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33/34

033

クロは深く息を吸った。


この瞬間、彼ははっきりと理解していた。

自分はまだ勝てない。

それでも――ここで倒れるわけにはいかない。


魔力が広がる。


――重力・拡散。


爆発音はない。

圧倒的な破壊もない。


ただ、艦全体の空間が、わずかに重くなった。


三十キロ。


一人にとっては誤差のような重さ。

だが、数十人の兵士が動き、構え、詠唱するこの戦場では――

確実に影響が出た。


足取りが鈍る。

動作が噛み合わなくなる。


「なんだ……?」

「足が……重い!」


クロは迷わなかった。


炎と雷。

アカリが最も時間をかけて鍛えた二属性。


魔力が一気に噴き上がる。


赤橙の炎が、青白い雷を絡め取り、

剣身に激しく巻き付いた。


――これは技ではない。

全力の一撃だ。


クロは敵陣へ突っ込んだ。


「――うおおおッ!!」


炎雷の剣が、

一人の兵士の胸を貫く。


ドン――!!


炎が炸裂し、雷が暴走する。


兵士は短い悲鳴を上げ、

黒焦げになって倒れた。


だが――


それだけだった。


たった一人。


その瞬間、クロは悟る。


周囲の兵士たちは、

まったく怯んでいない。


「それで終わりか?」

「派手なだけのガキだな。」


反撃が始まった。




炎、雷、風――

基本属性の魔法が一斉に襲いかかる。


クロは腕を上げ、防御に集中する。


炎が肌を焼き、

雷が骨を震わせ、

風圧が体を押し戻す。


歯を食いしばり、魔力を回す。


(……師匠の言った通りだ)


(人は生まれつき、術式を持つ)


(一つの属性に特化し、異常なほど強い)


(でも俺は――)


クロは苦笑した。


(多属性使いだ)


(最強じゃないが、対応はできる)


炎には水と魔力制御。

雷は拡散。

風には重力で踏ん張る。


だが――


一人対多数。


どうやって全部防げというのか。


魔力は急激に減少。

体は傷だらけ。

喉に血の味が広がる。


三十秒。

四十秒。

五十秒。


――一分。


たった一分。


それが、限界だった。


膝が崩れ落ちる。

視界が霞む。

音が遠のく。


「……終わりだ」


腹に強烈な衝撃。


クロの体は

手すりを越えて蹴り飛ばされ、海へ落ちていく。


兵士の一人が鼻で笑った。


「重力使いはビビったぜ」

「だが多属性だから弱い」


「そうじゃなきゃ、この船ごと消えてたな」


彼らの視線が、

遠くの小さな船へ向く。


そこには――

アカリが座っていた。


クロが海面に落ちる直前。


その船から、

巨大な青い光が放たれた。


魔法というより――

青色のレーザー。


海と空を切り裂き、

一直線に艦を貫く。


――ドンッ!!!!


悲鳴はない。

衝突もない。


ただ――


軍艦が、消えた。


最初から存在しなかったかのように。


海面が爆ぜ、

衝撃波が広がる。


クロは水中へ沈み、

意識を失った。


最後に感じたのは――

誰かに引き上げられる感覚。


そして、静かな声。


「眠れ。」

「後は……俺がやる。」


――続く。

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