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天然少女のレーシング・デイズ  作者: 鳥魔莉沙


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3/5

紅白戦

同じコースを走っても、

見ている景色は、人それぞれ違う。


前を見る者。

後ろを気にする者。

誰かの背中を、無意識に追ってしまう者。


並んで走るということは、

速さだけじゃなく、

気持ちまで比べられるということだ。


今日は勝負。

でも、本当に試されるのは__。

ロータリーの乾いたエンジン音で目が覚めた。

まだ眠いままカーテンを開けると、視界に飛び込んできたのは__


「なにしてんの、あいつ……」


はるかのRX-8が、メインサーキットで縁石を超えながらドリフトしていた。

アスファルトと芝の境界線をなぞるような軌道。

芝にはタイヤ跡が縦横無尽。まるで車が踊っているかのようだった。


「……はるか?……朝から何やってんの……」


ほのかは呆れ顔で、しかし心の奥で小さな嫉妬の炎が燃えた。

彼女の瞳がわずかに細まる。あの子、楽しんでる。


「……認めたくないけど……朝からあの動き……すごい……」


ほのかはそっとカーテンを閉め、ため息をひとつ。


数時間後。

部員全員が駐車場に集められた。


部長、坂田りくとがホワイトボードをドンと叩き、声を張る。


「今日は交流会だ。紅白戦をやる。くじ引きでチームを決めるぞ」


部員たちはざわざわとくじを引く。

そしてざわめきの中、チームが発表された。


白チーム

サーキット組、東雲はるか、前春たいし、七島りきと

峠組、小池みや、南出あくあ、有松るか


赤チーム

サーキット組、七島ほのか、中橋なおと、中橋あずさ

峠組、紫乃宮リア、坂田りくと、大宮たつな


「おぉ、東雲氏と同じチーム!これは光栄ですぞ!」

「声、漏れてるよ〜?」


くすくすと笑うほのかの前に、赤チームの中橋兄妹が近づいてきた。


「ほのかちゃんだよね? 僕は中橋なおと。同じ赤チームだからさぁ__」

「え、あ……」


次の瞬間、なおとの体が宙を舞った。

気づけば芝生に叩きつけられていて、見上げると__


「ごめんね、ほのかちゃん。私は中橋あずさ。お兄さぁ、ナンパしか脳がないの」


ほのかは驚いて目を大きく開く。


あずさはにこにこしながら芝生をスキップし、なおとに手を差し伸べた。


「さ、気を取り直して作戦会議よ〜」


その光景を見ていたたいしは、慌ててはるかの方へ駆け寄った。


「東雲氏! わいらも作戦を立てるですぞ!」

「作戦? なんで?」

「そ、それは……」


言葉に詰まるたいしを助けるように、白チーム・サーキット組唯一の3年、七島りきとが口を挟む。


「作戦は大事だぞ。誰が前に出るか、とかな」

「じゃあ作戦は超自由型で!」


はるかはソウルちゃんのボンネットに手を置き、笑顔で言った。


そしてレース開始前。

スタートラインに並ぶ白チーム、はるか・たいし・りきと。

対する赤チームは、ほのか・なおと・あずさ。


水色髪で背の低い先輩が、無線機を配りながら説明する。


「これ、レース中に仲間とやり取りできる無線ね。それとルール確認。

順位ごとにポイントが入る方式で、1位10pt、2位8pt、3位6pt……って感じ。

このあと峠組も走って、合計ポイントが多いチームの勝ちだよ」


「先輩! 似合う?」

「うん、似合ってるよ」


「スタート準備はいいか」

坂田部長が声をかける。


「じゃあ……3、2、1、GO!」


一斉にアクセルを踏み込む。

はるかのソウルちゃんが一瞬うなった。


前方には、赤チーム中橋兄妹の鉄壁ブロッキング。


「むぅ……これじゃ抜かせないよ……」

「お兄! このまま並走でいいよね?」

「あぁ! ほのかちゃんのリードを広げよう!」


なおとの白いシビックType Rと、あずさのソウルレッドのNDロードスター。

その先には、かなり前を走るほのかの90スープラ。


「東雲氏! このままでは七島妹氏との差が!」

「わかってる……でも、やるしかないよね……」


はるかはステアリングを切り、前輪をアスファルトに、後輪を芝に乗せた。


後輪が芝に触れた瞬間、ソウルちゃんが軽く鳴く。

車体は滑りながらも、確実に前へ出た。


「よし……このラインなら……!」


鉄壁のわずかな隙間を縫い、はるかが前へ出る。


「抜かれたお兄!」

「くそっ……!」


同時に、りきとも兄妹を抜いた。


コーナーの先に、ほのかの黒い90スープラ。


「このまま、ドリフトで……」


はるかは速度を落とさず、距離を詰める。


(……嫌な予感がする)


