないの!』
怜子は怒っててもかっこいいなぁ、他人事みたいにそんな見当違いな事をぼんやりと想った、それを言うと彼女はいやがるけど、彼女の凛々しい眉毛の角度が私は好きだ。
『今更会いたいって何を考えてんだよ?腹立つなー』
うん。ね
私はあいまいな返事をしながら、残りわずかなレモンティーをストローですする。
怜子が私に怒ってるわけじゃない事はわかってるけど、なんとなくいたたまれなくなって自然に背中が丸くなる。
奴が何を考えているかなんて分からない。
3年前に初めて知り合って、2年間付き合って、『他に好きな奴が出来たから別れたい』って言われたのが半年前、それから何も連絡なくて、『もう一回会いたい』とか言われたのが三日前。
思えばこの3年間ずっとあいつのことばかり考えてる気がするけど。あいつが何を考えてるかなんてわかったためしがない。
あいつはいつだって自分勝手で私はずっと振り回されて、それでも、それでも、それでも…
私は氷しか残ってないレモンティーをぐるぐるとかき混ぜる。
『まさか会いに行く気じゃないでしょ?』
怜子が問い詰めるように私に尋ねる。
うん。
YESともNOとも取れるあいまいな答え。
YESともNOとも言えないあいまいな私の心。
『自分が何されたのか分かってるの?』
わかってないのかもしれない。たぶんひどい事をされたんだろうって事はなんとなくわかるけど。悲しいって気持ちと、それでもまだ好きだって気持ちが大きすぎて私の頭の小さな容量ではそれ以上の情報はうまく処理出来ないのかもしれない。
『もし、万が一やり直して、幸せになれると想う?』
たぶんなれない。頭の悪い私でもなんとなくわかる。よくわかんないけど愛されてすらいないかもしれない。でも、だけど、それでも
『あんただってさ、好きだって思い込んでるだけだよ。勘違いだよ』
だけど、もしもこの想いが嘘なら、この胸の痛みが単なる勘違いなら、私は一体何が本当の事なのかわからなくなるよ、一体何を信じたらいいか分かんないよ。
いろんな事が頭の中に浮かんでは消える。何も言えずにただうつむいていると怜子の呆れたような溜め息が聞こえた。
『ねぇ。』
怜子の声が寂しげで私は顔をあげる
『もうやめなよ』
彼女の凛々しい眉毛が情けない角度でたれさがる。
『あたしもうあんなのは嫌だよ』
以前私があいつに振られた時ぼろぼろになった私を助けてくれたのは怜子だった。私がこんなにも早く普通に笑えるようになったのは怜子がずっと支えてくれたからだ。
お礼がしたいと私が言ったら
『亀みたいな奴だな』って笑われた。
せめて鶴と言ってください。
むくれて私が訂正を求めると『お礼とかはいいからさ、変な男にひっかからないで幸せになってちょーだいよ。頼むから』そういって子供をあやすみたいに私の頭をグリグリなでてくれた。
あの時幸せになろうって誓ったのに、なんであたしはこうなんだろう、病気なのかもしれない、きっとくるくるパーなんだ、あいつへの気持ちと怜子への気持ちがぶつかりあってまたも私の頭は簡単に容量オーバーしてしまう。
泣くつもりは全然ないのに涙がポロポロとこぼれる。
『もう、私が悪役みたいじゃんかよー』
怜子は不満そうに言いながら、泣きじゃくる私の頭をグリグリなでてくれた。
『まだそんなに好きなの?』
私は声も出せず泣きながら小さくうなずく。
『あったまわるいよなぁー。もう』
諦めたようにそういって怜子は私を抱き締めてくれた。
涙と鼻水まみれの顔が怜子の胸に押しつけられる。
あたしね、怜子みたいな男の子を好きになれればよかった。
私が言うと『やめてくれ気持ち悪い』心底嫌そうな声で怜子が答えた。
じゃあお母さん。
『余計勘弁』
そういってギュッと抱き締めるから私の顔は怜子の柔らかな胸におし包まれて、苦しくって、暖かくって、なんだか涙が止まってしまった。
本当は怜子がゆうように、もっと幸せになれる相手と幸せになるべきなんだと思うよ、でも私は馬鹿だからどうしてもあいつのことが忘れられないんだ、どんなにひどい目にあってもやっぱり好きでどうしようもないんだ。
ごめんねとありがとうを三回づつ心の中で唱えてから頭をあげると、ほんとにこいつはしょーがないよなって呆れた顔で。
それでも怜子は無理やり笑ってくれた。