表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルカ・マーフィーは夜魔法の継承者  作者: 如月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/94

ルカの魔力

アーサーの研究室の前に立ったルカが、そっと扉に手を伸ばそうとした、その瞬間――


ギィ……と音を立てて、扉がひとりでに開いた。


「待っておったぞ」


低く落ち着いた声が、部屋の奥から響く。


ルカは一瞬驚きながらも、中へ足を踏み入れた。


研究室の中には、アーサーただ一人。壁一面には古びた本や見慣れない器具が並び、淡い光が静かに揺れている。


「そこへ来なさい」


促されるまま、ルカは前へ進んだ。


アーサーは椅子に腰掛けたまま、じっとルカを見つめる。


「今日の実技試験のことは聞いた」


その一言で、空気が少しだけ張り詰めた。


「お前の魔法の力について、な」


ルカは小さく息を吸い、まっすぐに答える。


「……はい」


「お前の魔法は、“夜魔法”と言うのだな?」


「はい。……魔法の声が聞こえて、気づいたら体が動いていて……言葉も、自然に口から出ていました」


アーサーはゆっくりと目を細める。


「そうか……魔法の“声”か」


静かに頷きながら、どこか納得したように続けた。


「古の文献で見たことがある。古代魔法の中にはな――長い時を経て、使い手を探し続けるものがある」


ルカは息を呑む。


「使い手を……探す?」


「うむ。まるで分身のように、自らと共に歩む者をな」


アーサーははっきりと言い切った。


「そなたは、その“夜魔法”に選ばれたということじゃ」


その言葉は、重く静かにルカの胸へ落ちた。


(選ばれた……俺が……?)


しばしの沈黙の後、アーサーが問いかける。


「夜魔法の操作はどうじゃ?」


ルカは少し考え、正直に答えた。


「……魔力量の消費がすごくて……立っているのもやっとでした」


自分の体の感覚を思い出しながら、続ける。


「“星の嵐”を使った瞬間、力が一気に抜けて……魔力が枯渇したのを感じました」


アーサーは腕を組み、小さく頷く。


「そうか……」


そして立ち上がると、棚の奥から一つの球体を取り出した。


それは、水晶のように透き通った玉だった。


「まずは、お主の魔力量を測定してみよう」


ルカの前に差し出しながら言う。


「手をかざしてご覧」


「これで……分かるんですか?」


「うむ。この水晶は、魔力量に応じて色が変わる」


アーサーはゆっくりと説明する。


「最高値は、水色、金、銀、紫、青、赤、黄、緑、白――この順に分かれておる」


ルカはごくりと唾を飲み込み、水晶へ手をかざした。


次の瞬間――


じわり、と光が灯る。


最初は淡く、やがてその光は深みを増し、


ゆっくりと“紫”へと変わっていった。


「……紫、じゃな」


アーサーの声が、わずかに低くなる。


「学生のほとんどは“黄”。良くて“赤”といったところじゃ」


ルカは目を見開いたまま、水晶を見つめる。


「紫って……」


「かなりの魔力量を持っておるということじゃ」


アーサーははっきりと言った。


「お主は――規格外じゃな」


静かな研究室の中で、その言葉だけが重く響いた。


ルカの手の中で、水晶の紫の光はなおも揺らめいていた。


アーサーは紫に輝く水晶を静かに見つめたあと、ゆっくりと口を開いた。


「お主に必要なことは、まず理解することじゃ」


低く落ち着いた声が、研究室の空気に溶けていく。


「夜魔法に、どれほどの魔力量が必要なのか――」


ルカは自然と背筋を伸ばした。


「少しずつ魔力を込め、どの程度で発動するのかを知る。そして――」


アーサーはルカをまっすぐ見据える。


「“夜魔法とは何なのか”を、理解していく必要がある」


その言葉は、単なる助言ではなく、これから進むべき道そのもののように重かった。


「……はい」


ルカは小さく、だがはっきりと頷く。


アーサーは続ける。


「同時に、魔力量そのものを増やすことも必要になってくるじゃろうな。今のままでは、あの力を安定して扱うことは難しい」


そのとき――


バンッ!!


