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9/12

下がってて

 出だしの部分は、遠くから神の視点で眺めている感じを出したかった。今一な出来だったけど。

 いきなり戦っているシーンから入ったのは大して意味は無い。強いて言うなら出だしに変化を付けたかったから。

 戦闘時とそれ以外でマイの態度が少し違うのは、軽い伏線のようなものだと思っていてください。多分本編で理由を説明することはないけど。


 前回のあらすじ:何とか魔物を引けた一義たち、しかし一義はチート能力を制御しきれず、マイに怪我を負わせてしまった。

 まるで世界全ての時間が止まってしまったようなその場所で、止まらずに動いている影が、4つ。

 一際大きな影は、歪な姿をしていた。綺麗な若草色の身体、横に長い細い胴と、何本もある細い脚、そして内側に向けて棘のある特徴的な前脚。全長3メートルほどある巨大なカマキリのような姿をしていた。

 残りの3つは、人の姿をしている。

 いや、その中で1番小柄な影は、よく似ているが人間そのものの姿ではない。山羊のような反りのある角の生えた少女だった。

 影たちは、戦っていた。もっと言うならその内の2つがぶつかり合っていた。

 カマキリの化け物と、小柄な少女、不釣合いな2つの影は、一見すれば互角の戦いを演じているように見える。

 だが、よく見れば互角ではない、少女が押されていた。

 少女の着込んだクリーム色の服は、所々赤く染まり破れているところもある。

 一見図体が大きいばかりで、細かい動きに対応できないように見えるカマキリは、その大きすぎる鎌だけでなく、脚の1本1本を使って少女を追い詰めている。

 なぜか、前脚の鎌だけでなく、細い脚に触れただけでも少女の生傷は増えていく。

 その戦いを眺めるのは、残っている2つの影。

 片方は、まだ少年といっても良い年齢で、二つの異形同士の戦いを、ケータイを片手に余裕を持って観戦していた。

 もう片方は、青年と少年の間くらいの見た目で、ケータイを両手で握り締め、顔色が悪く、汗も大量にかいている。

 少女は、傷が増えるのも構わず、カマキリの腹の下へ潜り込むと、そこに手を翳して言い放つ。

「スキル!」

 少女の、青年は手のなかにあるケータイのボタンを押し込んだ。


『IMPACT』



 

 昼、まだ日も高い時間帯、スーパーから、お惣菜パンの詰まった袋を手に1人の青年が歩いて出てきた。その顔は、傍から見ても、何か思いつめているようにも見える。

 しばらく、袋を手に突っ立っていた青年だが、やがて、心ここにあらず、といった表情で歩き出した。

 一義は、気分が晴れなかった。

 結局、また公園に連れて行くという、少女との約束も果たせていない、それどころか、あれから話してもいない。一方的な罪悪感とはいえ、今あの少女と話すのは気まずくて仕方なかった。

 とは言っても、まだあれから一週間も経っていないので、まだそこまで大事ではないのだが。

 次、戦うときまでに、こんな気持ちは何とかしなければならない。……次、戦うなら。

 そう、本当に自分が戦って良いのだろうか。勿論戦うしかない、それは解っている。

 だが、このままの自分が戦いに参加していて良いのだろうか。そう一義は思う。

 自身には何か、決定的な物が足りない、そう思えて仕方ない。

「……」

 だがその足りないものは、自分の中を探しても見当たらない、形も色も掴めない。

 一義は、もはやおなじみと言っても良い動作で、ケータイを開き、例のメニューを表示する。


『SP719』『残り422』


 この数字は、自分の命だ、そして、あの少女の命でもある。

 それを、自分が、握っている。

「……」

 一義は、急に見ていたく無くなってケータイを閉じた。

 逃げ出したくなった。戦いからではなく、少女から。

 戦いから逃げれば少女は死ぬ。しかし、戦い続けても、きっといつか死ぬ。

 一義は最後まで勝ち残れるとは思っていない、そのつもりもない。いずれ自分が傷つかないように負ける、そんな考えで少女の傍らにいることが、許されない事のように感じた。いや、感じた、ではない、許されないのだ。

