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この村の灯り  作者: 堺大和
32/42

32ご安全に

秋の空気は柔らかかった

小学校跡地に隣接する集会所では

村のミーティングが始まっていた

黒板には

「道の駅整備・工事関係前ミーティング」と

書かれている

出席者は村の顔ぶれが揃っていた

「それでは始めます」

私が立った

「まずは 設計 補助金採択を踏まえた

工事開始に至るまでの流れを確認します」

黒板の図や資料を指しながら

私は静かに説明する

「夏の終わりに補助金満額が

採択されたことは 御承知の通りです」

一同が頷く

「これを受けて 秋から工事を始めます

ただし

冬期間の雨雪対策 設計に沿った手順

地元ボランティアの安全確保

などはしっかり準備しました」

説明は淡々としているが

決して簡単ではない

現実を噛み締めながら語られる

菫は横でプロジェクター操作をしつつ

小さく要点を補う

一つずつ 設計担当者・役場が答えていく

最後に

女将さんが立ち上がった

「よそで見た大きな道の駅とは違うけど

地域みんなで進めるって意味では

こっちの方が心強いです」

拍手が自然と起きる

誰かが言う

「祭りから一気に現実やね」

私は黒板から目を離し みんなの顔を見渡す

この村で一緒に作っていくんやな

小さな決意が 胸の奥で少し強くなる

そして

「では 作業開始へ向けて 

宜しくお願いします」

計画の段階では まだ紙の上だった

住民投票も 数字だった

だが今は違う 地面が変わる 風景が変わる

これは取り消せない

重機の前に立ちながら 私は静かに息を吐く

やるしかない 逃げ道はもういらない

朝の光は未だ柔らかい

少し冷たい空気が 草むらの上を滑るように

流れている


「おはようございます!」

作業員が 

軽トラック荷台から工具箱を下しながら

元気よく挨拶してくる

「おはようございます」

私も 現場監督と一緒に軽く会釈を交わす

「寒うなってきましたけど 頼みますよ」

「はい よろしくお願いします」

秋の気配は 紅葉はまだ来ない

空気は澄んでいるのに どこか緊張感が漂う


現場の朝の風景は

作業員たちは防寒を兼ねた作業着

重機は既に朝イチの点検完了

黒板にはその日の作業指示が書かれている

八時 基礎ケミチェック

八時半 排水溝位置確認

九時 土壌改良層の施工

それぞれが

順序だてて手元の工事を始める

トントンと工具の音

水平器の電子音が静かに響く

「ここはしっかり 

水はけを考えないといけません」

設計担当の声と 工事担当者の確認の声が

淡々と響いていく

私は 現場の一角に立って人々を見ていた

目の前に並ぶ機械や重機

足元に敷かれた保護マット


昨年から

道の駅を作ると言い出した時から

住民投票前の数度にわたる説明会

そして住民投票

東京での国交省との打ち合わせ

県 国との会議

クラウドファンディングの準備

そのすべてが

この瞬間へと流れ込んでくる

この村も ここまで来たんやな

胸の奥で 静かな感動が広がる

「山中さん」

傍らで菫が声をかける

菫も 現場用の黄色いヘルメットを被り

少し緊張した笑顔を見せていた

「順調ですよ みなさん 朝が早いですね」

「ええ 現場は時間が勝負ですから」

私は空を見上げる まだ雲は低く

光がゆっくり地面に差し込んでいく

この空気が この土地が 

この工事の始まりを

静かに祝福しているようだった

現場の一角で

作業員同士の小さな会話が聞こえる

「前の現場とは違いますね」

「うん こっちは住民との距離が近い」

「地域の人たち ちゃんと見に来てくれるよ」

「終わったら 祭りみたいに 

やったなあ って感じかな」

そんな声が どこか嬉しそうに 

自然に交わされる

「工事」ではなく

「村の未来を刻む時間」への呼吸だった


八時になり

全員が整列して朝礼を始める

安全確認 今日の工程

設計担当から補足の指示 そして最後に

私の一言

「今日もよろしくお願いします ご安全に」

その声は 確かな決意が込められていた

みんなが

「ご安全に!」

と答える

その掛け声が揃った瞬間

道の駅の建設は 村の仕事 として

本格的に動きだしていた


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― 新着の感想 ―
 堺大和さん、こんにちは。 「この村の灯り 32ご安全に」拝読致しました。  工事開始前のミーティング。  いよいよ、現実の着工へ。  作業員たちが仕事をする様子を、感慨深く見つめる山中。  作…
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