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サ終世界シリーズ

新人女神の世界創造 ~え、倫理観? ないよ、かみだからね~

作者: 優耀
掲載日:2026/06/06

「今日からここがあなたの作業室よ」


先輩女神から渡された鍵を見つめながら、私は震えていた。


ついに。


ついに自分だけの世界を持てる。


神学校に入学した日からの夢だった。


世界創造。


神なら誰もが憧れる仕事。


私は期待に胸を膨らませながら作業室の扉を開いた。


部屋は広かった。


中央には巨大な光のパネルが浮かんでいる。


無数の星々が散らばり、銀河が渦を巻き、まるで宇宙そのものが机の上に広がっているようだった。


「すごい……」


思わず息を呑む。


これが私の世界。


これから私が創る世界。


神学校では何度も模擬創造を経験したが、本物はやはり違う。


感動に浸っていると、目の前に通知が表示された。


【世界創造予算申請書を提出してください】


「ん?」


もう一度見る。


【予算申請書】


【見積書】


【維持管理計画書】


【滅亡時対応計画書】


【文明崩壊リスク分析書】


【知的生命体運用方針書】


【創造物倫理監査簡易報告書】


「待って」


神学校ではもっとこう、


『まず光を作りましょう』


『次に海と大地を配置します』


『生命は多様性を意識してバランスよく』


みたいな授業だった。


少なくとも先生は黒板に、


『神は勢い』


って書いていた。


なのに現場は書類なの?


しかも画面の端には、


【神様の掲示板】


という項目まであった。


社内SNSらしい。


嫌な予感がしたが、とりあえず開いてみる。


すると大量のスレッドが並んでいた。


【初心者質問スレ Part482】


【文明暴走報告スレ】


【滅亡案件反省会】


【おすすめ神獣総合】


【予算削減テク共有】


【人類とかいう管理困難種】


嫌な予感しかしない。


とりあえず初心者質問スレを開いた。


────────────────


【初心者質問スレ Part482】


1:新人神


おすすめの知的生命体ありますか?


2:名無しの創造神


人類


3:名無しの創造神


無難


4:名無しの創造神


エルフ


5:名無しの創造神


映える


6:名無しの創造神


ドワーフ


7:名無しの創造神


資源開発が勝手に進む


8:名無しの創造神


菌類文明


9:名無しの創造神


管理楽


10:名無しの創造神


全部入れろ


11:名無しの創造神


やめろ


12:名無しの創造神


世界燃える


13:名無しの創造神


燃えた


14:名無しの創造神


評価は?


15:名無しの創造神


S


16:名無しの創造神


なんでだよ


17:名無しの創造神


観察レポートが面白かった


18:名無しの創造神


審査員の趣味やめろ


────────────────


意味がわからない。


次のスレを開く。


────────────────


【住民同士が仲良くならない】


1:新人神


住民同士が争います


2:名無しの創造神


価値観増やせ


3:新人神


増やしました


4:名無しの創造神


もっと


5:新人神


増やしました


6:名無しの創造神


もっと


7:新人神


宗教が三万種類できました


8:名無しの創造神



9:名無しの創造神


草じゃねえ


10:名無しの創造神


まだ少ない


11:名無しの創造神


うちは七万ある


12:名無しの創造神


住民数より多くない?


13:名無しの創造神


気にするな


────────────────


気にするなじゃない。


さらに別スレ。


────────────────


【予算削減テク共有】


1:名無しの創造神


最近予算厳しい


2:名無しの創造神


わかる


3:名無しの創造神


大陸一枚消した


4:名無しの創造神


有能


5:名無しの創造神


海に沈めた


6:名無しの創造神


住民は?


7:名無しの創造神


消えた


8:名無しの創造神



9:名無しの創造神


評価は?


10:名無しの創造神


A+


11:名無しの創造神


世知辛い


────────────────


神界、大丈夫?


