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ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


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学園祭準備

学園に入学してからというもの、ルカの日々は目まぐるしく過ぎていった。


最近では、あれほど突っかかってきていたエドワードが絡んでくることも減り、ようやく穏やかな日常が戻りつつあった。


朝から昼までは通常授業。

座学では魔法理論や歴史を学び、実践練習も毎日の授業で行われる。放課後になるとアーサー やハジメと共に夜魔法の研究へ向かう。


「魔力循環をもっと安定させろ。暴発したら研究室ごと吹き飛ぶぞ」


「アーサー先生…脅さないで下さい」


そんなやり取りをしつつ、訓練を行う。夜遅くまで魔法書と向き合う日も少なくない。


さらに空いた時間にはブラッククラスの面々が戦闘訓練に付き合ってくれる。

レオとの実践訓練では何度も地面に叩きつけられ、アクアには翻弄され、エディやアリスには容赦なく弱点を突かれる。


「遅い」


「っ……!」


「反応は悪くない。だが迷いがある」


悔しさを噛み締めながら、使える技も増え、それでも少しずつ強くなっている実感はあった。


そして夜になると、図書館で古代文字の勉強。

隣にはいつもアクアがいて、二人で分厚い文献を読み漁る。


そんな忙しくも充実した日々を送っていた。


もちろん、家族との繋がりも途切れてはいない。


一度、両親へ長い手紙を書いた。

兄たちからも時折連絡が届く。


『無理はするな』


『困ったことがあれば言え』


短い文面ばかりだったが、それだけで少し胸が温かくなった。


──そして。


気づけば一学期も半ば。


学園は学園祭シーズンへと突入していた。


校内はどこも慌ただしい。

各クラスの催し、ブラッククラスの出し物、研究発表会、武術演武。


生徒たちは準備に追われ、廊下には木材や布、魔道具が山のように積まれていた。


そんな中、1年1組でもホームルームが開かれていた。


教壇に立つのは学級委員のルーク デイビッド。


「それじゃあ、1組の催しについて話し合います。何か希望がある人ー?」


その一言で教室は一気に騒がしくなる。


「カフェ!」


「お化け屋敷とかどう!?」


「屋台やりたい!」


「迷路!」


次々に案が飛び交う中、ある女子生徒がぱっと手を挙げた。


「コスプレカフェとかよくない?」


その瞬間。


一部の男子たちの目が輝いた。


(可愛い子のコスプレ……!?)


女子たちも「いいじゃん!」「絶対盛り上がる!」と大盛り上がりし、多数決の結果——


1年1組の出し物は、コスプレカフェに決定した。


「えぇ……」


ルカは早くも嫌そうな顔をしていた。


隣ではサラも若干引きつった笑みを浮かべている。


対してアクアは目を輝かせていた。


「めちゃくちゃ楽しみだなぁ!」


そこからは、“誰に何を着せるか会議”が始まった。


「あ、この衣装かわいい!」


「執事とか絶対似合う人いるよね!」


「和服系もいいなぁ!」


最初は憂鬱そうだったルカも、クラスメートたちが真剣に盛り上がっている様子を見ているうちに、だんだん楽しくなってくる。


「じゃあアクアは執事とかどう??」


女子の一言に、周囲が一斉に頷く。


「わかる!絶対似合う!」


「かっこいいし!」


「背高いし雰囲気ある!」


アクアは一瞬驚いたあと、口元を緩めた。


「……まぁ、悪くないかも?」


満更でもない様子に、教室が笑いに包まれる。


こうしてアクアは執事役に決定した。


続いて視線が向けられたのはサラだった。


「サラって和服似合いそうだよね!」


「あーわかる!」


「清楚系!」


突然注目を浴びたサラは目をぱちぱちさせる。


「えっ……わ、私?」


「うんうん!絶対綺麗!」


サラは少し照れたように俯いた。


「……うん。いいかも」


以前なら人前でこんな風に話すことすら難しかったサラが、今では自然にクラスへ溶け込んでいる。


その様子を見て、ルカはどこか嬉しそうに目を細めた。


そして。


次第に、教室中の視線が一人へと集まる。


「じゃあルカは……」


「…………」


男子も女子も、なぜかニヤニヤしていた。


嫌な予感しかしない。


「なんだよ……」


すると女子の一人が満面の笑みで言い放つ。


「ルカ、可愛い顔してるしメイドがいいと思いまーす!」


「は?」


その瞬間。


「賛成!!!!」


誰よりも早く、アクアが食い気味に叫んだ。


「異議なし!!!」


「俺も賛成!」


「似合うと思う!」


「絶対可愛い!」


男子たちまで次々に便乗し始める。


「ちょ、待っ……!」


ルカは顔を真っ赤にしながら抗議する。


「絶対嫌だよ!!」


ぷくっと頬を膨らませ、完全に拗ねたその姿に——


クラスメートたちは思った。


(……やばい、可愛い)