バックミラーに映るソウルちゃん。


後半コーナー。

前にほのか、後ろにりきと。


「……ここで抜く!」


縁石を越え、再びドリフト。

境界線を滑り、はるかは一気に前へ出た。


「な……朝の……!」


ほのかは唇を噛みしめる。


「2位なら……8ポイント……」


「その油断が原因だな」

「りきと!?」


そのままゴール。


モニターに結果が表示される。


1位 東雲はるか 10pt

2位 七島りきと 8pt

3位 七島ほのか 6pt

4位 中橋なおと 3pt

5位 中橋あずさ 2pt

6位 前春たいし 1pt


その時、ピットでは__


「やった……!ソウルちゃん、ありがとう!」


私はボンネットを撫でて安堵の笑顔。

ほのかは唇をかみ、悔しさを抑える。


「……負けたけど……朝の……ドリフト……」


心の中でつぶやきながらも、顔には強がりの笑みを浮かべた。


「意外とやるじゃない。でもまぁ、ドリフトだけできても直線じゃ意味ないから」

「でも今は勝てたことが嬉しい!」


このあと、峠組のレースが行われたがほぼみやの独占状態で

1位、小池みや 10pt

2位、坂田りくと 8pt

3位、南出あくあ 6pt

4位、紫乃宮リア 3pt

5位、大宮たつな 2pt

6位、有松るか 1pt


合計チームポイントは

白チームが36pt

赤チームが24pt


今日の交流会は白チームの勝ちだ。


勝利の余韻が残る駐車場。

白チームの部員たちは歓声を上げ、峠部門全国1位の小池みやは得意げに笑っていた。


「……というわけで、今日の勝者は白チーム!勝利のご褒美として、焼き肉を奢るよ〜!」

「え、ガチ!?負けた奴にも奢ってくれるとかみやち最高!」

「もう……今日だけだよ?」


全員が小走りで寮近くの焼肉屋へ向かう。


そして焼肉屋についた。

店内はまだ昼過ぎだというのに、部員たちの歓声で賑やかになっていた。

焼肉の鉄板からはジュウジュウと肉が焼ける音。香ばしい匂いが鼻をくすぐる。


「みんな好きなだけ食べてね!。今日は新入生歓迎会だから!」


水色髪の先輩がそう言うと、リアが肉を焼きながら話し始める。


「交流会って言ってたけどまだ新入生には自己紹介してないよね」

「あ、確かに!リア先輩以外の名前わかんない!」

「じゃあまずは自己紹介からだな!」


水色髪の先輩はそう言い自己紹介を始めた。


「みやの名前は小池みや。愛車はカプチーノ。去年の峠部門FRクラス全国1位だよ!」

「みやの次はうちやな。うちは大宮たつな。みやちより20cm上、愛車はR32だよ」


たつなが自己紹介を終えるとたいしが反応した。


「R32に乗っているですと!?」

「はいはい落ち着いて〜。たいしくんはみやと席変わろうね」


みやが笑いながらたいしと席を入れ替えた。


自己紹介が一段落すると、テーブルの上は一気に戦場になった。

肉、肉、野菜、肉。とにかく肉。


「はるかちゃん、これ焼けてるよ!」

「本当ですか!?あずさ先輩!」


あずさは慣れた手つきで肉をひっくり返し、にこっと笑った。


「ほら、いい感じ。はるかちゃんはさ、走ってる時と今で全然雰囲気違うよね」

「え?そうですか?」

「うん。走ってる時は別人。今は普通にかわいい後輩」

「えぇ……」


はるかは少し照れながら、焼けた肉を頬張った。

なおとは、少し身を乗り出して、にやっとした笑顔を浮かべた。


「はるかちゃんさ、さっきの走り……正直びっくりしたよ」

「え、そうですか?」

「うん。あんな抜き方、普通しないでしょ、てか連絡先交換しない?」


はるかは首をかしげながら、口いっぱいの肉をもぐもぐさせる。 


「連絡先?」


