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「空を狩った日」


――十年前。


その日、

アカリはただ気分が良かった。


理由はない。

空は青く、風は穏やかで、

世界がやけに平和に見えただけだ。


任務もない。

戦争もない。

血の匂いすらない。


あまりにも退屈で、

あまりにも平凡な一日。


――だからこそ。


彼は、空を見上げた。


そして、

世界が変わった。


高く澄んだ空の彼方。

雲を裂くように、

一つの影が舞っていた。


鳥ではない。

竜でもない。


――ユニコーン。


一体。

そして、もう一体。

さらにもう一体。


三体のユニコーンが、

純白の翼を広げ、空を翔けていた。


太陽の光を受け、その身体はまるで光そのもののように輝き、

翼の一振りごとに、空間が淡く歪む。


ユニコーンが飛ぶ。


それは、

ほとんど神話の中の出来事だった。


群れで行動し、

人前に姿を現さず、

決して低空を飛ばない存在。


だが――

今日に限って、彼らはそこにいた。


アカリは立ち尽くした。


胸が高鳴る。


感動ではない。

畏怖でもない。


それは――

狩る者の本能だった。


「……珍しいな」


小さく呟く。


頭の中で、思考が高速で回転する。

ユニコーンの価値。

角。血。魔力。

そして――調教の可能性。


たった一体でも、

世界を揺るがす存在。


それが、三体。


アカリは、歩き出した。


焦らず。

殺気を抑え。

ただ、追う。


一日中。


草原を越え、

森を抜け、

低い山々を越えながら。


ユニコーンたちは空高く飛んでいたが、

アカリは一度も見失わなかった。


彼らの残す光の軌跡が、

進むべき道を示していたからだ。


やがて、夕暮れ。


空は赤く染まり――


ユニコーンたちは、

降り立った。


外界から切り離された、広大な谷。

空気中の魔力は濃密で、肌が痺れるほどだった。


三体のユニコーンは翼を畳み、

まるで神の使いのように静かに歩く。


アカリは、崖の上からそれを見下ろす。


そして、笑った。


「……やっと止まったか」


迷いはない。

躊躇もない。

情けもない。


アカリは、影から姿を現した。


その瞬間、

一体のユニコーンが振り向いた。


瞳が細まり、

即座に危険を察知する。


――だが、遅い。


アカリは手を掲げた。


魔力が、爆発する。


詠唱もない。

儀式もない。


ただ――

圧倒的な力による制圧。


空間が震え、

大地が割れ、

空気が悲鳴を上げる。


二体のユニコーンが慌てて飛び立つ。


だが――


――轟音。


見えない力が、

空を叩き潰した。


一体は地面に叩き落とされ、骨が砕け、

もう一体は必死に逃げ、雲の彼方へ消えた。


残された一体が、叫ぶ。


怒り。

痛み。

絶望。


谷全体に響き渡る、その声。


アカリは歩み寄る。

瞳は、冷たく凍っていた。


「黙れ」


圧力が、さらに増す。


ユニコーンは完全に地に伏し、

翼は震え、身体には魔力の亀裂が走る。


それでも――

その瞳にあったのは、恐怖ではない。


憎悪だった。


アカリは、その額に手を置く。


「自発的じゃないのは分かってる」


「だが、生かしてやる」


魔術が発動する。


強制的な支配。

魂そのものへの刻印。


光が砕け散り、

叫びは消えた。


残ったのは、

息を荒くする、伝説の獣。


アカリは立ち上がり、

逃げ去った空を見上げる。


「……三体か」


「全部殺しても、よかったな」


そう呟き、背を向けた。


彼はまだ知らなかった。


この日が、

彼を怪物へと導く始まりになることを。


そして、この瞬間、

アカリは確信した。


力は、許可を得るものじゃない。

十分に強ければ、世界の方が屈する。


――それが、

後に“師”と呼ばれる男の、原点だった。

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