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またここに

 不定期更新のキーワードが輝きを放つときがやって参りました。

 今まで二日に一回のペースで更新してきましたが、これから先はそうもいかなそうです。今後は一週間に一回投稿したいと思います。

 決して我慢できなくて買っちゃったデビルサバイバー2をやりたいからではありませんよ。


 前回のあらすじ:素で忘れた。確認が面倒なので今回は無し。

「……ふぅ…はぁ…」 

 一義は息を切らしながら、またあの公園の展望台に来ていた。

 今度は前来たときとは違い、日もまだ高くにあり、日差しが眩しいくらいに良く晴れている。

 それでも、やはりこの小さな展望台には、人影は無く、ろくに整備もされていない様に見えた。

 一義は少し息を整えてら、柵の近くまで歩いていく。

 そのまま柵に手を置こうとしたが、寸前で鳥の糞に塗れたそれを見て思い止まり、ポケットからケータイを取り出す。

 一度緊張をほぐすように大きく息を吐くと、ケータイを開いた。

 今日この場所に来たのは、またここに来る、という少女との約束を果たすためである。果たすと言っても、部屋からここに来るだけなので、大したことではないのだが。

「居る?」

『居るよ』

 もうそんな確認をしなくても、ケータイの向こうに少女が居るということは解っているのだが、一義はなんとなくそう言ってしまう。本題に入る前に間を置きたいのかも知れない。

「あのさ、また、あそこの公園に居るんだけど……景色とか見てく?」

 実は、一義はここに来ることを少女に前もって言ってはいない。こんなことでいちいち確認を取ることが手間だと感じることもそうだが、一番の理由は、なんとなく気恥ずかしいからである。

『……』

 中々帰ってこない少女の反応に一義は、やはり事前に行きたいかどうか聞くべきだろうか、今は別にいいと言われてしまうんだろうか、と落ち着着なく周囲を見回す。

『……うん、見てく』

 少々悩んだ末の返答だったようだが、一義はそれに安心して、景色がカメラによく映るように、ケータイを耳に当てたまま、柵に対して横向きになるように姿勢を変える。

 前回のように、ケータイを持ったまま腕を突き出してもいいのだが、それではすぐに腕が疲れる上に、震えてしまって景色も落ち着いて見えないだろう、ということで考え出したのが現在の姿勢である。

 これならば、腕もあまり疲れず、腕を突き出すよりは安定している。一義は景色が見えづらくなるが、そもそもあまり興味が無いので、問題ない。

『……』

 少女は景色に見入っているのか、一言も発しない。ケータイを耳に当てたままだと言うのに、何の声もしないのは予想以上に寂しい、一義は暇を潰すように目だけ動かして、展望台を見回す。

 しかし相変わらず、屋根も付いていない汚いベンチと、隅っこにある萎れた小さな花束くらいしか、目に付くものは無い。

 仕方ないので、風にさらわれ、カラカラ音を立てながら地面を走る緑や茶色の落ち葉を目で追いながら、ケータイの向こうの少女が満足するまでただ無心で待つ。

 少女が戦っていることと比べてれば、この程度は我慢にも入らない。そう自分に言い聞かせながら、一義は直立不動を出来るだけ崩さないように、小さく腰を伸ばす。

『……ねぇ』

 一義が、花束に引っかかっている落ち葉を眺めていると、少女が声を掛けてくる。

「ん?」

『もうちょっと、別の方向も見たい』

 確かにずっと同じ風景しか見えないのは退屈だろうと、一義は少しばかり身体の角度をずらす。

「これでいい?」

『うん』

 その短い声を境に、またしても言葉を発することが無くなる少女の存在を感じながら、一義は体の向きを少しだけ変えたことで見えやすくなった景色に、目を落とす。

 走っている赤や白の車、小さく見える人、様々な色や形を持った建物、遠くに見える大地と空の境目、そんな世界を見ていると、一義にも何故少女がこんなところに来たがるのか、解った気がした。

『ねぇ』

 自分の住処はどの辺りだろうかと、眼球を動かし始めた一義に少女の声が届く。

「なに?」

『どうして、連れて来てくれたの?』

「え?」

 少女の言葉に一義は戸惑ったように声を上げる。どうして、それは今話している少女とまたここに来るという約束をしたからだが、ひょっとして忘れているのだろうか、とそこまで考えたところで、一義はヒヤリとした。

 戦いで負った傷はリセットされると聞いた、もしかすればそれと同じで、パートナーという存在は必要ない記憶も、何らかの区切りにリセットされているのではないかと、そう考えて肌があわ立つ。もしもそうだとすれば、一義にはとても悲しいことのように思えて。

