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差し出せばいい

 …と・・・を間違えて使っていた。恥ずかしい、後悔している。気が向いたら投稿してある文も直す。


 前回のあらすじ:デビルサバイバー面白いよね

「えっと、それでその……」

 1時を少し回ったころ、ハンバーガーショップの片隅で、一義は気まずそうにまだ温かいチーズバーガーを手で包み、向かいの席に座る女性に話しかける。

「岡崎さん…?あの、話って……?」

 つい先ほど一義に声を掛けた女性の名前は岡崎佐貴子(おかざきさきこ)。逃げることも断ることもできずに、「私はお昼まだなんだけど、君は?」と言う言葉に流されるままここまで来てしまったのだ。だが、結局肝心の話とやらはここまで話題に上がらず、仕方なく一義のほうから切り出すことになった。

「ん、ちょっと…まって…。……それなんだけどね、私もあまり考えてなかったのよ。どう切り出すかとか」

 頬張っていた照り焼きバーガーをコーラで流し込むと、岡崎は呆れた様な顔で一義に笑いかける。

「いや、考えて無かったって……」

「それじゃあ、何が訊きたい?」

質問を質問で返された一義は、年長者、しかも女性と話をしていると言う状況に、必要以上に緊張しながら言葉を紡ぐ。

「別に、こっちから聞きたいことなんて…」

「あるでしょ?」

 一義の言葉にかぶせるように岡崎は言い、食べかけの照り焼きバーガーを置くと、紙ナプキンで手を拭いた後、ポケットからケータイを取り出し、一義に広げて見せた。

「例えば『これは何なのか』、とか」

 その液晶には、背景は違うが一義のケータイに入っているものとほぼ同じ、例のメニューが表示されている。

「…っ、それって」

 身構える一義に対して、岡崎は敵意の無いことを示すようにケータイを閉じポケットに仕舞った。

「私は別に今君と戦うつもりは無いよ。弱い者苛めは嫌いだから」

「…はぁ」

 未だに警戒を解かない一義の態度を気にした様子も無く、岡崎は再び問いかける。

「それで、何か訊きたいことがあるんじゃない?まぁ、『誰が何のためにこんなことをしているか』とか『どうしてこんな事が可能なのか』とかは私も知らないんだけど」

 本当はさっさと忘れたいことだったので「無いです、帰りたいです」と言いたいところだったが。それができる雰囲気ではない。それに全く気にならない事ではない、仕方なく一義は口を開く。

「あの…あれ、さっきいきなり勝負とか言われたんですけど、なんだったんですか?」

 本当はそんなことが訊きたいのではなかったのだが、咄嗟に口から出てきたのは、そんな質問だった。

「ああ、見ていたよ君の戦いは。彼はSPに余裕が無かったんだろう、昨日私にも仕掛けてきたからね。まぁ、そのときは逃がしたけど」

「いや、そのSPがどうたらとかから解らないんですけど」

 さも当然と言うように答える岡崎に、一義は困ったように聞き返す。そんな一義に、こちらも困ったような顔で岡崎が小さくため息をつく。

「…ふぅ、それじゃあ。君が始めてそのアプリを開いたとき、長ったらしい説明があったでしょ?覚えてる?」

「はぁ、それなら……」

 本当はほとんど覚えていなかったのだが、一義は空気を呼んだつもりで頷く。

 確か、パートナーがどうのSPがどうの戦いがどうのとか書いてあった気がする。と一義が内容を思い出そうとしていると。

「それが、ほぼ全て現実のことだと言ったら」

「……は?」

 岡崎の言葉に、思わず間抜けな反応を返す一義。もう少しだけ思い出すことのできた昨日の説明には、魂が喰らい尽くされるとか、願いが叶うとか書いてあった気がする。

「いや、ありえないでしょ。魂がどうとか、願いが叶うとか」

「どうしてありえないって思うの?」

「どうして、って……」

 否定の言葉を即座に切り返され、戸惑ったように言葉を探す一義に岡崎がさらに畳み掛ける。

「君の言いたいことは大体解る。『ありえないから』『おかしいから』そうとしか言えないわよね。でも、君の目の前では実際にそのありえないことが起こった。受け入れがたいかも知れないけど、今はとにかく素直に私の話を聞いて。これは君にとって、とても大事な話なの」

