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天然少女のレーシング・デイズ  作者: 鳥魔莉沙


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9/10

最後の調整

速さは、もう隠せない。


言い訳も、遠慮も、ここでは意味を持たない。

ただ走って、遅い者から消えていく。


静かなサーキット。

高鳴るのはエンジンより、胸の奥。


最後の調整。

そして、本番への分岐点。


この場所に残るのは、

走り切った者だけ。

EP9【最後の調整】


メインサーキットは、いつもより静かだった。


エンジン音はある。

でも、いつもの練習走行とは違う。

誰も無駄にアクセルを煽らないし、冗談も少ない。


「これが、AML前の最後の部内トーナメントだ」


部長、坂田りくとの声が、ピットに響く。


「全国アマチュアモーターリーグ。通称AML」

「ここを通らなきゃ、全国には行けない」


はるかは首をかしげた。


「……えっと、それって……すごいやつ?」

「すごいですぞ」


即答したのは、前春たいしだった。


「全国の高校・クラブチームが集まる大会ですぞ。ここで結果を出せば、プロの目にも止まる」

「へぇ……」


はるかは正直、ピンと来ていなかった。


「つまり」

たいしは少しだけ声を張る。

「ここで勝ち残る人が、本番に行く人ですぞ。たぶん……」


「ふーん……」


はるかはソウルちゃんのハンドルに手を置いた。

難しいことは、もう考えないと決めている。


「今回は部門別だ」

りくとが続ける。


サーキット部門

東雲はるか

七島ほのか

前春たいし

中橋あずさ

中橋なおと

紫乃宮リア

大宮たつな


峠部門

小池みや

有松るか

南出あくあ

坂田りくと

七島りきと


「方式はサドンデス」

「5周走って、最下位が脱落」

「残ったやつが、次へ進む」


ざわ、と空気が張り詰めた。


サーキット部門・第1レース

スタートラインに7台が並ぶ。


たいしは、深く息を吸った。

(……最後の調整)


シグナル。


一斉に飛び出すマシン。

序盤、たいしは悪くなかった。

ラインも安定している。


だが、周回を重ねるごとに、じわじわと差が出る。


派手さがない。

抜かれもしない。

でも、前にも行けない。


5周目。

ゴールラインを越えた瞬間、電光掲示板に表示された。


最下位

前春たいし


「……っ」


たいしはハンドルから手を離し、天井を見上げた。


「お疲れさまですぞ……」


誰に言うでもなく、そう呟いた。


ピットに戻る途中、たいしはふと、はるかのマシンを見た。


(……あれ?)


さっきまでと、何かが違う。

でも、言葉にはできなかった。


第2レース


残った6台。

今度は、ほのかとなおとが並んで走る。


「行くよ、お兄」

「ああ!」


二台は、ほぼ同時に飛び出した。


直線では互角。

コーナーでは、なおとがわずかに前。


だが、ほのかは焦らない。

無理に仕掛けず、ぴったり後ろにつく。


4周目。

小さな隙。


ほのかがインに入った。


「なっ……んだとぉ!」


なおとはラインを変えきれない。

そのまま、順位が入れ替わる。


5周目、ゴール。

最下位

中橋なおと


「……マジか」


なおとは苦笑いした。

その横で、あずさが肩をすくめる。


「お兄、だっさ」

「お前に言われたくねぇ!」


だが、あずさはもう興味を失ったように、前を見ていた。


第3レース


残ったのは5台。

はるか、ほのか、あずさ、リア、たつな。

スタート。


ほのかは、最初から前に出ようとしない。

正面から勝つ。

それが、自分のやり方だった。


だが。

あずさが、前に出た瞬間、空気が変わる。


守る。

でも、塞ぎきらない。

インもアウトも、半分ずつ。


「……っ」


ほのかは、仕掛けきれない。

焦る。

一瞬、ラインが乱れる。


その隙を、たつなが抜いた。


5周目。

最下位

七島ほのか


「……はぁ」


車から降り、ほのかは空を見た。


(やっぱ……ダメか)


悔しい。

でも、納得もしてしまっている自分がいた。


第4レース前

ピットに戻る。


残っているのは、4台。


東雲はるか

中橋あずさ

紫乃宮リア

大宮たつな


たいしは、観戦エリアからはるかを見ていた。

ハンドルに触れる手。

視線。

呼吸。


(……やっぱ、違う)


さっきまでのはるかは、

「どう走るか」を探していた。


今は__

ただ、走る気がしている。

はるかは、ふっと息を吐いた。


(気持ちいいところ……)


それだけを、思い出す。


ほのかが、旗を持つ。


「次、行くよ」


エンジン音が重なる。

誰も喋らない。

旗が、ゆっくりと__

振り下ろされた。

削られていく中で、

残った者たちは「速さ」ではなく

「走り方」を問われ始める。


踏み切る覚悟。

並ぶ勇気。

そして、無意識に置かれるライン。


それは技術か。

それとも、感覚か。


誰かの真似じゃない。

勝つためだけでもない。

自分だけの走りが、輪郭を持ちはじめる。


次回、EP10【自分の形】

答えは、もう走りの中にある。


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