第2章: 村の危機とレベルアップ
村への帰り道、カインは自分の手を見つめた。視界に文字が浮かぶ。
『カイン/レベル15/転移者』
『スキル:システム介入、敵情報解析、戦術予測』
『弱点:魔力消費が激しい、物理防御力が低い』
「お前、さっきから何を見ている」
「自分のステータスだ。お前のも見えるぞ」
『リーザ/レベル18/元王国騎士・斥候』
『スキル:狙撃、隠密行動、魔力付与(矢)』
『特性:冷静沈着、単独行動に特化』
「レベル18か。俺より強いな」
「当然だ。私は十年戦場にいた」リーザが弓を肩に担ぐ。「だが、お前の能力は規格外だ。システム介入なんて、聞いたこともない」
カインの視界に、また新しいメッセージが表示された。
『次の任務:古代遺跡調査』
「どうやら、休む暇はなさそうだ」
村に着く前、カインは森の空き地で立ち止まった。
「待て。試したいことがある」
視界に魔法体系のコードが展開される。この世界の魔法は、システムの一部だ。ならば―
「新しい魔法を、作れるかもしれない」
手を伸ばし、念じる。石が浮いた。
『新規スキル生成:念動力』
『レベル1/射程5m/重量制限10kg』
「これは...」
リーザが目を見開いた。「魔法を...自分で作ったのか?」
「システムに干渉できるなら、新しいスキルも追加できる」カインが集中すると、複数の石が宙に浮き、円を描いて回転した。「まだ小さな物しか動かせないが、鍛えれば―」
石の一つが、遠くの木に高速で飛んだ。幹に深く突き刺さる。
「武器になる」
「面白い」カインの目が輝いた。「もっと試してみる」
視界にコードを展開する。念動力の応用―物を動かすだけでなく、自分も動かせるはずだ。
足元に魔力を集中させる。体がふわりと浮いた。
『新規スキル生成:浮遊』
『レベル1/持続時間30秒/高度3m』
「飛べる...!」
だが、制御が難しい。体が傾き、木に激突しそうになる。リーザが矢で木の枝を撃ち、落下を防いだ。
地面に降り立ち、息を整える。
「調子に乗るな」リーザが呆れた顔をする。「新しい力は、使いこなせなければ危険なだけだ」
「分かってる。だが―」カインが拳を握る。「この力があれば、もっと多くの人を救える」
「多くの人を救える」カインが拳を握る。
「救わない」
リーザの冷たい声に、カインが振り返った。
「何?」
「聞こえなかったのか。救わない、と言った」リーザが弓を下ろす。「お前の能力は強力だ。だが、それで世界を救おうなんて思うな」
「どういう意味だ」
「私は騎士団にいた。正義のために戦う者たちを、嫌というほど見てきた」リーザの目が険しくなる。「そして、彼らがどう壊れていくかも」
風が吹き、木の葉が舞う。
「お前の力は世界を変えられる。だからこそ、全てを背負おうとするな」リーザが一歩近づく。「救えるのは、手の届く範囲だけでいい。それ以上を望めば―お前が壊れる」
カインは黙り込んだ。リーザの言葉が胸に刺さる。
「でも、この力があるのに何もしなければ―」
「誰も、お前に全てを押し付けていない」リーザが肩に手を置いた。「システム介入者だろうが転移者だろうが、お前は一人の人間だ。できることをすればいい。それだけで十分だ」
カインは空を見上げた。異世界から来た自分。この世界を救う使命があるような気がしていた。
「お前は、どうして戦ってる」
「最初は国のため。今は―」リーザが小さく笑う。「生きるため。それと、少しだけ、大切な人を守るため」
「大切な人?」
「さあな」リーザは歩き出した。「早く村に戻るぞ。神父が待ってる」
カインも後に続いた。少し、気が楽になっていた。
村が見えてきた。だが、様子がおかしい。
煙が上がっている。カインの視界に警告が表示された。
『警告:敵性反応検知』