はるかがきょとんとした顔で聞き返すと、なおとは一瞬だけ言葉に詰まった。


「あ、いや、その……今日一緒に走ったし?チームも一緒だったし?ほら、連絡取れたら便利かな〜って!」

「いや、お兄のは下心しかないでしょ!」


あずさが即ツッコミを入れると、テーブルがどっと笑いに包まれた。


「えぇ!?ひどくない!?純粋なレーサー同士の交流だよ!?」

「さっきびっくりしたからの連絡先交換は不自然すぎ」

「うぅ……妹が厳しい……」


なおとは肩を落とし、箸で肉をつつく。


その様子を見ていたほのかが、ふっと鼻で笑った。


「たいしははるかの隣じゃなくていいの?」

「え、わいが!?」


たいしは一瞬、完全にフリーズした。

箸を持った手が宙で止まり、目だけが泳ぐ。


「な、なんで七島氏がそんなこと言うんですかな……!」

「別に?さっきからずーっと、はるかの方チラチラ見てたから」


ほのかは焼き網の向こうで、肉をひっくり返しながらさらっと言う。

その声は軽いのに、妙に核心を突いていた。


「そ、そんなこと……」

「あるよ」

「ありますぞ」

「あるねぇ」


たいしの隣に座っていたたつなが見事に追撃する。


「え!?ちょ、先輩まで!?」

「わかりやすいっつーの。もっと上手く隠しなよ。走ってる時より今のほうが挙動不審だぞ?」


たいしは真っ赤になって、ついに観念したように肩を落とした。


「……そ、その……東雲氏がすごかったから……」

「すごかったから?」

「尊敬ですぞ!?そ、尊敬!」


「ふーん?」


ほのかはわざとらしく首をかしげ、ちらっとはるかを見る。


はるかはというと__

状況をあまり理解していないのか、焼けた肉を頬張りながら、


「たいしくん、さっきの走りどうだった?」

「え!?」

「私、ちゃんと走れてたかな?ソウルちゃん、無理させてないかなって」


その一言で、たいしの顔がさらに赤くなる。


「……ちゃんとどころじゃないですぞ……」

「?」

「わい、あんな走り初めて見ました……。その……かっこよかったです……」


声は小さく、でも嘘はなかった。


一瞬、テーブルの空気がふっと静まる。


「……ありがとう!」


はるかはにぱっと笑った。

それはサーキットで見せた集中した顔とはまるで違う、素直で柔らかい笑顔だった。


「たいしくんが後ろにいてくれたから、安心して走れたよ」

「……っ!」


たいしは完全に撃ち抜かれた。


「はいはいはい、ここ焼肉屋ね?青春はほどほどにしてもらおうか」


リアが苦笑しながら割って入ると、場の空気がまた笑いに戻る。


ほのかはその様子を黙って見ていた。

少しだけ、ほんの少しだけ視線を伏せる。


(……やっぱり、あの子……)


悔しい。

でも、それ以上に目が離せない。


「……ねぇ、はるか」

「なに?」


「次はさ、正面から勝負しよ」

「うん!その方が楽しそう!」


即答だった。

その返事を聞いて、ほのかは小さく笑った。


「……ほんと、調子狂うんだから」


焼肉の煙の向こうで、

それぞれの想いが、少しずつ走り出していた。

峠でも、サーキットでもない。

けれど確かに、

彼女の走りは普通からズレ始めていた。


理屈じゃない。

技名もない。

ただ「走りやすい」という感覚だけで選ばれたライン。


その違和感は、

やがて言葉になり、

名前になり、

噂になっていく。


そして次回、

その走りに__

比が与えられる。


次回、

【2:2ドリフト】


才能は、

まだ自分の異常さに気づいていない。

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