不安になりながら前任者のマニュアルを開く。


表紙には大きく書かれていた。


『神も予算からは逃げられない』


嫌な予感しかしない。


ページをめくる。


初期投資額:10億セレスティア


《内訳》


・基礎空間設定:3億5千万


・生態系基盤整備:2億2千万


・神殿建設費用:4億3千万


「高っ!」


思わず叫んだ。


世界ってもっとポンッと作るものじゃないの?


神様だよ?


すると下の方に小さな文字。


※予算超過分は給与から天引きされます


「給与あるんだ……」


妙なところで現実的だった。


さらにページをめくる。


そこには歴代新人神の失敗事例集が載っていた。


【事例001】


争いのない平和な世界を目指し、全生命体から攻撃性を削除。


結果。


文明発展率0%。


全員昼寝。


三千年間昼寝。


評価:失敗。


「極端すぎるでしょ……」


【事例008】


飢餓をなくすため植物を巨大化。


結果。


人類敗北。


トマト文明誕生。


評価:失敗。


「トマト文明って何!?」


【事例017】


寿命問題を解決するため全生命体を不老化。


結果。


誰も働かなくなる。


文明停滞。


評価:失敗。


【事例032】


かわいいという理由でドラゴンを大量投入。


結果。


家畜全滅。


国家崩壊。


評価:感情で世界を作るな。


「それはそう!」


【事例055】


全住民を善人化。


結果。


誰も責任を押し付けられず行政崩壊。


評価:失敗。


【事例072】


全住民を賢人化。


結果。


誰も結婚しなくなる。


評価:失敗。


「なんで!?」


私は思わず机を叩いた。


そのとき背後から声がした。


「新人ちゃん、その辺は有名なやつね」


振り返ると先輩女神が立っていた。


「あの、皆さん失敗しすぎじゃありません?」


「するわよ」


先輩はあっさり言った。


「だって新人だもの」


「世界ですよ!?」


「私も最初の世界は滅んだし」


「滅んだんですか!?」


「二回ほど」


軽い。


あまりにも軽い。


世界滅亡の報告とは思えない。


そんな私を見て先輩は笑った。


「そんな顔しなくても大丈夫よ」


「何がですか」


「バックアップあるから」


「そういう問題じゃないと思うんですけど」


先輩は少し考えた。


そして、


「あー」


と納得した顔になった。


「まだ人間感覚が残ってるんだ」


私は返事ができなかった。


神学校を卒業したばかりとはいえ、確かに私は元人間だ。


だから住民を数字として見られない。


一人一人が人生を生きている存在に見えてしまう。


その感覚が当然だと思っていた。


その時は。


――百年後。


私は人口を三割削減して食糧問題を解決した。


評価A。


――二百年後。


戦争を誘導して技術革新を促進した。


評価S。


――三百年後。


維持費削減のため一つの大陸を沈めた。


評価S+。


最初は抵抗があった。


住民が泣くたび。


都市が滅ぶたび。


戦争で命が失われるたび。


胸が痛んだ。


だが何度も観察し、


何千年も管理し、


何億という住民を見続けるうちに、


少しずつ感覚が変わっていった。


森を剪定するように。


生態系を調整するように。


世界を運営するように。


住民の死は、いつしか統計情報の一部になっていた。


もちろん犠牲者数は増えた。


だが評価シートの数字は美しく改善した。


私はその年の新人賞を受賞した。


授賞式の帰り道。


何気なく掲示板を開く。


【初心者質問スレ Part771】


1:新人神


人口増えすぎて困ってます


私は迷わず返信した。


2:名無しの創造神


戦争ブーストおすすめ


3:名無しの創造神


大陸統合も有効


4:名無しの創造神


食糧危機イベントも悪くない


送信を押してから気付く。


その内容が、かつての私なら絶対に書かなかったものだと。


少しだけ昔を思い出そうとした。


けれど、


人間だった頃の感覚は、もうほとんど思い出せなかった。

面白い、続きが気になると思って頂けましたら、

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