「まさか...」
二人は走った。村の入口で、村人たちが武器を手に何かと対峙している。
それは人間だった。黒いローブ―神殿にいた魔術師たちと同じ服装。
「影喰らいの王を封印した者はここにいるはずだ。差し出せ」
エドワード神父が前に出た。「去りなさい。ここには誰も―」
魔術師が手を上げる。炎が神父に向かう―
カインが念動力で炎の軌道を逸らした。魔術師が驚いて振り返る。
「見つけた」
魔術師の背後から、さらに五人が現れた。
「王の復活を邪魔した罪、この命で償ってもらう」
「村人は下がれ!」リーザが叫んだ。
魔術師たちが一斉に呪文を唱え始める。火球、氷槍、雷撃―様々な魔法が二人に向かってくる。
カインは両手を広げた。念動力で周囲の石や木片を浮かべ、盾のように展開する。魔法が物体に当たり、爆発する。
「リーザ!」
「分かってる!」
リーザが跳躍し、屋根の上から矢を放つ。魔力を込めた矢が一人の魔術師の肩を貫いた。
だが、敵は怯まない。残りの五人が陣形を組む。
『警告:高位魔法詠唱開始』
カインの視界に赤い文字が表示される。中央の魔術師が、巨大な魔法陣を展開していた。
「まずい...集団魔法だ!」
村ごと吹き飛ばす威力―時間がない。
カインは地面に手を叩きつけた。
「システム介入!」
視界にコードが溢れ出す。魔法陣の構造を解析し、逆算する。この魔法を打ち消すには―
『カウンター魔法陣生成:成功率68%』
「賭けるしかない!」
カインの周囲に光の魔法陣が浮かび上がった。敵の陣と同じ大きさ、逆回転。
「馬鹿な...対消滅魔法だと!?」中央の魔術師が叫ぶ。「そんなものを即座に構築できるはずが―」
二つの魔法陣が衝突した。
光の奔流。爆音。
カインは必死に魔力を注ぎ込む。視界が霞む。
『HP:15%』
『MP:残り5%』
膝が崩れそうになる―その時、背中に温かい手が触れた。
「一人で背負うなと言っただろう」
リーザの魔力が流れ込んでくる。
二人の魔力が融合した。
『MP回復:25%』
光の魔法陣が強度を増す。敵の魔法陣が軋み、ひび割れていく。
「ありえない...二人の魔力を同調させるなど...」
魔術師たちの陣が崩壊した。反動で全員が吹き飛ばされる。
カインとリーザは立ったままだった。
『カインMP:8%』
『リーザMP:12%』
ほぼ空っぽ。だが、勝った。
倒れた魔術師たちに村人が縄をかける。中央にいた男が睨みつけてきた。
「これで終わりだと思うな。我らが教団は...世界中に広がっている...次は、もっと強力な刺客を―」
リーザの矢が、男の足元に刺さった。
「黙れ」
エドワード神父が近づいてくる。「お二人とも、大丈夫ですか」
カインは頷いた。だが、体が限界だった。
その瞬間、カインの体が光に包まれた。
『レベルアップ!』
『カイン:レベル15→17』
『HP・MP全回復』
『新規スキル獲得:魔力共鳴』
疲労が嘘のように消える。体に力が満ちていく。
「これは...」
隣でリーザも光っていた。
『レベルアップ!』
『リーザ:レベル18→20』
『HP・MP全回復』
『新規スキル獲得:精密射撃・極』
リーザが自分の手を見つめる。「強くなった...実感できる」
村人たちが歓声を上げた。二人の英雄が、光に包まれて立っている姿は、まさに伝説のようだった。
カインは新しく獲得したスキルの説明を読む。魔力共鳴―他者と魔力を同調させる能力。さっき偶然できたことが、正式なスキルになった。
「これで、もっと連携できる」
「ああ」リーザが微笑んだ。「次も、共に戦おう」
村の集会所で、捕らえた魔術師たちを尋問した。
「教団の本拠地はどこだ」
魔術師は口を閉ざす。カインが手をかざすと、視界に情報が浮かんだ。
『嘘発見:使用可能』