 最初から、見捨てるべきだったのだろうか。それは違う、例えどんな結果になっても、何もせず切り捨てることよりは良い筈だ。

 今、もう嫌だと逃げるべきだろうか。それもいけない、自分が勝手に迷って、勝手に嫌だと感じているだけのことなのに、それをあの少女に押し付けるのは、違う。

 ならどうすれば良いのだろうか。

「……ん」

 一義は閉じたケータイをもう一度見つめる。

 どうすれば良いか、そんなことは決まっている、判っている。自分が迷わなければ良いのだ。

 今度こそ本当に戦いと、彼女と向き合い、せめて出来るところまでは自分も全力を尽くす。そう言えば良いのだ。

 しかし、一義にとってそれは容易ではなかった。

 きっと怖いのだろう。他人事のようにそう思う。

 正体の掴めない不気味なゲームが。人の息吹の感じられないあの空間が。パートナーという得体の知れない異形達が。戦いの中で自身が傷つくことが。手違いで誰かの魂を傷つけることが。あの少女を戦いの中に放り込むことが。自分のせいで戦っている彼女が傷つくことが。全力を尽くすなどと言って置きながら、きっとまた言い訳をして逃げ出すであろうことが。

 そして、そこに行ってしまえば、きっと引き返せなくなる。今いる場所と隔てるように自分の中に壁が出来る。

 その壁は、きっと強固ではない、しかし、後ろ歩きの自分では突き破ることも出来ない。

 今ならまだ、苦しくても、痛くても、嫌でも、切り捨てることが出来る。引き返せる。

 きっと今、自分はギリギリの場所にいる。戦うか、逃げるか。

 今すぐに決めなければならない訳ではない、しかし、自分が自然に決められるまで待っていたら、少女は、もういなくなっている、そんな気がする。

「…ぁ」

 一義は突如鳴り出したケータイに、思考を中断する。

 いつの間にか、だいぶ住処の近くまで来ていたようだ。

 一義は周りを見回す、周囲には人はそれなりに居るが、ケータイの着信音は聞えない。だが、マナーモードと言うこともある。

 誰かから普通に連絡が来ただけか、それとも……。

 息を止めて、ケータイを開こうと手をかける、いや、かけようとした、その瞬間。


『GAME START』


 電子音声が聞えた。

 吐き気がして、一瞬で収まる。

 一義が立っていた場所は全く変わらない、だが、変わっている。そこは、今まで2度訪れた戦いの場だ。

「…えっ?」

 一義は、状況が飲み込めず、小さく声を漏らす。

 何故、いきなりここに居るのか。

 一義が首をめぐらすと、1人の少年が視界に映った。

 一義よりも2つか3つ下だろうか、一見すればどこにでも居るような、ちょっと地味な少年だ。その少年は、表情を引き締め、ケータイを片手に一義に視線を寄越している。

 誰だろうか、いや、ここに居る以上彼もプレイヤーなのだろう。そう考えた一義は、とにかく声を掛けてみよう、と口を開いた。

「あの、君…」

 だが、まるで一義の言葉を遮る様に、少年がケータイのボタンを押した。

 

『CALL』


 その瞬間現れるのは、黒いエンブレム。模られているのは、昆虫の頭部のような歪な逆三角形、カマキリの顔のように見える。

 一義はようやく、少年が戦うつもりだと言うことを、自分をここに連れて来たのが彼であるということを、飲み込んだ。

 よく考えれば解りそうな事だったが、今まで、と言っても2回だけだが、一義は戦う前に声を掛けるか、掛けられるかしていた。だが、このゲームには、戦う前に挨拶をしなければいけないなどと言うルールがあった覚えはない。

 不意打ちでもなんでもなく、それが許される戦いなのだと、一義はこのときやっと気づいた。

 少年の横のエンブレムから、窮屈そうに姿を現したのは、巨大なカマキリそのものだった。

 不気味なほど大きい複眼、細かく動く顎、細く柔らかそうな関節。

 さほど近くでもないのに、その大きさから見ることが出来た昆虫の細部は、グロテスクなようにも、美しいようにも見える。

 待機しているカマキリの横で、少年は何かを待つように、いっそ不思議そうな顔で、動かない一義を見つめてきた。

「呼ばないんですか?」

 一義は、その少年の言葉に、呼びたくない、そう返したかった。

 だが呼ばない訳にはいかない。ずっと頭の中で渦巻いている後悔や、罪悪感が消えた訳ではない、しかし、一義はもうここに来てしまっている。戦わなければいけない、少女に戦ってもらわなければいけない。

  一義は少年を見る、出来れば今は戦いたくはなかった、何故よりによって今なのか、そうも思った。しかし、それで彼を責める事は出来ない。責められるべきは一義自身である、それが判っているから、一義は、ケータイを開く。