母性をくすぐられた女子たちは心を鬼にした。


「決定でーす!」


「多数決!」


「ルカ、諦めて!」


「なんでだよぉ!?」


教室には大きな笑い声が響く。


そんな騒がしい空気の中。


ルカ自身も、少しだけ笑っていた。


夜。

学園祭の準備期間に入り、ブラック寮の談話室もまた賑わいを見せていた。


大きな丸テーブルを囲むようにブラッククラスの面々が集まっている。


ソファに座る者、床に寝転ぶ者、飲み物を片手にぼんやりしている者。

いつも通り自由な空気ではあるが、今日は“学園祭の催し”を決めるための話し合いだった。


その中心で、アリスがぱんっと手を叩く。


「はいはい、静かにしてくださいー!」


一応、全員の視線が集まった。


「ブラックは人数が少ないので、あまり大掛かりなものはできません。でも、せっかくの学園祭ですし、やりたいことがあるなら意見を出してください!」


「はーい」


気だるげに返事をしたのはオーランド ミラだった。


ソファの背もたれに腕を乗せたまま、にやりと笑う。


「じゃあ、バンドとかどう?」


「バンド?」


ルカが思わず聞き返す。


オーランドは髪をかき上げながら続けた。


「俺、ギターボーカルできるし。楽器できるやついるか?」


すると、すぐにエディが手を挙げる。


「俺もギター弾けるよー」


「お、マジ?」


「軽音部いたしね」


「へぇ、意外」


「失礼じゃない?」


談話室に小さな笑いが起こる。


そんな中、ルカは隣に座るアクアへ小声で尋ねた。


「アクアはやらないの?」


「え?」


アクアは少し困ったように笑った。


「いや……何年も弾いてないし」


だが、その会話はしっかり聞こえていたらしい。


「アクア、何できるんだ?」


オーランドが興味津々といった様子で身を乗り出してくる。


突然話を振られたアクアは、一瞬視線を逸らしたあと、小さく答えた。


「……ベースを少し齧ってました」


「ベース!?」


オーランドの目がぱっと輝く。


「いいじゃん!」


そのまま勢いよく別方向へ振り向いた。


「レオさん」


嫌な予感を察したのか、レオは静かに目を逸らす。


しかしオーランドは逃がさない。


「まだドラムできますよね?」


「……」


「頼みますよ」


「断る」


「えー!?そこをなんとか!」


「面倒だ」


「ブラックのために!」


「嫌だ」


「お願いしますって!!」


オーランドは半ば拝み倒す勢いで何度もしつこく食い下がる。


その様子を見ていたルカたちは思わず苦笑した。


「オーランド、めちゃくちゃ必死だな……」


「ライブやりたいんだろうねぇ」


アクアもくすっと笑う。


そして数分後。


とうとうレオが深いため息をついた。


「……少しだけだぞ」


その瞬間。


「っしゃあああ!!」


オーランドが勢いよくガッツポーズを決める。


「レオさん愛してる!」


「気持ち悪い」


即答だった。


談話室にまた笑いが広がる。


その空気をまとめるように、アリスが手帳へさらさらと書き込みながら言った。


「じゃあ、ブラッククラスの出し物はバンド演奏で決定ですね。他の皆様は裏方とフォローに回るので、みなさん練習お願いします」


「了解ー」


「頑張るか」


「青春っぽいねぇ」


それぞれ思い思いに返事をする。


そんな中。


アクアは少しだけ不安そうな顔をしていた。


「……本当に弾けるかな」


小さく漏らしたその言葉に、ルカは隣で笑う。


「アクア器用だし、大丈夫だろ」


「そうかな?」


「絶対なんとかなるって」


その言葉に、アクアは少し安心したように目を細めた。


ブラック寮の夜は、今日も穏やかに更けていく。

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