17?!
私が提案した
私が説明し 頭を下げ 会場を回った
反対意見も聞いた不安の声も受け止めた
それでも最後に決めるのは 住民だ
そう思っていた
私は ゆっくりと息を吐いた
もし 反対が多かったら
ここで終わる
終わるのが楽かもしれない
進むほうが ずっと怖い
読み上げは続く
やがて 開票係が顔を上げる
計算機の音 紙の確認 もう一度 数える
「確定します」
担当者が 顔を上げた
「投票率九割二分」
誰かが 小さく息を吸う
「賛成 僅差で多数」
一瞬 時間が止まった 歓声は上がらない
長い沈黙が続いた 会議室を満たす
私の胸の奥に浮かんだのは
喜びではなかった
私は目を閉じてから開いた
逃げ道は もうない
「…決まりましたね」
菫の声は 静かだった
「はい」
私は 天井を見る 椅子に座り直す
九割以上の人が この紙に触れた
その重さが 全員に分かっていた
外に出ると 夜が冷たい
役場の前に何人かが立っている
誰も叫ばない ただ頷くだけだ
「?」
「!」
それで十分だった これは勝利ではない
合意だ
村は自分たちで選んだ その事実だけが
明日から合意より難しい仕事が
明日から始まる
会議室の灯りが消えた後も
私はしばらく席を立てなかった
机の上に置かれた 投票結果の紙
賛成が ほんのわずかに上回っている
安堵の溜息だけがあった
静かになった会議室で
私の胸の奥に残ったのは別の感情だった
進むのか!?
反対が多ければ ここで終わっていた
だが賛成が上回った だから止まれない
誰かに命じられたわけではない
私が提案した 私が前に出した
その事実が 遅れて重みを持つ
本当に引き受けられるのか
椅子の背に体を預ける
時計の音だけが響いている
私が動かした歯車が
音を立てて回り始める
逃げ道はもうない
それでも
この村に 灯りを残したいと思ったのは
私だった
成人式と投票日の翌日
村は 驚くほど普通の朝だった
雪は残っていない
道も 空も 昨日と変わらない
だが 人の声だけが少し違ってた
葵とさくらは 村の小さな商店の前で
缶コーヒーを買っていた
吐く息が白い
「なんか 終わったな」
葵が言う
「始まった やろ」
さくらは訂正する
二人は笑う
「昨日 夜中のニュースみた?」
「見た見た
高校生も投票ってめっちゃ言われてた」
「ちょっと恥ずかしいな」
「でもさ」
さくらは缶を握り直す
「ちゃんと参加したって言えるの 悪くない」
葵は少し考えながら言った
「大人が本気やったんやなって思った」
「うん」
「形式だけじゃなくて」
「逃げきれなかった」
その言葉に二人とも黙る
暫くして 葵は言う
「道の駅 出来たらさ」
「うん」
「衛生管理の話 絶対出てくるやろ」
「出るな」
「そしたら ちょっと関わりたい?」
さくらは直ぐに答えなかった
代りに ゆっくり頷いた
「そやな」
遠くで 移動スーパーの音がする
いつもの軽トラックだ
「前にスーパー潰れた事覚えている?」
葵が聞く
「うん」
「今回は違う形に出来る気がする」
さくらは 小さく笑った
「違う形にする側にならなあかん」
「それな」
二人は同時に言って また笑った
冬の空気は冷たい
でも その会話には少しだけ温度があった
村の未来を
他人事 じゃなく話している
それだけで 昨日までとは違う
葵は空を見上げる
「なんかさ」
「うん」
「この村 ちゃんと動いているな」
さくらは はっきり答えた
「うん 止まっていない」
移動スーパーの音が近づく
いつもの朝の風景
でも二人にはそれが
少しだけ新しく見えていた