「北の古都ザルガンに本部がある。そうだろう?」
魔術師の顔が歪んだ。「な...なぜ知っている...」
「システムは全てを教えてくれる」
リーザが地図を広げる。「ザルガン...王都から三日の距離だ。かつて魔術師の都として栄えたが、百年前に放棄された」
エドワード神父が重々しく語った。「あそこには禁書庫があると聞きます。古代の魔術書が眠る場所」
カインとリーザは顔を見合わせた。
「行くしかないな」
「ああ。だが、その前に準備が必要だ」リーザが立ち上がる。「装備を整えよう」
「その前に」カインがリーザを呼び止めた。「お前は一般的な魔法をどのくらい使える?」
リーザが考え込む。「基礎魔法は一通り。火球、水弾、風刃...戦場で必要なものは使える。だが、得意というほどではない。私は弓が専門だ」
「なら、俺が教えよう」
「お前が?」
「システムで魔法の構造が見える。最適な詠唱法、魔力の流し方も分析できる」カインが手を伸ばす。「手を出せ」
リーザが恐る恐る手を差し出す。カインが触れた瞬間、彼女の体に魔力回路が可視化された。
「お前の魔力の流れ...無駄が多い。ここをこう修正すれば―」
カインが指で軌道をなぞる。リーザの目が見開かれた。
「これ...魔力消費が半分になる...」
「次はこれを教える」カインが石を浮かべた。「念動力―テレキネシス」
「それ、お前だけの特殊能力じゃないのか」
「システムに登録したから、他の人も習得できるはずだ」
リーザは懐疑的だったが、カインの指示に従って手を伸ばした。魔力を集中し、イメージする―
小石がわずかに震えた。
「できた...!」
「近距離なら初心者でも扱いやすい。物を掴む、押す、引く」カインが実演する。「遠距離は難しいが、矢に念動力を付与すれば軌道修正ができる」
リーザの目が輝いた。「それは...狙撃の精度が格段に上がる」
彼女は矢を番え、放つ。途中で軌道が曲がり、木の裏側の的に命中した。
「これは...強い」
訓練の後、二人は井戸で水を飲んだ。
「そういえば、お前は歳いくつだ」カインが尋ねた。「俺は25だ」
リーザが一瞬、動きを止める。「...26だ」
「一つ上か」
「それが何か」少し不機嫌そうな声。
「いや、別に」カインが笑う。「てっきりもっと若いかと」
「騎士団に入ったのは16の時だ。それから十年、ずっと最前線にいた」リーザが空を見上げる。「年相応に見えないと言いたいのか」
「そうじゃない。経験豊富なのに、まだ26なのが驚いただけだ」
リーザの表情が少し和らいだ。「...そうか」
「お前、年齢を気にしてるのか?」
「してない」即答。だが、頬が少し赤い。
カインは笑いをこらえた。意外な一面だった。
「待て、お前の完全なステータスを確認させてくれ」
カインが集中すると、二人の詳細情報が展開された。
【カイン】
レベル:17
HP:580/580
MP:720/720
攻撃力:85
防御力:62
魔力:142
スキル:システム介入、敵情報解析、戦術予測、念動力Lv3、浮遊Lv1、魔力共鳴、嘘発見
【リーザ】
レベル:20
HP:720/720
MP:580/580
攻撃力:156
防御力:98
魔力:108
スキル:狙撃、隠密行動、魔力付与(矢)、精密射撃・極、念動力Lv1、基礎魔法各種
「お前、攻撃力が俺の倍近いな」
「当然だ。私は前線で戦ってきた」リーザが腕を組む。「だが、お前の魔力は異常だ。レベル17でMP720とは」
「システム介入に必要なんだろうな」
二人は互いの長所を理解した。完璧な補完関係だ。
「気づいたか」カインがステータスを見つめる。「二人とも防御力が弱い。直接攻撃を受けたら危険だ」
「確かに。私は回避重視で戦ってきたが...」