『CALL』


 彼女を呼び出すのは3度目だ、だが、彼女を呼ぶ度何か大切なものを失っている、そんな気分になる。

 一義の横のエンブレムから現れたマイは、状況を一瞬で理解すると、一義に一言もかけずに、カマキリを睨み付け一歩前に踏み出す。

 マイを呼び出したは良いが、戦う前に何か一言少年に言った方が良いだろうか。などと一義が考えていると、少年のほうが先に動いた。


『SHARPEN』


「メルタ、行って来い」

 少年の言葉が響いたと同時に、カマキリがその複数の脚を器用に動かし、音もなく一義達の方に向かってくる。

 マイも無言のままカマキリを仕留めるべく飛び出して行く。

 それに対して、一義は相手が最初からスキルを使ってきたことに驚いていた。

 今まで戦ってきた二人は、いざと言う時までスキルは使わなかったと言うのに、今対峙している少年はまるで出し惜しみせずスキルを発動させた。

 スキルを使うと言うことは、SPを消費すると言うこと。SPを消費すると言うことは、寿命を削っていると言うことである。

 それを躊躇いなく実行する。

 いきなり戦いを仕掛けてきたことといい、この少年の戦いに対する姿勢は、今までの相手とはまるで違う。

 一義は警戒にも嫌悪にも似た感情で、少年を見る。

 もしも、戦いにこれだけ積極的な彼が、プレイヤーを傷つけることに躊躇いがなければ、自分も危険ではないのか。先ほどはパートナーを呼ぶのを待ってくれたが、不利になれば自分を狙ってくるかもしれない。

 一義は、そっとケータイを握り締める。

 今は彼が、そんな人間でないのを祈るしかない。

 そして、一義は先ほど少年が使ったスキルがどんなものなのか、それを考えようとした時、2体のパートナーが接触を果たす。

 こうしてパートナー同士が対峙するたびに思うが、マイはやはりあまり強そうには見えない。勿論見た目では判断できないことも、一義には判っている、今まで彼女は勝って来たのだから。

 カマキリがその棘のある前脚を振り上げようとするのを、マイは棘の付いていない外側を、片手で押さえつけることで止めようとする。

 そこで一義は、自分がスキルの画面を表示していないことにき気づき、慌てて開こうとする。

 スキルは一義たちにとって生命線だ。もしも今マイが、カマキリの前脚を吹き飛ばそうとスキルを要求してきても、一義が反応できなければ、大きな隙になってしまう。

「っつ…!」

 だが、マイはカマキリの前脚に触れたところで、手を引っ込め自らもカマキリと距離を取る。

 焦りながらもスキルを表示した一義が、何事かとマイに眼を凝らせば、マイの手、カマキリの前脚を掴もうとした手から、血が滴っている。

「なんで……!」

 一義は驚いてカマキリの前脚を確認する。だが、先ほどマイの掴もうとしていた場所は、棘などもなく綺麗なもので、どう見ても触れただけで怪我を負う様には見えない。

 そこで一義は、先ほど少年が使ったスキルを思い出す、もしかすればそれが原因ではないだろうかと。

 あのスキルを使ってから、目で見える変化はなかったが、それを使ってからカマキリを動かしたと言うことは、何かしら戦いに有利に影響するスキルと言う事なのだろう。

 詳細は解らないが、触れると切れるスキルとかそう言う物なのかも知れない。

 それに思い至った一義は、前回の戦いで使用したナイフなら、そのスキルに対抗できるのではないかと、マイに対し口を開く。

「ねぇ、こっちもスキルを…」

「合図したら使って!」

 マイの声に一義は押し黙る、戦っているのは彼女であり、戦いを知っているのも彼女である。何か考えがあるのだろう、と頷いて邪魔をしないように後ろに下がる。

「……解った」

 一義の言葉を聞いたからなのか、マイは再びカマキリに突っ込んでゆく。

 突っ込んで行くとは言っても、流石に再び前脚には触れようとはしない。

 カマキリの横に回りこむように駆けて行き、その長い腹に拳を叩き込もうとする、だが、カマキリの細い脚が、マイの動きに合わせるように器用に動く、その脚に阻まれ、マイはまた腕を慌てて引いた。

