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手の届く範囲で世直し  作者: 慈架太子


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第1章: 森の出会いと覚醒


森で魔物を狩っている

オークの群れを狩る

三匹目のオークが倒れた。血塗れの剣を拭おうとした瞬間、森の奥から低い唸り声が響く。木々の間に、さらに大きな影が五つ、六つ。罠だったのか―包囲されている。逃げ道は、もうない。

背中を木に押し付け、剣を構え直す。疲労で呼吸が荒い。魔力もほとんど残っていない。オークたちがゆっくりと距離を詰めてくる。その中央に、一際巨大な個体。首には人間の頭蓋骨を連ねた首飾り。族長か。

奴の手が上がった。合図だ。一斉に襲いかかってくる―その時、横から矢が飛んできた。


矢はオークの族長の肩に突き刺さった。怒号が森に響く。木の上から黒装束の人影が飛び降り、背中合わせに並んだ。

「助かった」

「礼はいい」女の声。短剣を逆手に構えている。「その代わり、後で協力してもらう」

「何を―」

「後で話す。今は生き延びることだけ考えろ」


オークたちが再び襲いかかる。女は信じられない速さで敵の懐に潜り込み、急所を的確に突く。その隙に、こちらも残った魔力を振り絞って炎の壁を展開した。

数分後、最後のオークが地に倒れた。静寂が戻る。女は血を払い、振り返った。

「借りは返してもらう。ついて来い」

「待て、お前は一体―」

女は答えず、森の奥へと走り出した。迷っている暇はない。足を引きずりながら後を追う。

やがて崖の切れ目に隠された洞窟に辿り着いた。中には簡素な寝床と、壁一面に広げられた地図。赤い印が無数に付けられている。

「オークの襲撃は偶然じゃない」女が地図を指差した。「この森全体で、人間が狙われている。組織的にな」

「何が目的だ」

「それを探るために、お前の力が必要なんだ」女の目が鋭く光る。「森の最深部に、奴らの本拠地がある。一人では無理だ。協力しろ」

「信用しろと言われても―」

「信用しなくていい。ただ、お前もこの森で死にたくないだろう」

女は懐から小瓶を取り出し、投げてよこした。傷薬だ。

「俺の名前はカイン。お前は?」

「リーザ。元王国騎士団、情報部」淡々と答える。「三週間前、調査のため単独でこの森に入った。だが、オークたちの動きは予想以上だった。背後に何かいる」

「何かとは?」

「まだ分からない。だが―」リーザは地図の中心、深紅の×印を指差した。「ここで、人間の言葉を話すオークを見た。魔術師か、それとも―」

外で枝の折れる音がした。二人は同時に武器を構える

洞窟の入口に人影が現れた。ぼろ布を纏った老人だ。

「リーザ殿...」掠れた声。「やはり、生きておられたか」

「エドワード神父?なぜここに」

老人は咳き込みながら中に入ってきた。服は血に染まり、片腕が不自然に曲がっている。

「村が...襲われた。オークではない。人間だ。黒いローブを着た魔術師たちが、オークを操っていた」

カインとリーザは顔を見合わせた。

「生贄を...集めている。次の満月に、古代の封印を解くと」老人は震える手で懐から羊皮紙を取り出した。「これを...王都に」

言葉を言い終える前に、老人の体が前に倒れた。

カインが駆け寄り、老人の脈を確認した。まだ微かに生きている。リーザは羊皮紙を広げた。

古代文字で書かれた呪文と、複雑な魔法陣。その中心に「影喰らいの王」という言葉。

「これは...禁忌魔術だ」リーザの顔が青ざめる。「千年前、この大陸を滅ぼしかけた古代魔王を蘇らせる儀式」

「次の満月はいつだ」

「三日後」

沈黙が落ちた。王都まで走っても五日はかかる。間に合わない。

老人が目を開けた。「森の...最深部...そこで儀式が...」力なく腕を伸ばす。「頼む...止めてくれ...」

カインは剣を握り締めた。「行くぞ、リーザ」

「待て」リーザが腕を掴んだ。「準備もなしに行けば死ぬだけだ」

彼女は棚から薬草の束と魔石を取り出した。「最低限、これを持っていけ。それと―」

壁に掛けられた弓を手に取る。「お前は前衛、私が後方支援。連携できなければ勝ち目はない」

「訓練する時間は」

「ない。実戦で覚えろ」

老人に傷薬を飲ませ、毛布をかけた。「神父、ここで待っていてください」

二人は洞窟を出た。月明かりが森を照らしている。木々の向こうに、不気味な赤い光が明滅していた。本拠地の方角だ。

「カイン」リーザが呟いた。「死ぬなよ」

「お前もな」

闇へと、踏み出した。


カインの足が止まった。頭を押さえ、膝をつく。

「どうした!」リーザが支えようとした瞬間、視界が歪んだ。

コンクリートのビル。行き交うスーツ姿の人々。ラーメンの湯気。道路を走る金属の箱。手のひらに収まる光る板―

「これは...何だ...」

記憶じゃない。知識だ。この世界には存在しない、別の世界の。オフィス街、町中華屋、車、スマホ。意味は分からないのに、その言葉が自然に浮かぶ。

「カイン!しっかりしろ!」

リーザの声で意識が戻る。額から冷や汗が流れていた。

「俺は...誰だ...?」

森の奥から、また赤い光が明滅する。その光を見た瞬間、理解した。

この世界は、何かがおかしい。

「カイン、立てるか」リーザの声が遠い。

頭痛が引いていく。だが、流れ込んだ知識は消えない。満員電車、コンビニ、インターネット―この世界にない概念が、確かに頭の中にある。

「俺は...この森で目覚めた。それ以前の記憶がない」初めて口にする真実。「だが今、何か思い出した。いや、違う世界の記憶だ」

リーザが眉をひそめる。「転移者、か」

「知っているのか」

「伝説だけなら。異世界から召喚された者たち。古代魔王を封印したのも、転移者だったという」リーザが赤い光を睨む。「もしお前が転移者なら、偶然じゃない。影喰らいの王の復活と、お前の出現は関係している」

