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いつかなくなる物語  作者: ぼっち飯


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Episode2. 出張陽だまり亭

昼にするには少し早い時間。仕込みも終わって、いよいよ『陽だまり亭』出張営業の時間だ。

メニューは串焼きただひとつ。


親父の親父の、そのまた親父の、…まあいつからかはよくわかんねえ。とにかくうちは代々小さな宿屋『陽だまり亭』をやっている。たったの十部屋しかないが、常連だっている自慢の城だ。親父とお袋は引退して俺達夫婦に店を譲ると、こんどは泊まる側になるんだーとか言って旅に出やがった。旅先から時々やってくる便りを、4つになった娘のエリサは楽しみにしている。まあ、歩けなくなったら戻ってくるだろう。その時は店番でもやってもらうか。


今日は三日間にわたる建国祭の最終日。毎年この期間だけは広場に屋台を出して、昼間だけ出張営業をしている。『陽だまり亭』は朝晩しか食事の提供はない。家族経営だから、無理なやり方はしねえことにしてるんだ。一階は食堂、とは言っているがまあ皆がくつろげるスペースだ。朝は簡単なものしか出さねえ代わりに、夜は酒場みてえな食事ができる店になる。


メインの客層は冒険者。疲れて帰ってきた奴らが陽気に騒ぐ中、最近お手伝いを覚えたエリサがテーブルの間をちょこちょこ回る姿のかわいいことと言ったら!だがちーっと心配なのはここしばらく長期滞在している三人組だ。あいつらにエリサが懐いちまった。特にネコ科の獣人・コテツにご執心だ。ニャーちゃん、ニャーちゃんと寄ってって嬉しそうにしているが、男親としては複雑な気分だ…。


俺の方が惚れちまって何とか嫁に来てもらったマーサは、肝の座ったイイ女だ。マーサのお陰で宿が回っていると言っても過言ではない。しかもだ。今、マーサの腹ん中には双子がいるんだ。一気に大変にはなるだろうが、双子は吉兆。繁栄のシンボルだ。エリサには双子だってことはまだ教えてねえんだが、お姉ちゃんになるのを楽しみにしている。いつか子供達の誰かに後を継いでもらったら、親父とお袋みてえに旅に出るのもいいかもな。


ああ、こんなに幸せでいいんだろうか。


「大将~、串焼き二つ~。」


おっと、いけねえ。普段は宿泊客にしか提供しねえ串焼きは、実は祭りの人気メニューのひとつなんだ。今日は最終日だから、とっとと売り切ってあとは家族三人で夕方まで祭りを楽しむ予定なんだ。何が何でも完売させてやる。


「ダン!ダン!どうしよう!」


昼を少し過ぎて材料も残りわずかとなった頃、真っ青な顔のマーサが駆け込んできた。


「どうしたマーサ、走ったら良くねえんじゃねえか?…ん?一人か?」


いつも笑顔で、怒る時すら笑顔のマーサが泣いている。


「エリサ…エリサがいないの!手をつないでいたのに!ごめんなさい!私がちゃんとしていなかったから、どうしよう!」


こんなにうろたえているマーサは初めてだ。


「大丈夫、落ち着け。もうそろそろ店じまいしようと思ってたんだ。俺が探しに行くから、お前はここで待ってろ。エリサは賢いから、この店に来るかもしれない。」


心配そうに見ている隣の屋台の婆さんにマーサを頼む。いつもマーサと仲良くしてくれている婆さんだ。一人でいるより心強いだろう。看板代わりの旗を降ろしながら、エリサとはぐれたあたりを聞き出す。不安で泣いてないといいが。エリサ、パパがすぐに見つけてやるからな。


「大将〜!た〜いしょ〜!」


こんな時にでっけえ声でなんだって…ん?


「エリサ!」


俺の声にマーサが跳ね上がる。コテツの肩に乗ったエリサが手を振っている!塞がってる手は…普段絶対触らせてもらえない耳を掴んでご満悦だ。はしゃぐエリサが落ちたらキャッチするつもりなんだろう、ルーシェンが中途半端に手を上げ下げして、…ははっ。危なっかしいったらありゃしねえ。


けどまあ見つけてきてくれたアイツらに、串焼きの5本や10本はサービスしてやってもいいかもな!


ホッとしてマーサに目をやると、あ!やべ!特大の雷が落ちそうだ!今にもぶっ倒れそうなくらい白かった顔が今度は迫力のある笑顔に変わっていて、俺までちびりそうだ。


無事近づいてきたコテツの尻尾が、空に向かってピンと立つ。心なしか、いや確実にいつもより太くなっている。冒険者をもビビらす怒気を撒き散らすとは、さすがマーサ。


その時、多分空から声がした。なぜか近くで聞こえるようで、不思議な届き方の声だった。






業火の流星(インフェルノ=メテオ)


…騒がしいはずの広場から、音が消えた。

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応援してくださる方、本当にありがとうございます。

読んでくれている誰かがいるってわかるのは、結構テンション上がります。


ここまで読んでくださってありがとうございました。

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