「なら、防御魔法を開発しよう」カインが新しいコードを展開する。「鎧のような魔法―魔力で体を覆う。そして、バリア」
光の膜が二人の体を包んだ。
『新規スキル生成:魔力装甲』
『新規スキル生成:防御障壁』
「魔力装甲は常時展開できる。消費MPは少ないが、防御力が30%上昇する」カインが説明する。「バリアは瞬間的に強固な壁を作る。ただし消費が大きい」
リーザが拳で自分のバリアを叩いた。硬い音がする。
「これなら...正面戦闘も可能だ」
「二つとも習得しろ。生存率が段違いになる」
「装備はまた今度でいいな」カインが魔力装甲を維持したまま動く。「これがあれば、重い鎧は必要ない」
リーザも同意した。「身軽さを保ったまま防御力が上がる。斥候にとって理想的だ」
エドワード神父が驚いた顔で見ている。「魔力で鎧を...そんな魔法、聞いたこともありません」
「盾も不要だ」カインが片手でバリアを展開する。透明な壁が瞬時に現れた。「必要な時だけ出せばいい。両手が自由に使える」
リーザが弓を構えたまま、足元にバリアを展開してみる。矢を番える動作を邪魔しない。
「これは...革命的だ」彼女が呟く。「従来の戦士たちとは、まったく違う戦い方ができる」
「そうだ。俺たちは新しい戦闘スタイルを作る」
「もう一つ、便利な魔法がある」カインが空間に手を突っ込んだ。黒い穴が開く。「アイテムボックス。異次元に物を保管できる」
薬草や武器を収納してみせる。リーザが目を丸くした。
「荷物を持たずに旅ができる...」
「ああ。それと、浮遊―レビテーションも習得しろ。崖や壁を越えられる」
リーザは集中し、ゆっくりと宙に浮いた。制御に苦労しているが、すぐに慣れるだろう。
『新規スキル習得:アイテムボックス』
『新規スキル習得:浮遊Lv1』
二人は準備万端だ。カインが地図を広げる。
「さて、行くか?古代遺跡調査に」
「待っていた」リーザが弓を背負う。「教団の本拠地ザルガンの前に、情報を集めよう」
神父が手を合わせた。「どうか、ご武運を」
「ザルガンまで空を飛んでいこう」
リーザが呆れた顔をする。「レビテーションは30秒しか持たない。墜落死する気か」
「だから飛行魔法を新しく作る」カインがシステムコードを展開した。「レビテーションは残す。あれは攻撃にも使える」
「攻撃?」
「敵を浮かせて、高所から落とす。効果的だろう」
魔法陣が展開される―
『新規スキル生成:飛行Lv1』
『持続時間:MPがなくなるまで/速度:時速60km/消費MP:毎分5』
「レビテーションは対象指定型、飛行は自己強化型。用途が違う」
二人は村の外れに立った。カインが先に飛び上がる。リーザも魔力を集中させ、ゆっくりと浮上した。
「制御が...難しい」
「慣れだ。俺について来い」
北の空へ。二人の影が、雲の中に消えていった。
村人たちが、空を見上げて手を振っている。
雲の上を飛ぶ。眼下に森や川が広がっている。
「気持ちいいな」カインが笑った。「こんな景色、見たことない」
「私もだ」リーザも珍しく笑顔を見せる。「十年戦場にいて、こんな平和な時間は初めてかもしれない」
一時間ほど飛んだところで、遠くに廃墟が見えてきた。巨大な石造りの建造物が、荒野に点在している。
「あれがザルガンか」
カインの視界に情報が表示される。
『古都ザルガン:魔力反応多数検知』
『危険度:高』
「敵がいる。数は...二十以上だ」
「教団の本拠地だからな」リーザが弓を構える準備をする。「正面から行くか、偵察を先にするか」
二人は廃墟の上空で速度を落とした。
「まずは偵察だ」カインが高度を上げる。「情報なしで突入するのは愚策だ」
二人は雲に隠れながら、廃墟を見下ろした。中央の大聖堂らしき建物から、黒い煙が立ち上っている。
カインのシステムが詳細を解析する。