勢いよく研究室の扉が開いた。


「ルカ!ここにいたんだね!」


明るく弾んだ声とともに飛び込んできたのは、ハジメだった。


両腕いっぱいに、今にも崩れそうなほどの書物を抱えている。


「先生!古代魔法に必要な文献、調べてきましたよ!」


ドサドサドサッ――!


机の上に積み上げられる大量の本。


古びたものから比較的新しいものまで、種類も厚さもバラバラだ。


ルカは思わず目を見開いた。


「え……これ全部?」


ハジメは得意げに笑う。


「うん!片っ端から集めてきた!」


アーサーはその山のような本を見下ろし、ふっと息を吐いた。


「相変わらず行動が早いのう……」


だがその目は、どこか満足そうでもあった。


一冊を手に取り、ぱらりとページをめくる。


「……ほう、悪くない。基礎から応用、古代文献まで揃っておるな」


ハジメは胸を張る。


「ルカの力、普通じゃないって聞きましたから。だったら中途半端じゃダメだと思って」


その言葉に、ルカは少しだけ驚いた表情を見せる。


「ハジメ……」


「一緒にやろうよ、ルカ」


迷いのない声だった。


研究室の中に、ほんの少しだけ温かい空気が流れる。


アーサーはそんな二人を見ながら、静かに口を開いた。


「よかろう」


そして、ゆっくりと微笑む。


「ならば――ここからが本当の始まりじゃ」


積み上げられた書物。


紫に揺れる水晶。


そして、“夜”に選ばれた少年。


静かだった研究室は今、確かに動き始めてた。



薄暗い書庫に、紙をめくる乾いた音だけが静かに響いていた。

ルカとハジメは向かい合い、積み上げられた古文書に目を落としている。埃をかぶった禁書や、魔力理論の古典——どれもが簡単には理解できない難解なものばかりだった。


「僕は古代魔法についてもう少し調べて見るよ」

ハジメはそう言って、さらに分厚い一冊を手に取る。

一方、ルカの背後で、ゆっくりと重い足音が近づいた。


「よいか、ルカ」


振り返ると、アーサーがガラスのフラスコ——まるで研究室の器具のような“魔力瓶”を取り出していた。淡く、内側から光を反射する不思議な瓶だ。


「魔力量を高めるにはな、限界まで体内で魔力を循環させるのじゃ。そして——その魔力を、この瓶に流し込むことを意識せよ」


低く落ち着いた声に導かれ、ルカは静かに目を閉じた。


胸の奥にある“魔力の流れ”を意識する。

ゆっくりと、しかし確実に、体内を巡る力が熱を帯びていく。


(……流れてる……これが、僕の魔力……)


それを途切れさせないよう、慎重に練り上げる。

そして、アーサーの言葉通り、意識を瓶へと向けた。


手のひらから、じわりと魔力が流れ出す。


「そうじゃ……よい流れじゃ。そのまま維持せよ」


アーサーはルカの状態を見極めながら、的確に声をかけ続ける。


だが——


次第に、体の奥が空っぽになっていく感覚が広がった。


(……まずい、減ってきてる……)