 諭すような言葉と共に岡崎にまっすぐ見つめられ、一義は雰囲気におされ頷くしかなくなってしまった。

「ありがとう。……さっきも言ったけど、君が見た説明はぼ全て現実で起こることよ。ケータイでデータをやり取りするだけのゲームじゃない、魂がどうのって話も含めてね。」

 テーブルに置いてあった照り焼きバーガーを再び手に取り話し始める岡崎に、一義もなんとなく姿勢を正す。

「だけどそこには書かれていないことがある。これが何より大事なことなんだけど、戦闘でプレイヤーが倒れた場合、そして戦闘中以外でSPが尽きた場合、プレイヤーはどうなるのか。……単刀直入に言えば、死ぬわ」

 先ほどおとなしく聞いていると頷いたばかりだと言うのに、一義はなんとなく周囲を見回して誰も近くに居ない事を確認した後、身を乗り出して訊いていた。

「…本当に?」

「本当に。もっと正しく言えば死ぬことになる(・・・・・・・)。その場ですぐに死ぬわけじゃない、事故か病気か、とにかくその日の内に死を遂げることになる。少なくとも私が知っている限りではそうね。偶然で片付けるのはちょっと難しい数だから」

 一義は、難しい数というのがどれくらいなのかということも気になったが、それ以上に先ほど別れた男性のことが気に掛かり、その顔色を思い出して背中にじんわりといやな汗が浮かんでくる。

「……もしかしてさっきの人も?どうしてそんなことが…」

「彼なら大丈夫、魂に傷1つ付いてなかったしね。パートナーを倒されて脱落したならなら死にはしない」

「そ、そっか、良かった。…でもあの、魂って?」

安堵すると同時に湧き上がってきた新しい疑問を口にする一義に、岡崎は少し考えてから口を開く。

「んー……。私も便宜上そう呼んでるだけだから絶対に正しいとは言えないんだけど。単純に霊魂とかそう言うモノも含めて、人が生きていくために必要な『何か』、寿命とか、気力とか、あるいは運とか、そういう物の塊なんじゃないかと思ってる。パートナーは魂だけの存在で、存在するにはSPが必要って書いてあったでしょ?SPが無くなって死ぬのはパートナーが不足分をプレイヤーの魂で補おうとするからだと思う。……それと、戦いが始まったとき周りがおかしかったでしょ?」

「はい…」

 確かに普通じゃなかった。と一義はあの不気味な状態を思い出しながら頷く。

「その空間、私は簡単に『フィールド』って呼んでるんだけど。そこでは時間経っても、物が壊れても多少怪我をしても、どれだけ遠くへ移動しても、戦いが終われば全て元通りになっている」

一義は、綺麗さっぱり消えていたクレーターのことを思い出す。

「私は、そのフィールドは人の魂だけが存在している空間なんじゃないかと思うの。だから、そこで死ぬほどのダメージを負えば魂が消滅していずれ死に至るし。魂だけの存在であるパートナーも実体を持って戦うことができる。……まぁ、良心の問題なのか戦闘でプレイヤーを狙ってくるのは少ないけど」

 実際は半分程しか頭に入っていないのだが、なるほど、と相槌を打ちながらだんだんと落ち着いてきた一義が訊く。

「それで、パートナーって?」

 一義は、本当は訊かなくても大体の見当は付いていた。先ほどの男性ならエンピオと呼ばれたあの大きな猿、そして自分のパートナーは恐らく山羊の角の生えた少女であると。案の定、岡崎の語った内容はそれを裏付けるものだった。

「君達があそこに行ってから呼び出した子達が居るでしょ?それがパートナー。まぁ、これについてはほとんど最初の説明の通りだから、補足することも無いんだけどね。私たちの相棒であり死神よ」

 そこまで話したところで、あの少女が怪我をしていたことを一義は思い出す。

「あの、そのパートナーが怪我してたみたいなんですけど、どうすれば…」

「どうもしなくていいわ、そもそも現実では触れることもできないし。戦いが終わればダメージもリセットされるはずだから、大丈夫だと思うけど。心配なら話してみれば?」

「話すって……どうやって?」

「呼び出した時に押したコールってボタンがあるでしょ?フィールドに居ないときにそれを押せば話ができるわよ。……君のみたく喋れる子じゃないとほとんど意味無いけど」

 岡崎の言葉に早速ケータイを取り出し例のメニューを開く、一瞬躊躇ってからコールを押す。

「……」

何も起きなかった。一義が無言で見つめれば、岡崎は「なにやってんの」と言わんばかりの声音で言う。

「電話見たいに耳に当てないと話せないよ」

「えっ、あっ、そっか」

 勝手にテレビ電話みたいな物だと思っていた一義は、少し顔を赤くしつつケータイを耳に当てた。

「…えーと、もしもし。…居る?」

『居るよ』

本当に聞えてきた少女の声に、ビクッとしながら言葉を続ける。

「あの、大丈夫?怪我とか、あのそれに、なんか……」

『怪我はもう治った。大丈夫』

上手く言葉を見つけられずに言いよどむ一義の耳に、不鮮明な少女の声が届く。

「そ、そっか。ならいいんだ、ありがとう」

『話はそれだけ?』

「うん、一応無事ならいいんだ」

 本当は良くなかった。一義が訊きたかったことはそれだけではなく、猿を殺させてしまった事についてとか、なんだかよく判らないが戦わせてしまったことについてとか、そういったことについて何か言いたかったのだ、だがその何かが解らない。