『敵配置:外周12名、内部8名以上』
『特殊反応:地下に強力な魔力源』
「地下に何かある」
リーザが目を細める。「おそらく禁書庫だ。古代の魔術書が眠っているという」
その時、地上から光の矢が飛んできた。
「見つかった!」
対空魔法―リーザが咄嗟にバリアを展開する。光の矢が弾かれた。
地上で警鐘が鳴り響く。黒ローブの魔術師たちが次々と姿を現した。
戦闘は避けられないな」
カインは剣を抜かない。代わりに、手を伸ばした。
地上の魔術師の一人に意識を集中する。念動力―テレキネシス。対象の首に見えない手が巻きつく。
「ぐっ...!」魔術師が首を押さえる。
カインが手首を捻った。
ゴキリ。
魔術師が倒れる。他の者たちが驚愕の声を上げた。
「何をした...!」
「こっちの方が効率的だ」カインが冷静に次の標的を選ぶ。「剣を振るう必要がない」
リーザが複雑な表情で見ている。「...遠慮がなくなったな」
「敵は俺たちを殺そうとしている。手加減する理由はない」
再び手を伸ばす。二人目、三人目―次々と魔術師たちが首を押さえて倒れていく。
残った者たちが恐慌状態で逃げ出した。
「降りるぞ」
二人は廃墟の中央広場に着地した。倒れた魔術師の遺体が転がっている。
リーザが静かに言った。「カイン、お前...変わったな」
「何が」
「躊躇がない。最初の森では、もっと―」
「慣れた」カインが遺体を一瞥する。「この世界で生きるには、これが必要だと分かった」
リーザは何も言わなかった。ただ、複雑な表情で頷いた。
大聖堂の入口が開いている。中は暗く、階段が地下へと続いていた。
『地下魔力源:距離50m』
「禁書庫はすぐ下だ」
二人が階段を降り始めた時、奥から声が響いた。
「よく来た、転移者よ」
低く、どこか歪んだ声。人間のものではない。
階段の先に、巨大な影が蠢いていた。
影が形をとった。人間の体に、獣の頭。三つの角、六つの腕。
「悪魔...」リーザが息を呑む。
カインの視界に情報が表示される。
『デーモン・ロード』
『レベル:35』
『HP:8500/8500』
『MP:6200/6200』
『特性:高位魔法、物理攻撃無効、魔法耐性80%』
「レベル35だと...」カインの背筋に冷たいものが走る。「俺たちの倍近い」
「我は教団が召喚せし守護者」悪魔が哄笑する。「影喰らいの王が復活するまで、この地を守るのが使命。貴様らのような小物など―」
その時、カインが手を上げた。
テレキネシス―悪魔の首を捻ろうとする。
だが、動かない。
「無駄だ。下等な魔法など、我には通じぬ」
悪魔の六本の腕が、炎を纏った。
炎の球が飛んでくる。二人は左右に飛び退いた。床が爆発し、石が飛び散る。
「物理も魔法も効かない...どうする!」リーザが叫ぶ。
カインは冷静にシステムコードを展開した。悪魔のデータを解析する。弱点は―
『弱点:召喚契約の核(心臓部)』
「召喚された存在なら、契約の核がある。それを破壊すれば―」
悪魔が再び攻撃してくる。六本の腕から雷撃、氷槍、風刃が同時に放たれた。
カインがバリアを展開。だが、威力が強すぎる。ひびが入る。
「リーザ!時間を稼いでくれ!」
「無茶を言うな!」
リーザが矢を連射する。悪魔の動きを少しでも遅らせる。
カインは集中した。システム介入―契約の核を直接書き換える。
『契約解除:実行中...10%』
「待て―新しい魔法を作る!」
カインがシステムに新しいコードを書き込む。テレキネシスの上位版―
『新規スキル生成:サイコキネシス』
『効果:大質量物体の高速操作/威力増大』
周囲の石、崩れた柱、巨大な岩―それら全てが宙に浮いた。
「これなら...物理攻撃無効でも!」
カインが腕を振る。岩塊が弾丸のように悪魔に飛んだ。
ドガァン!