呼吸がわずかに乱れる。

限界が近いと直感し、ルカはそっと瓶から手を離した。


「ふむ……残り魔力量は、およそ300といったところかの」


アーサーは満足そうに頷くと、今度はルカの“星空の杖”を手に取った。


「この瓶に貯めた魔力をな——こうして、杖にチャージするのじゃ」


瓶に杖を触れさせた瞬間、内部の光が一気に輝きを増す。

まるで夜空の星々が一斉に瞬いたかのように、魔力が杖へと吸い込まれていった。


「……すごい……」


思わず、ルカは息を呑む。


「いざという時、この蓄えが命を救うこともある。毎日続けるのじゃ。魔力量を増やし、同時に備蓄もできる——一石二鳥じゃろう?」


ルカは大きく頷いた。

確かな手応えと、少しの疲労を胸に刻みながら。


——気づけば、窓の外はすっかり夕暮れに染まっていた。


「もうこんな時間か」


時計の針は、ちょうど六時を指している。


ルカとハジメは書庫を後にし、そのまま寮へと向かった。

暖かな灯りと、賑やかな声が迎えてくれるはずだった——


だが。


「……あれ?」


ルカは足を止める。


いつもなら、真っ先に飛びついてくるはずの姿がない。


「アクア……いない?」


ハジメも周囲を見渡すが、その姿はどこにも見当たらない。


胸の奥に、じわりと不安が広がる。


(どこに行ったんだ……?)


賑やかなはずの寮の中で、ルカだけが取り残されたように静まり返っていた。



時を戻した頃――


寮の談話室には、静かな時間が流れていた。


暖かな灯りの下、ソファに腰掛けたレオは、一冊の本を静かに読み進めている。ページをめくる音だけが、わずかに空間に響いていた。


そこへ――


「……レオ先輩」


控えめな声が、空気を揺らす。


レオは視線を本から外さずに、わずかに目だけを動かした。


そこに立っていたのは、アクアだった。


いつもより少しだけ真剣な表情をしている。


「どうした」


短い問いかけ。


アクアは一歩、レオへ近づいた。


「……一つ、お願いがあって来ました」


その言葉に、レオの指がページをめくる動きを止める。


だが、まだ顔は上げない。


アクアはぐっと拳を握りしめた。


「俺――自分の魔法とちゃんと向き合いたいんです」


声は震えていない。


だが、その奥には強い決意が滲んでいた。


「もっと強くなりたい」


一呼吸置く。


そして、まっすぐに言い切った。


「ルカの隣に、立てるように」


その名前が出た瞬間、レオの手がゆっくりと本を閉じた。


パタン、と静かな音が響く。


ようやく顔を上げたレオは、まっすぐにアクアを見つめる。


その視線は鋭く、だがどこか試すようでもあった。


「……本気か?」


短く、重い問い。


アクアは迷わない。


「はい」


即答だった。


レオは数秒、黙ってアクアを見つめ続ける。


やがて、小さく息を吐いた。


「……いいだろう」


そう言うと、立ち上がる。


「来い」


それだけを告げ、振り返ることなく歩き出した。


アクアは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにその背中を追いかける。


談話室を抜け、廊下を進み、階段を上がり――


やがて二人は、人の気配のない静かな一角へと辿り着いた。


レオは一つの扉の前で立ち止まる。


重厚な造りのその扉は、どこか普通の部屋とは違う空気をまとっていた。


「ここだ」


低く言い、扉に手をかける。


ギィ――と、鈍い音を立てて扉が開いた。


中は広く、何も置かれていない空間。


ただ、床や壁には無数の魔法陣が刻まれている。


訓練用の部屋だと、一目で分かった。


アクアは思わず息を呑む。


「……ここって」


レオは中へ入りながら、振り返る。


「強くなりたいんだろ」


その目は、もう談話室にいた時の穏やかなものではない。


「なら、遊びじゃ済まないぞ」


静かだが、鋭い言葉。


アクアは一瞬だけ目を閉じ――


そして、覚悟を決めたように顔を上げた。


「……望むところです」


その言葉を聞いたレオは、わずかに口元を上げる。


「いい目だ」


次の瞬間――


部屋の空気が、ピリッと張り詰めた。


「まずは見せてみろ。今のお前の全力を」


アクアは一歩前に出る。


胸の奥で、何かが熱く燃え始めていた。


(ルカの隣に立つ――そのために)


静かな部屋の中で、新たな戦いが始まろうとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