 こんな自分よりも幼い少女にしか見えない子に、あんな真似をさせるのはおかしい、そう思うのだが、今の一義にはそれを上手く伝えられるような言葉は見つけられなかった。

『じゃあね』

「…うん」

 電話の向こうの気配が消えたのが解って、一義は何か釈然としないものを感じながらケータイを閉じた。そのまま閉じられたケータイを眺めていた一義に岡崎が声を掛ける。

「…それで?他に何か訊きたいことはある?」

 岡崎の言葉に一義は昨日の説明をもっとしっかり思い出そうとしながら訊く。

「あの、SPが尽きる前に人と戦わなきゃいけないんですよね?でも、プレイヤーが近くに居ないとどうしようもないんじゃ…」

「それなんだけどね…」

 岡崎はまだ一義が手に持ったままのケータイを指し、開いてと言う。

「サーチってところで地図が表示されるのは知ってると思うんだけど、それをできるだけ広域化してみて」

 一義が言われた通りにサーチを開くと、そこには一義たちが今いると思われるハンバーガーショップを中心に周囲の地図が表示され、丁度ハンバーガーショップに二つの赤い点が見える。

 それを広げていくと、細かい部分が見えづらくなる代わりにプレイヤーを示す赤い点がどんどん増えていく。しかし、ある程度広げると画面の中の赤い点の数はぱったりと増えなくなった。

 一義がどういうことかと目で問いかけると、岡崎は照り焼きバーガーの最後の1欠を口に放り込み言う。

「どういうわけか、プレイヤーが存在しているのはこの周辺地域のみ。私はこのゲームの仕掛け人が近くに居るんだと思ってるけど、本当のことは分からない」

 コーラの入った紙コップに刺さったストローをくわえ、次の質問を待つように見つめてくる岡崎に、一義はだんだんと少なくなってきた疑問を探しながら問いかける。

「え…っと。じゃあ、願いが叶うとかも?」

「それは…」

岡崎の持つ紙コップから、最期に残ったほんの少しのコーラを啜る音が響く。

「…分からない。信じているプレイヤーは、少なくは無いみたいだけど。私は無条件で信じる気にはなれない」

「……そうですか」

 一義はいまだ手をつけられていないチーズバーガーに視線を落とし、静かに口を開く。

「……あの、ここまで説明してもらって難なんですけど、逃げられないんですか?」

なんとなく、ここまで説明してやったのに、と思われそうな気がして岡崎の顔を見ることができない。しかし、彼女の反応はずいぶんあっさりしたものだった。

「できるわよ。さっきも君が戦った男を逃がしたって言ったでしょ。一応フィールドを出ると時間が戻るだけで、時計はフィールドの中でもしっかり動くから計ってみたんだけど。フィールドが存在していられるのは今のところ約7分。それまでに決着が付かなければ、フィールドは消えるし、しばらくバトルを押すこともできなくなるわ。ただ、それも少しずつ長くなっているみたいで、私が参加したばかりの頃は…」

「いえっ、あのそう言う逃げるじゃなくて…」

 スラスラと話す岡崎の言葉を遮って一義が口をはさむ、だがその言葉はだんだんと尻すぼみになり、最後はもごもごと小さく口を動かすだけだった。だが、それでも岡崎は一義が何を言いたかったのか察したようで、ああそういうこと、と小さく呟く。

「できるわよ」

 発せられたのは先ほどと同じ言葉。

「本当ですか?」

「ええ本当。正確には逃げるわけじゃないけど、自分が傷つかず戦いから降りるのはわりと簡単よ。実際にやった人も何人か知ってるしね」

身を乗り出して訊いてくる一義に、岡崎は淡々と答えてゆく。

「言ったわよね、パートナーだけが倒れたならプレイヤーには何の影響も無いって。なら話は簡単でしょ?」

「…それって」

一義の戸惑ったような言葉に、岡崎は真っ直ぐに一義の目を見ながら続ける。


「ぜひ倒してください、ってパートナーを差し出せばいいのよ」

 最近、地の文がねちっこいと自分で思うようになってきた。

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