 しかし、少し触れただけだと言うのに、マイの拳はきれいに切れており、血が溢れ出している。もし直撃しようものならこれでは済まないだろう。

 マイがその手を眺め、どう攻めるか考えていると、カマキリは今度はこっちの番だ、と言わんばかりにその細い脚を、棘のある前脚を振り上げ、マイを捉えようとする。

 当然マイも逃げ徹して避けようとするが、カマキリの脚は一本ではない。前脚も合わせて6本、どんな位置に居てもマイの姿を追いかけてくる複眼と、自在に動き回る脚から逃げ切るのは、至難の業だった。

 実際、カマキリが脚を踏み出す度、その鎌を振るうたび、マイに刻まれている傷は増えてゆく。

 マイは顔を顰め、カマキリの脚から逃げ惑いながらも、活路は既に見出していた。

 先ほどから、逃げ回りながら何度か、カマキリの腹や胸に、手を掛けようとすれば、まるでそこを庇うような動きで阻んでくる。

 恐らく、この鬱陶しいスキルの効果は、カマキリの脚にしか及ばないのだろう。

 近づき難いが、突破口は相手の腹の下である、マイはそう考えていた。

 マイがカマキリの脚を避けながら、横目で確認すれば、一義はケータイを両手で持ち、不安そうな顔で戦いを見守っている。

 腹の下に潜り込めば相手は無防備になる、行ける筈。マイはそう思い、カマキリの前脚が肩を掠めるのも構わず、カマキリの腹の下に滑り込む。

 そして、見るからに軟らかいその腹に手を押し付けると、自らの必殺の一撃を放つため、一義に聞えるように吼える。

「スキル!」

 マイの声に、一義はケータイのボタンを押し込んだ。


『IMPACT』


 しかし、静かな世界に轟音が響くことはなかった。

「飛んだ!?」

 一義は、上を仰ぎ見て、驚きの声を上げる。

 カマキリが、その薄い透明な羽を広げ飛んでいる。

 さほど高く飛んでいる訳ではない、むしろ跳んでいると言った方が近いとも感じる。緊急脱出手段なのだろう。

 その場で留まることは出来ないのか、カマキリは下にいたマイも、一義も飛び越えて、真っ直ぐ飛んでいく。身体が大きいために、少しだけ飛ぶという事が出来ないのかもしれない。

 だが、今は人が居ないとはいえ、一義たちが戦っているのは、元はいたって普通の通りである、建物もあれば、電柱もある。直線にしか飛べないカマキリが、羽など広げていれば、至る所にぶつけ、最悪羽が折れててしまうだろう。

「…えっ!?」

 だが、そうはならなかった。

 確かにカマキリの羽は様々な場所にぶつかった、電線、店の壁、電柱、街灯、しかしカマキリの羽はそのことごとくを、切り刻んでいった。

 恐らく、先ほどからマイを苦しめているスキルの効果には、カマキリの羽も対象に含まれていたのだろう。

 今までは、避けてきたから良かったものの、今見せ付けられた切れ味は、一義に真っ二つになった少女の姿を予見させるには十分だった。

 一義たちの向こう側、丁度主人である少年と、一義たちを挟むような位置に、降り立ったカマキリは、いっそ優雅にすら感じる動きで、一義たちのへ身体を向ける。

「……どうしよう」

 今まで以上に勝てるかどうか不安になってきた一義は、傍らに戻ってきた少女に問いかける。もはや、戦いが始まる前は、少女を戦わせたくない、などと考えていたことは頭にない。

 マイはそんな一義に、一瞬だけ視線を寄越すと、カマキリを迎え撃つべく踏み出しながら口を開く。


「あなたは、下がってて」

 マイは現在一義のことをあまり信頼していません。それどころか、軽く使えないと思ってます。



 今日のパートナー:メルタ

 

 大きなカマキリ。それ以上でも以下でもない。

 身体は大きいが、意外と細かな動きが得意で素早い。最大の弱点は脆い事。

 地味だがいやらしいスキルが多く、上手く接近戦に持ち込むのが勝利の秘訣。

 モデルはカマキリ。

 趣味はスキー。


 

 今日のスキル:シャープン


 カタカナに直すとちょっと間抜けな響きのスキル。

 6本の脚と羽を、刃物のように触れたものが切れるようにする。

 切れ味は非常に良い、というより、相手の強度に関係なく触れれば切れるので、同じような性質を持ったものでなければ受けられない。例:マイのナイフ

 持続時間は5分、とってもリーズナブル。

  

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