008
男は俺に言った。
「腹を満たしたいなら、
俺について来い。
生き残るためのやり方を、
少し教えてやる。」
俺はすぐには答えなかった。
だが結局――
小さく、頷いた。
腹が減っていた。
そして、
他に選択肢はなかった。
翌朝、
男は俺を連れて
宿屋が集まる一帯を
ぐるぐると歩き回った。
男は言った。
「よく見ろ。」
家を。
路地を。
人の出入りを。
「覚えておけ。」
男は続ける。
「昼間に人の出入りが多くて、
夜になると静かになる家。
そういう所が狙い目だ。」
俺は一日中、
男の後を歩いた。
足は重く、
頭はふらつく。
だが――
何も食べられなかった。
パン一切れも。
米一粒も。
夜になる頃には、
腹が痛むほど空腹だった。
俺は破れた段ボールの上で
体を丸め、
眠れずにいた。
胃は鳴り、
喉はからからだった。
その時――
男が俺を揺り起こした。
「起きろ。」
低く、
切迫した声。
「仕事の時間だ。」
男は俺を連れて
夜の街を歩き、
朝に通った市場へ戻った。
心臓が早鐘を打つ。
男は一軒の家の前で立ち止まり、
指をさした。
「ここだ。」
「朝、話した家だ。」
「一番、盗みやすい。」
その瞬間、
俺は理解した。
――一日中歩き回ったのは、
下見のためだったのだ。
体が、
震え始めた。
初めてだった。
怖かった。
男は鍵の前に立ち、
数回、手を動かす。
カチッ――
鍵が、開いた。
あまりにも簡単で、
俺は目を見開いた。
「ついて来い。
足音を立てるな。」
俺たちは、
そっと中へ忍び込んだ。
そこは、
昼間に見た
食べ物を売っていた家だった。
中には、
果物や
じゃがいもが
たくさんあった。
昼間、
店主が金を入れていた
小さな鉄の箱もあった。
だが、
開けてみると――
空っぽだった。
一円も、残っていない。
俺は、
少しがっかりした。
だが男は止まらなかった。
男は俺を、
さらに奥の部屋へ連れて行く。
そこには、
太った男が一人、
寝ていて、
大きないびきをかいていた。
心臓が、
胸から飛び出しそうになる。
男は俺に
動くな、という合図をした。
静かに、
箪笥の扉を開ける。
中には――
一つの財布。
男は迷わず、
それを掴んだ。
そして、
俺の手を引き、
外へ走り出した。
夜の闇の中へ――
俺たちは消えた。