森が、不気味に静まり返っていた。


「待て」カインの手が光り始めた。「これも...」

掌から青白い魔力が溢れ出す。制御できない。地面に文字が浮かび上がった―日本語だ。いや、この世界の文字に変換されていく。

『警告:封印解除まで72時間』

「見えるのか、これが」

リーザは首を横に振る。「何も見えない。お前だけだ」

文字が消え、新たな情報が頭に流れ込む。森の地図、敵の配置、そして―儀式を止める方法。

「分かった」カインが立ち上がる。「俺がここにいる理由が。俺は、この世界のシステムに干渉できる。バグを修正する存在として、召喚されたんだ」

「システム?」

「説明は後だ。行こう。俺には、勝ち筋が見えた」


二人は森を駆けた。カインの視界には、リーザには見えない情報が次々と表示される。

『敵:オーク斥候×2、距離150m』

「右に三十歩、岩陰に隠れろ」

リーザは疑問を挟まず従った。数秒後、二体のオークが通り過ぎる。完璧な回避だ。

「お前、本当に見えているのか」

「ああ。敵の位置、数、レベル...全部」カインが指を動かすと、空中に光の線が描かれた。「最適ルートも分かる」

やがて森が開け、巨大な遺跡が姿を現した。古代の神殿だ。周囲には松明を持った黒ローブの魔術師たち。その数、二十を超える。

中央の祭壇で、何かが蠢いていた。

『警告:封印解除まで68時間』

「時間がない」カインが剣を抜く。「行くぞ」


「待て、正面突破は無謀だ」リーザが腕を掴む。

「大丈夫だ」カインの目に、戦術シミュレーションが展開される。「お前は北側の塔から狙撃。俺が東門から侵入する。タイミングを合わせれば―」

『成功確率:42%』

低い。だが、他に方法はない。

「三分後に開始する。松明が三本消えたら合図だ」

リーザは頷き、影に消えた。カインは東門に回り込む。警備の魔術師が二人。視界に情報が浮かぶ。

『弱点:背後からの奇襲に脆弱』

息を殺して接近。一人目の首筋に手刀―倒れる前に受け止め、静かに地面に降ろす。二人目が振り向く瞬間、剣の柄で側頭部を打った。

松明を三本消す。

矢が飛んだ。


リーザの矢が祭壇付近の魔術師の喉を貫いた。混乱が広がる。

「侵入者だ!」

カインは神殿に駆け込んだ。視界に敵の動きが予測線で表示される。左から斧、右から火球―全て読める。

体を捻り、斧をかわす。火球は柱の影に隠れてやり過ごした。カウンターで剣を振るう。一撃で魔術師を倒す。

『敵残数:18』

祭壇に近づくほど、異様な気配が濃くなる。黒い霧が渦巻き、その中で何かが形を成そうとしている。

「止めろ!」黒ローブの男が叫んだ。「影喰らいの王の復活を邪魔する者は―」

男の額に矢が刺さった。リーザだ。

カインは祭壇へ跳んだ。だが、その瞬間―

黒い腕が、彼の首を掴んだ。


冷たい。生命を吸い取られる感覚。

『警告:HP急速減少。残り30%』

