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3/25

003

なぜそんな偶然が起きたのか、

俺には分からなかった。


ただ一つだけ、

確かなことがあった。


――父は、

本当に発財していた。


俺が地下に閉じ込められてから、

父の生活は目に見えて良くなった。


金が回り始め、

仕事もうまくいき、

借金も消えていった。


それが、

父の確信を

さらに強くした。


俺は「凶兆」だという確信を。


そして――

俺を苦しめれば苦しめるほど、

自分の人生は良くなるのだと。


それからというもの、

暴力は日常になった。


一日も、

途切れることはなかった。


地下には、

時間を知る手段がなかった。


光もない。

時計もない。


だから俺は、

食事の回数で日数を数えた。


一日に一度、

父が投げ落としてくる食べ物。


腐った飯。

臭いのする肉。

人が口にしないもの。


それを一つ、

一日として数えた。


十日。

百日。


そして今日で――


三百六十五回。


ちょうど、

一年。


俺はこの地下で、

一年間、生き延びてきた。


いや、

生きていたわけじゃない。


耐えていただけだ。


そしていつの間にか、

俺の頭の中には

一つの考えが根を張っていた。


――逃げなければならない。


それだけが、

俺を正気に保っていた。


その日、

父はひどく酒に酔っていた。


階段を降りてくる足音は、

ふらついていた。


地下室の扉が開く。


父の手には、

いつものベルト。


それが、

痩せ細った俺の体に

何度も振り下ろされた。


俺は泣いた。


「……どうして、

父さんは俺を殴るんだ……」


抵抗しようと思ったこともある。

だがこの体は、

もう言うことをきかなかった。


――けれど、今日は違った。


酔った父は、

足を滑らせた。


次の瞬間、

父はこの部屋に溜まった

排泄物の中に倒れ込んだ。


そして――

扉は、開いたままだった。


考える前に、

俺は走った。


残っている力のすべてを使って。


だが、

外に出た瞬間、

俺は立ち止まった。


目の前にあったのは――

もう一つの扉。


出口じゃない。

自由でもない。


その瞬間、

世界が

目の前で崩れ落ちた気がした。


そして背後から、

音がした。


父が――

立ち上がっていた。


今、

父の手にあるのは

ベルトじゃない。


一本の棒だった。


俺は混乱し、

周囲を見回した。


逃げ場はない。


俺は床に膝をつき、

叫ぶように頼んだ。


「お願いだ……

殺さないでくれ……」


だが父の目には、

もう感情がなかった。


無表情のまま、

父は棒を振り上げ――


振り下ろした。

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