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天然少女のレーシング・デイズ  作者: 鳥魔莉沙


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4/5

2:2ドリフト

才能は、

本人が名乗る前に、周囲が見つけてしまう。


理屈じゃない。

技でもない。

ただ「走りやすいから」という理由だけで選ばれたラインが、

いつの間にか、言葉になっていく。


昼休みの食堂。

画面に映る赤いRX-8。

そこから始まる、小さな違和感。


それはまだ、

名前のない走りだった。

昼休みの食堂は、いつもより少しだけ騒がしかった。


理由は単純だ。

壁に設置された大型モニターに、昨日のレーシング部・紅白戦の映像が流れていたからだ。


「え、あの赤いRX-8、動きおかしくね?」

「でもさ、順位見て。1位なんだけど」

「意味がわからん……」


スプーンを止めた生徒たちが、画面に釘付けになる。


映像の中。

縁石をかすめ、芝にタイヤを乗せたまま旋回する赤い車体が、ありえない速度でコーナーを抜けていく。


「……確かに変なドリフトだね」


そう言ったのは、たまたまその場に居合わせた校長先生だった。


「前輪はアスファルト、後輪は芝。普通は嫌がる動きだよ」


「ですよね!?」

「変ですよね!?」


生徒たちが一斉にうなずく中、当の本人はというと。


「……2:2……?」


東雲はるかは、まったく別のものを見ていた。


トレーの上。

昨日、みやに買ってもらった『天然でもわかる中学数学』を開き、比のページをじっと見つめている。


「2:2……? あ、これって……」

「ドリフトだね」


校長先生のその一言と、はるかの小さなつぶやきが、なぜか重なった。


「……2:2ドリフト?」


誰かが、ぽつりと呟いた。


その言葉は、午後にはもう、校内を一周していた。


翌日の放課後。

はるかは今日もメインサーキットで、無意識に同じ走りを繰り返していた。


縁石に寄せすぎず、離れすぎず。

前輪はアスファルトを捉え、後輪だけが芝をなぞる。


「……やっぱり、これが落ち着く」


外周フェンスの向こう。

腕を組んでコースを眺めている少女がいた。


「……相変わらずだね」


小池みやだった。


そのすぐ隣に、黒いジャケットの女性が立っている。

表情は落ち着いているが、視線だけは一瞬もコースから離れない。


「前輪と後輪、完全に役割を分けてる」

「でしょ。だから言ったじゃん、変なのに速いって」


みやは、どこか誇らしそうに言った。


「……あの子が?」

「うん。東雲はるか」


その頃、外周のベンチでは。


「……あのRX-8、またやってるな」

「縁石ギリじゃなくて芝使ってるやつだろ?」

「あれだよ、今噂の……2:2ドリフト」


その言葉に、工具を片付けていたたいしの手が止まった。


「……2:2ドリフト?」


スマホで検索しても、何も出てこない。


当然だ。

それはまだ、理論でも技でもない。


ただ1人の少女が、走りやすいから選んだラインに、

あとから名前が追いついてきただけなのだから。


走行を終え、はるかがピットに戻ってくる。


「あ、東雲氏!」


たいしが駆け寄る。


「2:2ドリフトって、知ってますかな?」

「なにそれ」


はるかは首をかしげる。


「縁石だとソウルちゃんが痛そうだし、越して半分ずつが、一番落ち着くんだよ」


たいしは苦笑した。


「……それが一番、強いですぞ」


「いい走りだった」


低く、落ち着いた声。


振り返ると、さっきまでみやの隣にいた女性が立っていた。


「小池なつき。プロチーム【MIRIUS】でスカウトをしているわ」


たいしが息を呑む。


「2:2ドリフト。理屈じゃなく、身体で理解してる走りね」


「……変、ですか?」

「いいえ。才能よ」


「正式に、スカウトしたい」


少し考えてから、はるかは答えた。


「大会を優勝してからでも、いいですか?」


「……いい答えね」


その時、みやが一歩前に出た。


「ママ、約束でしょ」

「え?」


「はるかは今、途中なんだから」


なつきは一瞬驚き、そして笑った。


「そうね」


夕暮れのサーキット。

赤いRX-8が静かにエンジンを冷ましている。


それはまだ、理論でも技名でもない。


けれど確かに、

2:2ドリフトは、この日、芽を出した。

昨日、芽を出した技__

それはまだ名前も理論もない、ただの走りだった。


けれど、校内に囁かれる「2:2ドリフト」の噂は、確実に広がっていく。

赤いRX-8を操る少女の柔らかくも確かなラインが、

仲間たちの心に、小さな衝撃を残した。


次は部内トーナメント。

峠組とサーキット組、因縁のライバルたち。

勝負の舞台は、学園のサーキットに移る。


才能はまだ、芽生えたばかり。

でも、少女の走りは、静かに次の物語を告げていた。


次回、【リベンジのDH】

白熱する峠、交錯する想い。

果たして、はるかは自分の限界を超えられるのか。


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