「え、えっと、この前ここに来たとき、また来るって言ったと思うんだけど……覚えてる?」

『覚えてる……そういう事じゃなくて』

 すぐさま返って来た少女の声に安心する、記憶はしっかり在る様だ。と言っても謎の多い存在なので、何時そういうことが起こっても不思議ではないのだが。

『どうして、私の行きたい所なんて訊いてきたの?』

 どうやら少女は、最初にここに連れて来ようとした事から聞いているらしい。

 少女の願いを訊いた理由、それは一義の中では珍しく、理由が一義自身にもある程度掴めている事である。

 本当の理由は、謝罪と、それから自己満足である。だが一義は、彼女にそれを言ったところで、何故謝罪するのかと、余計疑問が増えるだけだと言う気がした。

「んー……お礼?」

 結果一義の口から滑り出たのは、自分でも疑問符が付くような言葉だった。

 決して嘘ではない、感謝も本当に感じている感情だ。ただ、申し訳なさのほうが勝っているだけで。

 それに謝るよりも感謝するほうが、この少女には不自然なく伝わる気がした。

『お礼って……何の?』

 だが説明不足のせいか、どうやらあまり上手くは伝わらなかったようだ、一義は自身の言葉に補足すべく口を開く。

「いつも……って程たくさんじゃないけど。戦ってくれてるでしょ、そのお礼」

『ふーん……』

 それで納得したのか、しばらくの沈黙が流れ、一義が再び自分の家を探し始めた頃、ケータイ越しに少女の声がした。

『……やっぱり、変だね』

 変、と言う言葉に、一義の肩が少し下がるが、この少女相手にあまり意見を差し挟めない一義は、黙っているしかなかった。

『普通、そんなの気にしないと思うよ』

 続く少女の言葉に、一義は少し首をかしげる。話すことに夢中になっているのか、その動作でカメラに景色が映りづらくなったのには、気付いていない。

「そうかな、普通気にすると思うけど……」

 それがこんな女の子なら特に、と頭の中で付け加えながら、一義は言った。

『……まぁ、いいけど』

 少女の納得したと言うより、理解することを諦めたような声が、一義の耳に届く。

 そう言うならいいけど、と一義も口を閉ざし、何の変哲も無い町並みを見下ろす。



 しばらく時間が経ち、一義の脚が疲れ、ずっと上げていた腕も白くなって震えてきた頃、一義は、もう十分だろうと、ケータイの向こうの少女に声を掛ける。

「ねぇ、もうそろそろ、終わってもいい?」

 一義の言葉に、ケータイの向こうで息を吐くのが聞えた。

『うん、もういい』

 前回よりは未練のなさそうな声に、一義は満足できたのだろうかと、口を開く。

「どうだった、満足できた?」

『いまいち』

 間を空けずに帰ってきた少女の返事に、もっと長く居なければいけないのだろうかと、一義は顔を曇らせる。

『風とか、匂いとか解らないから』

 残念そうな響きを持った少女の言葉に、一義は、そういう事か、と安堵の息を吐いた。

「それは、僕にはどうしようもないけど……またきっと連れて来るから」

『……うん、また来たい』

 少女の淡い感情の篭った声に、一義は複雑な心持で唇をもごもごと動かす。

 こんなところがあるから、どうにか戦いに向かえるとも思う、しかし、こんなところがあるから、戦わなければいけないとも思ってしまう。

 だが、間違いなく彼女も嬉しいと感じたり、残念と感じたりしている。

 ならば、痛いと感じることは、嫌だと感じることは、苦しいと感じることは、寂しいと感じることは、悲しいと感じることは、辛いと感じることは、無いのだろうか。

 彼女は、戦っていることを、戦わされていることを、本当はどう思っているのだろうか。

『じゃあ……』

「あっ…あのさ」

 別れを告げ消えようとしている少女を、一義は思わず引き止めてしまう。

『なに?』

「あ、いやそのー」

 「本当は戦うの嫌だったりしない?」生きるために戦うしかない少女に、そんなことがいきなり訊ける筈も無く、一義は言葉を探す。

 何か訊きたい事、聞いても不自然でないことは無いだろうか。

「あのー、あれ、あっ……呼び出されていない時って、どうしてるの?」

 何とか思いついたのは、全く関係ない質問だったが、以前気になっていたことでもあるし、悪くない質問だろうと、一義はホッと息をつく。

『呼び出されていないとき…………んー』

 何事か深く考え始めた少女に、一義が、もしかすると本当に意識が残ったまま、真っ暗な空間に閉じ込められたりしているのではないか、と以前の妄想を掘り返していると、少女が口を開く。

『……夢?』

「夢?」

 少女の言葉を、オウム返しにする一義に、少女は、うん。夢、と頷いて続ける。

『なんだか、良く解らないけど。すごく昔に有った事を、思い出してるような、夢』

 ケータイから聞える不鮮明な声は、しかし、鮮明な感情を伴って一義の耳に届いく。

 今まで聞いた事もないほど、温かい響きを持った少女の声は、本気で懐かしんでいるような、慈しんでいる様な、どこか寂しく、どこか優しい、そんな雰囲気を一義に感じさせた。