衝撃で悪魔がよろめく。「ぐっ...質量攻撃か...!」
「リーザ、お前もだ!」
リーザがサイコキネシスを習得し、周囲の石柱を操る。二人同時に、無数の物体が悪魔に襲いかかった。
連続する衝突音。悪魔の体に亀裂が走る。
「ありえん...こんな魔法...!」
カインは笑った。「システムを書き換えられるんだ。何でもできる」
「核の位置が見える...胸の中央だ!」
カインの視界に赤い光点が表示される。悪魔の心臓部―そこに召喚契約の核がある。
「リーザ、あそこに集中砲火だ!」
崩れた石柱を持ち上げる。巨大な質量。リーザも別の柱を操る。
二人同時に、核めがけて石柱を射出した。
悪魔が腕で防ごうとする―だが、質量が大きすぎる。
ドゴォォン!
石柱が胸部に激突した。装甲が砕け、奥から青白い光が漏れる。
「核が...露出した!」
カインが周囲の岩を全て集める。サイコキネシスで圧縮し、槍のように尖らせた。
「終わりだ」
岩の槍が、核を貫いた。
悪魔の絶叫。体が光に分解されていく。
「馬鹿な...この私が...転移者ごときに...!」
爆発。衝撃波が広がった。
光が収まった後、二人の体が輝き始めた。
『レベルアップ!』
『カイン:レベル17→22』
『HP:580→920/MP:720→1150』
『全回復完了』
『新規スキル獲得:契約解除、サイコキネシスLv5』
『レベルアップ!』
『リーザ:レベル20→24』
『HP:720→1020/MP:580→820』
『全回復完了』
『新規スキル獲得:サイコキネシスLv3、魔力感知・極』
カインが拳を握る。力が漲る。レベル22―一気に5も上がった。
「強くなった...実感できる」
リーザも頷く。「デーモンを倒した経験値は、桁違いだな」
悪魔が消えた跡に、階段が現れた。さらに深く、地下へと続いている。
『魔力源:距離20m』
「禁書庫はすぐそこだ」
二人は慎重に階段を降りていった。
階段の先は広大な地下空間だった。壁一面に本棚が並び、古代の魔術書が無数に収められている。
「これが...禁書庫」
中央に祭壇があり、その上に黒い本が浮いている。周囲の空気が歪むほど、強力な魔力を放っていた。
『警告:危険物検知』
『古代魔導書:影の福音書』
『影喰らいの王復活の儀式が記載されている』
カインが近づこうとした瞬間、祭壇から声が響いた。
「触れるな」
黒いローブの人影が現れる。顔は深いフードに隠れている。
「お前たちが来ることは、分かっていた」
カインとリーザは武器を構える―いや、魔法を構える。
人影がゆっくりとフードを下ろした。
その顔を見て、リーザの目が見開かれた。
「まさか...隊長...!」
久しぶりだな、リーザ」
中年の男。傷だらけの顔、鋭い眼光。リーザがかつて仕えた騎士団長、セドリック。
「なぜ...なぜあなたがここに」リーザの声が震える。
「なぜ?」セドリックが冷笑する。「王国に絶望したからだ。十年間、戦場で仲間を失い続けた。国は我々を捨て駒のように扱った」
「だからといって、悪魔を崇拝するのか!」
「悪魔ではない。力だ」セドリックが祭壇の本に手を置く。「影喰らいの王が復活すれば、この腐った世界を作り直せる」
カインが割って入る。「狂ってる。その王は世界を滅ぼすだけだ」
「黙れ、転移者」セドリックが剣を抜いた。「お前のような異物が、この世界を語るな」
『セドリック』
『レベル:30』
『HP:5200/5200』
強敵だ。
カインは躊躇なく手を伸ばした。
テレキネシス―セドリックの首に見えない力が巻きつく。
「ぐっ...!」セドリックが首を押さえる。
だが、次の瞬間、彼の体から黒い魔力が爆発した。
「甘いな」
テレキネシスが弾かれる。カインが驚愕する。
「お前の力は既に分析済みだ」セドリックが首を回す。「教団の魔術師たちから情報を得ていた。対策もな」
彼の体を黒いオーラが包んでいる。
『特殊防御:念動無効化』
「くそ...」
「リーザ」セドリックが剣を構える。「お前が手を下せ。私を止められるのは、お前だけだ」
