表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然少女のレーシング・デイズ  作者: 鳥魔莉沙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/10

足りないもの

峠は、答えをくれない。


同じ道を走っても、

同じ景色を見ても、

結果は、同じにならない。


速いだけでは、届かない場所がある。

感覚だけでは、越えられない壁がある。


並んで走るほどに、

その差は、はっきりと見えてしまう。


これは敗北の話じゃない。

自分に、何が足りないのかを知るための物語だ。

峠は、静かだった。


サーキットの喧騒が遠ざかり、

山の奥には風と、冷え始めたアスファルトの匂いだけが残っている。


スタートラインに並ぶ三台。


赤いカプチーノ。

青いMR-S。

そして、深い赤のRX-8。


小池みや。

坂田りくと。

東雲はるか。


「三人で峠って、なんか特別感あるよね」


みやが、いつもと変わらない調子で言った。

本当に遊びに行く前みたいな声だ。


「気抜くなよ」


りくとは短く返す。

だが、その表情には余裕がある。


はるかは、二人を見比べてから、前を向いた。


(……強い人たちだ)


りくとは、完成されている。

速さも、判断も、ブレがない。


みやは、分からない。

同じ峠を走っているのに、感覚が違う。


(じゃあ、私は……)


エンジン音が三つ、重なった。


合図。


アクセルを踏み込む。


序盤、はるかは遅れてはなかった。


むしろ、ついていけている。

コーナーの入りも、立ち上がりも悪くない。


(いける……!)


前にいるのは、りくと。

その後ろに、みや。


はるかはラインを読む。

相手の動きを感じ取る。


(今……ここ)


一瞬の隙を狙い、距離を詰める。


だが抜けない。


りくとの走りは、無駄がない。

抜かれる隙を、最初から作っていない。


(固い……)


中盤。

みやが、少しずつ離れていく。


派手な動きはない。

なのに、差だけが広がる。


(どうして……?)


はるかはアクセルを踏み足す。

ブレーキを遅らせる。


でも、それ以上はいかない。


(同じ峠なのに……)


後半。


りくとは、一定のリズムを崩さない。

速さが、安定している。


はるかは気づき始めていた。


(私……)


走りながら、考えている。


「ここでどうする?」

「次はどう抜く?」


頭の中が、忙しい。


その一方で、二人は__


考えているように見えない。


りくとは、決めた通りに走っている。

みやは、最初から余裕がある。


(……あ)


はるかの中で、何かが引っかかった。


自分は、

相手を見て、感じて、即興で動く。


それは強みだった。

でも__


(型が、ない……?)


だから、

相手が完成されていると、押し切れない。

相手が崩れないと、勝ち切れない。


ゴール。


1位、小池みや。

2位、坂田りくと。

3位、東雲はるか。


エンジンを止めると、急に静かになった。


「はるかちゃん、速かったよ?」


みやが、屈託なく言う。


「……でも、勝てなかった」


はるかは、正直に答えた。


りくとが、ちらりとこちらを見る。


「気づいたか」

「え?」


「お前、強いけど……まだ不安定だ」


はるかは、うなずいた。


(分かってる)


速さはある。

感覚もある。


でも__


(積み重ねが、足りない......)


何度でも再現できる走り。

崩れない土台。


それが、自分にはない。


はるかは、RX-8のボンネットに手を置いた。


「……まだ、なんだね」


みやは首をかしげて笑う。


「まだ、って思えるなら大丈夫だよ」


その言葉が、胸に残った。


峠は、何も答えてくれない。

でも__


(次は……)


はるかの中で、確かに何かが芽生えていた。

速さは、ある。

感覚も、才能も、確かにある。


それでも勝てなかった理由が、

この日、はっきりと見えてしまった。


完成された走り。

崩れない土台。

何度でも再現できる「型」。


感覚だけでは届かない世界が、そこにある。


でも__

足りないことに気づけたのなら、立ち止まる必要はない。


考えるべきか。

感じるべきか。


迷い始めた少女は、

次に「走り方」ではなく、

「向き合い方」を探し始める。


次回、【考えること】


答えを探すために、彼女は一度、アクセルを緩める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