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009

俺は、

今までに感じたことのないほど

胸が高鳴っていた。


逃げ切れたからじゃない。

生き延びたからでもない。


――自分で、

何かを掴んだ気がしたからだ。


俺は男に聞いた。


「……全部一人でできるなら、

どうして俺を連れて行ったんだ?」


男はちらりと俺を見て、

鼻で笑った。


「仕組みを覚えさせるためだ。」


それから、

少し間を置いて言った。


「それと――

俺が“お前のために”盗む理由を

作るためだ。」


俺は言葉を失った。


男は続ける。


「いいか。

お前は自分で食い扶持を

稼げるようにならなきゃならない。」


「誰も、

一生お前を守ってくれはしない。」


俺は黙って、

頷いた。


テントに戻ると、

男は盗んだ財布をひっくり返した。


小銭と紙幣が、

音を立てて散らばる。


……結構な額だった。


俺は思わず聞いた。


「どうして、

あの家の金を

全部取らなかったんだ?」


男は一瞬だけ動きを止め、

静かに言った。


「人には、

情ってもんが必要だ。」


「奴らも必死に働いてる。」


「全部奪ったら、

生きる道がなくなる。」


「少し残してやる。

それが、

俺たちが生きるための

最低限のルールだ。」


俺は、

ゆっくり頷いた。


殴られるんじゃなく、

考え方を教えられたのは――

初めてだった。


だが、

腹が鳴る。


俺は小さく言った。


「……でも、

今は腹が減りすぎてる。」


男は肩をすくめて笑った。


「お前だけだと思うな。」


そして、

突然こんなことを聞いてきた。


「なあ。

魔法って、知ってるか?」


俺は目を瞬いた。


「……魔法?」


そんな言葉、

聞いたことがなかった。


俺はずっと、

家に閉じ込められて生きてきた。


外の世界なんて、

何も知らない。


男は説明しなかった。


ただ、

指を空に向けた。


次の瞬間――


ボッ。


小さな炎が、

男の指先に

ふわりと灯った。


俺は、

息を呑んだ。


燃えている。


道具も、

火種もない。


それなのに、

炎はそこにあった。


男は俺の反応を見て、

薄く笑った。


「そんな顔するな。」


「この世界はな――

お前が思ってるほど

単純じゃない。」


俺は、

その炎から

目を離せなかった。


その時、

胸の奥で

何かが静かに動いた。


――俺の知らない世界。

――俺に隠されていた世界。


そして、

直感した。


俺の人生は、

まだ始まったばかりだ。

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