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005

俺は、家の中へ入った。


そこにあるのは、

確かに俺の家のはずなのに、

まるで知らない場所 だった。


俺はこの家で

暮らしてきたわけじゃない。


俺が寝ていたのは、

豚小屋、

鶏小屋、

庭の片隅。


人じゃなく、

犬みたいに扱われてきた。


だから廊下を歩くたび、

床の音、

壁の匂い、

すべてがよそよそしい。


俺は息を殺し、

開いている出口を探した。


……でも、その前に。


腹が、

限界だった。


俺は台所へ向かった。


暗闇の中、

手探りで棚を探す。


指に触れたのは、

冷たい飯。


俺は一掴み、

口に放り込んだ。


噛まない。

味わわない。


ただ、

生きるために。


その瞬間――


足音。


心臓が止まる。


階段を下りる音。

弟だ。


暗闇の中、

俺の影を見て、

弟が叫んだ。


灯りが点く。


俺は反射的に身を引き、

カーテンの裏へ潜り込んだ。


口の中には、

冷え切った飯。


噛めない。

飲み込めない。


呼吸すら、

怖かった。


灯りが台所を照らす。


時間が、

異様に長い。


弟は周囲を見回し、

小さく舌打ちした。


「……気のせいかよ。」


汚い言葉を吐き、

灯りを消して去っていった。


再び、闇。


俺はしばらく動けなかった。


やっとの思いで立ち上がり、

出口を探す。


だが――

すべての扉は施錠されていた。


夜になると、

父は家を

檻みたいに閉じる。


逃げ場はない。


絶望が、

胸を締め付けた。


その時、

思い出した。


二階だ。


ベランダ。


そこからなら、

隣の家へ渡れる。


俺は拳を握り、

階段へ向かった。


――今度こそ、

逃げる。


振り返らずに。

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