リーザは震える手で弓を握った。かつての恩師に、矢を向ける。
「隊長...本当に、もう戻れないのですか」
「もう遅い」
セドリックが突進してきた。
「新しい魔法を作る!」
カインがシステムコードを猛スピードで書き換える。念動力が効かないなら―重力そのものを操作すればいい。
『新規スキル生成:グラビティ』
『効果:指定範囲の重力を増幅』
セドリックの周囲に黒い球体が現れた。
「これは...!」
突然、セドリックの体が地面に叩きつけられる。重力が10倍になった。
「ぐあっ...!」膝をつく。剣が床に食い込む。
「リーザ、今だ!」
リーザが魔力を込めた矢を放つ。セドリックの肩を貫いた。
「くっ...やはり、お前は...」セドリックが血を吐く。「強くなったな...」
カインが重力をさらに強める。セドリックの体が床に沈み込んでいく。
「もう終わりだ」
「待て...カイン」リーザが手を上げた。「まだ...」
「何を躊躇している」カインが冷たく言う。「こいつは敵だ」
「分かっている。でも...」リーザがセドリックに近づく。「隊長、最後に聞かせてください。なぜ、本当に世界を滅ぼそうとするのですか」
セドリックが苦しげに笑った。「滅ぼす...?違う。浄化するんだ。腐敗した権力者、弱者を踏みにじる貴族...全てを消し去り、真に平等な世界を―」
「その犠牲に、何人死ぬと思っているんですか!」
「...すまない、リーザ」セドリックの目から涙が流れた。「私は...もう引き返せない」
リーザは矢を番えた。手が震える。
「さようなら、隊長」
矢が放たれた。セドリックの心臓を貫く。
彼の体が、光に消えていった。
セドリックの光が消えた後、静寂が戻った。
リーザは弓を下ろし、膝をついた。涙は流さない。ただ、拳を握りしめている。
カインは彼女に時間を与え、禁書庫を見回した。
「これらの魔術書...教団に悪用される前に回収しよう」
壁一面の本棚。数百冊の古代魔術書。カインはアイテムボックスを最大限に展開した。
一冊ずつ手に取り、収納していく。『影の福音書』『死霊召喚の書』『時空魔術概論』『禁断の錬金術』...
『古代魔術書:246冊回収完了』
「これだけあれば...新しい魔法も作れる」
リーザが立ち上がった。目は赤いが、表情は引き締まっている。
「行きましょう。ここにいても、隊長は戻らない」
カインは頷いた。二人は階段を上り始めた。
禁書庫は、空っぽになった。
地上に出ると、夕日が廃墟を照らしていた。
「教団の本拠地は壊滅した。だが...」カインが空を見上げる。「これで終わりじゃない」
「ああ」リーザが頷く。「影喰らいの王を崇拝する者は、世界中にいる。ザルガンは一つの拠点に過ぎない」
その時、カインの視界に新しいメッセージが表示された。
『新規任務:東の帝国にて異変発生』
『推奨レベル:25以上』
「また来たか...」
「何が?」
「システムからの任務だ。東の帝国で何かが起きている」カインが地図を展開する。「そこまで飛んで二日か」
リーザは一瞬、ザルガンの方を振り返った。そして、前を向く。
「行きましょう。立ち止まっている暇はない」
二人は再び空へと飛び立った。
少し休もう」カインが着地した。「さっきから飛び続けている。MPは大丈夫だが、精神的に疲れた」
リーザも降りる。「そうだな。私も...隊長のことが、まだ」
二人は廃墟から少し離れた森の中に入った。小川のほとりに腰を下ろす。
カインがアイテムボックスから乾パンと水筒を取り出した。「村で貰った食料だ」
「ありがとう」
しばらく無言で食事をする。川のせせらぎだけが聞こえる。
「カイン」リーザが口を開いた。「お前は...殺すことに躊躇がなくなった。それで、いいのか」
カインは手を止めた。「分からない。でも、優しさだけでは生き残れない。この世界では」
「...そうだな」
二人は空を見上げた。星が瞬き始めていた。
今夜は、ここで休もう。
焚き火を囲みながら、カインが切り出した。




