表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然少女のレーシング・デイズ  作者: 鳥魔莉沙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

リベンジのDH

噂は、広まるだけでは終わらない。

やがてそれは、試される。


名前のついた走り。

注がれる視線。

そして、比べられる速さ。


遊びでも、練習でもない。

勝ちと負けが、はっきり分かれる場所へ。


校舎裏のサーキットで、

今日、レースが始まる。

「集合ー!」


校舎裏のサーキットに、部長・坂田りくとの声が響いた。

エンジン音が次々と止まり、レーシング部の部員たちがピット前に集まってくる。


ここ数日、学校中である言葉が囁かれていた。

2:2ドリフト__。

はるかが無意識にやってのけた、あの奇妙で危うい走り。


「今日は部内トーナメントだ。くじで部門分けるぞ」


りくとは淡々と言い、箱を掲げた。

峠か、サーキットか。ただそれだけで、空気が一段引き締まる。


順番にくじを引き、紙を開く。


結果は__


峠組

東雲はるか

七島ほのか

前春たいし

小池みや

坂田りくと

中橋なおと


サーキット組

大宮たつな

七島りきと

中橋あずさ

有松るか

南出あくあ

紫乃宮リア


「……あれ?」


たいしが紙を見て首をかしげる。

その横で、たつなが何でもない顔で肩を叩いた。


「ま、いいんじゃない?たいしくん峠好きでしょ」

「え、いや……」

「それにさ、はるかと一緒の方が気楽じゃない?」


一瞬だけ、たいしは言葉に詰まった。

そのやり取りを、はるかは少し離れた場所からぼんやり見ていた。


(なんか……楽しそう)


たつなが峠が苦手だなんて、はるかは知らない。

たいしに気を遣ったように見せかけた、さりげない嘘も。


「じゃ、峠組からいくぞ」


りくとの声で、空気が切り替わった。


第1レース

前春たいし vs 小池みや


スタートラインに並ぶ、黄色のスイフトと赤いカプチーノ。

たいしはハンドルを握りしめ、深く息を吸った。


(……勝ちたい)


シグナルが消え、二台が飛び出す。


直線ではスイフトがわずかに前に出る。

だが、最初のコーナーに差し掛かった瞬間、流れが変わった。


みやのカプチーノが、ひらりと向きを変える。

ブレーキは最小限。ハンドル操作は早く、軽い。


「うそ……」


たいしがブレーキを踏んだ時には、もう一台分の差ができていた。


次の連続コーナー。

みやはアウトからインへ、無駄のないラインで滑り込む。

カプチーノの軽さが、峠で牙を剥く。


たいしは必死に食らいつこうとするが、差は縮まらない。

むしろ、少しずつ広がっていく。


ゴール。


「はい、おしまい!」


カプチーノから降りたみやが、にこっと笑った。


「手加減……してたよね」

「うん。だってさ、たいしくん緊張しすぎだもん」


悪気のない一言が、胸に刺さる。

それでも、たいしは何も言い返せなかった。


(……完敗だ)


第2レース

七島ほのか vs 東雲はるか


黒い90スープラと、赤いRX-8。

因縁の二台が、峠のスタートラインに並ぶ。


「……負けないから」


ほのかが、低く呟く。

はるかはきょとんとして、うなずいた。


「うん。私も、がんばる」


シグナル。

二台はほぼ同時に飛び出した。


序盤は拮抗。

ほのかの90スープラは安定感があり、無駄がない。

一方、はるかはラインが柔らかく、時折ふわりとした動きを見せる。


中盤、ほのかがインに入った。

一気に前へ出る。


(このまま……!)


そう思った瞬間。


はるかの脳裏に、ある光景が浮かんだ。

中橋兄妹__。

道の真ん中を塞ぎ、抜かせなかったあの走り。


(あ、これ……使えるかも)


はるかはアクセルを緩めず、わずかにラインをずらした。

完全に前に出るのではなく、並ぶ。


ほのかの90スープラが、行き場を失う。


「っ……!」


インもアウトも、どちらも中途半端。

抜こうとすれば、接触のリスクが高い。


その一瞬の迷いを、はるかは逃さなかった。

アクセルを踏み込み、コーナー出口で前に出る。


「……そういう、戦い方……」


ゴールした後、ほのかは唇を噛みしめた。


悔しい。

でも、それ以上に__。


(……認めるしか、ないじゃん)


第3レース

中橋なおと vs 坂田りくと


最後に残ったのは、白いシビックと青いMR-S。

サーキット組も集まり、全員がこのレースを見つめていた。


「行くぞ」


りくとは、それだけ言った。


スタート。

なおとは一気に加速し、先行する。

だが、りくとは慌てない。


コーナーごとに、差が削られていく。

ブレーキ。立ち上がり。ライン。


すべてが、正確だった。


最後のコーナー

りくとは、まるで当たり前のようにインに入り、前に出た。


「……嘘だろ」


なおとが呟く。


そのまま、差は開く一方だった。

ゴール。


誰も、すぐには声を出せなかった。


「やっぱ……部長、別格だね」

「次元が違う……」


りくとは窓を開け、周囲を一瞥した。


「これが、今の部内の頂点だ」


はるかは、その背中を見つめていた。


(……すごい)


でも、不思議と怖くはなかった。

むしろ胸の奥が、少しだけ熱くなっていた。


(あそこまで、行けるのかな……私)


エンジンの余熱が残る峠で、

次の戦いの気配が、静かに芽吹いていた。

峠は、速さだけで勝てる場所じゃない。

気持ちだけでも、技術だけでも足りない。


勝った者。

負けた者。

そして、まだ届かない者。


部内トーナメントは、

「実力」をはっきりと形にした。


強さには、順番がある。

だが、その順番は、決して固定じゃない。


万能に見えた走りにも、

まだ知らない弱点がある。


次に試されるのは、

峠ではなく、サーキット。


速度が上がり、余裕が消える場所で、

2:2ドリフトは通用するのか。


次回、【万能じゃなかった】

その答えが、走りの中で明らかになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