視界がぼやける。黒い霧の中から、巨大な顔が浮かび上がった。人間のようで、人間ではない。六つの目が、カインを見つめている。

「転移者...我を封じた者の末裔か」低く響く声。「今度は、貴様の力を糧に復活してやろう」

力が抜けていく。意識が遠のく―

その時、祭壇に何かが突き刺さった。光の矢だ。リーザが魔力を込めた一撃。

黒い腕が痺れ、グリップ が緩んだ。

カインは視界に表示された文字を読む。

『特殊スキル解放:システム介入』

理解した。自分の手で、この世界のルールを書き換えられる。

「消えろ」

指を、祭壇に触れた。


光が爆発した。

祭壇から魔法陣が剥がれ落ちる。カインの視界に、この世界の根源コードが見えた。無数の文字列、数式、ルール―それらを、書き換える。

『封印強化:実行中』

「何を...している...」影喰らいの王が苦しむ。「これは...創造主の権限...」

「俺はバグ修正プログラムだ」カインが叫ぶ。「お前の存在自体が、この世界のエラーなんだよ!」

黒い霧が収縮していく。王の絶叫が神殿を揺らした。

リーザが駆け寄る。「カイン!」

だが、カインの体も光に包まれていく。システムに深く干渉しすぎた。代償が―

『警告:存在情報の不安定化』

体が透けていく。消えかけている。

「まだ...終わってない...」


「カイン、手を!」リーザが叫んだ。

彼女の手が、透明になりかけたカインの手を掴む。温かい。

「離せ、お前まで巻き込まれる」

「黙れ」リーザの目に涙が光る。「一人で逝かせるか」

その瞬間、二人を繋ぐ光の糸が見えた。絆、信頼、この短い時間で生まれた何か―それがアンカーになる。

『システムメッセージ:現世接続確立』

カインの体が再び実体化していく。リーザの魔力が、彼をこの世界に繋ぎ止めている。

祭壇の中央で、影喰らいの王が完全に封印された。光の鎖が、深淵へと引きずり込んでいく。

「貴様ら...また千年後に...」

断末魔を残し、王が消えた。

静寂。

カインとリーザは、繋いだ手を見つめた。


神殿に朝日が差し込んだ。長い夜が終わる。

二人はゆっくりと手を離した。カインの体は完全に実体化している。

「助けてくれたのか」

「当然だ」リーザが小さく笑った。「一緒に戦った仲間を見捨てるわけにはいかない」

「仲間、か」

「そうだ。文句あるか」

カインも笑った。「ない」

神殿の外に出ると、老人が杖をついて立っていた。傷は癒えている。

「お二人とも...ご無事で」

「神父、体は」

「不思議と。あの封印の光を浴びたら、傷が癒えました」老人が微笑む。「さあ、村に戻りましょう。英雄たちを、皆が待っています」

カインは空を見上げた。視界の端に、まだ文字が見える。

『新たな任務:待機中』

この世界での戦いは、まだ始まったばかりだ。

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