 しかし、無粋と思いながらも、どうしても一義には訊いておきたいことができた。

「昔って……有るの?昔が?」

 そう、この少女に過去と言うものが有ったと言うのが、一義には驚きである。

 一義は、少女たちパートナーは、このゲームのために生み出された存在であり、言ってしまえば生まれたてだと思っていた。

 だが、少女の言葉を信じるなら、彼女には一義と出会うまでの記憶も在るということになる。それがどのようなものなのか、一義は聞いてみたい気がした。

『ううん。無いよ』

 しかし、返って来た少女の短い返事に、一義は肩透かしを食らってしまう。

「えっ……でも昔のこと思い出してるって……」

『言ったけど、思い出してるような(・・・)。私はそんな記憶、覚えが無いよ」

 へぇ、と一義は相槌を打ち、また気になった話題を振ってみる。

「じゃあさ、どんな夢なの?それ」

 一義の言葉に、少女は適切な答えを探すように、小さくうなりながら口を開く。

『……ん、よく覚えてないんだけど……男の人が出てきた気がする』

 少女の歯切れの悪いながらも真摯な答えに、一義は何も言わず耳を傾けていた。

『それで……それで、嬉しかったりとか、寂しかったりとか、悲しかったりとか、そういう気持ちになったりするんだけど…………でも、嫌じゃないの、普通なら嫌な気持ちも嫌じゃないの。寂しいのも悲しいのも、良いなって、思える夢なの』

 ごめん、よく解んなかったね、と言って締めくくった少女に、一義は、そんなこと無い、と声を掛ける。

「……いや、その、確かにちょっと解りづらかったけど、えっと、ニュアンスは伝わったよ。……あの、なんかこう雰囲気とか、そういうの解り易かったと思うよ?…………多分」

 支離滅裂で穴だらけな、一義のフォローとも言えない様なフォローに、少女は少しだけ笑みをこぼす。

『本当は、解ってないでしょ』

「う…ん。正直あんまり……」

 ケータイを持っていないほうの手で、首の後ろをを掻く一義に、少女は続けて言う。

『いいよ、私にも良く解らないし』

「……うん」

 少女の声に、何か寂しさのようなものを感じながら、一義は頷いた。

『もういいの?』

「ん?…あぁ、うん。もう…」

 一義が少女に、ここに来る前より少しだけ軽くなった唇で、答えようとしたとき、耳元から、煩いほどの着信音が鳴り響いた。

「……!」

 一義は慌てて鳴ったままのケータイを耳から外し、周囲を確認する。

 念のためケータイも確認したが、メールも電話も来ていない。

 大して広くも無い展望台には、未だに一義以外に人影は無く、来るとすればそれは……。

 一義は、展望台と世界を繋ぐ唯一の道である貧相な木製の階段を、目を逸らさぬように睨み付ける。

 いつ戦いが始まっても良い様に、ケータイだけはしっかりと握り締めて、その姿が現れるのを待つ。

「…………」

 しかし、敵であるプレイヤーが姿を現すことは、中々無く。ついにはケータイの着信音すら止まってしまった。

「……来ない」

 着信音がなくなっても、一義はしばらく警戒していたが、やがて、落ち着いて辺りを見回してみた。

 鳥の糞の着いた柵、ボロボロのベンチ、地面を走る落ち葉、瑞々しい花束、これと言って、変わっていることは無い。

 念のため、階段のところまで行って、下を見下ろしてみるが、そこにも人影は見えない。

「……ふぅ」

 一義は、大きく息を吐くと、安心したような、気の抜けたような、複雑な思いで、再びケータイを耳に当てる。

「来なかったね、戦う気分じゃなくて帰ったのかな」

『……うん』

「……まぁ、今日はこのまま帰るから。またね」

『うん、じゃあね』

 未だに緊張したような声音の少女に、別れを告げて、一義は木に光を遮られた薄暗い階段に、足元に気をつけながら一歩踏み出した。

 自然と口元には笑みが浮かぶ、少女と少しだけ、近づけた気がした。

 それが、良いことなのか、悪いことなのか、それは判らない。けれど、この時の一義には、嬉しく感じられた。

 自分が、少女に何を求めているのかも忘れて。


「またここに、来るのも良いかな」

 今日のスキル:ソウルカッター


 これも名前をどうするか悩んだ、最終的には語感で決定した。

 マイのスキル、ナイフを出せるだけ。刃渡りは13センチ。

 魂を切れるナイフであり、魂しか切れないナイフ。

 戦っている空間は、プレイヤーとパートナーを含め全て魂だけしか存在しないので、実質なんでも切れる。相手が硬ければそれだけ切りづらいものの、刃をぶつけ合って負けることは無い。

 つまり、頑丈でよく切れるナイフ。

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