023
目を覚ましたとき、
クロは**広い岩穴の中**にいた。
天井は低く、空気は冷たい。
湿った土の匂いと、乾いた血の臭いが混じっている。
全身は**包帯だらけ**だった。
少し動かすだけで、
鈍い痛みが背骨を這い上がる。
「……また、こういう状況か」
不思議と、恐怖はなかった。
*――師匠が助けてくれた。*
それだけで、十分だった。
クロは動かず、そのまま横になる。
何もせず、ただ待った。
一時間。
二時間。
三時間。
誰も来ない。
四時間。
六時間。
十二時間。
喉は焼けつくように渇き、
唇は裂け、
意識が少しずつ遠のいていく。
*大丈夫だ……*
*きっと、何か用事があるだけだ……*
二日目が過ぎた。
三日目に入った。
その時になってようやく、
クロの胸に**本物の恐怖**が湧き上がった。
心臓が早鐘を打つ。
呼吸が乱れる。
*――もし、師匠が戻らなかったら?*
それでもクロは、
洞穴から出ようとしなかった。
食べ物を探さない。
水を探さない。
逃げ道を探さない。
ただ横になり、
**救われるのを待ち続けた。**
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三日後。
洞穴の入り口に、
一人の男が立っていた。
アカリだった。
衰弱しきり、
干からびたように横たわるクロを見て、
彼の表情はわずかに曇った。
「……失望した」
「し、師匠……!」
クロは目を見開き、
喜びに満ちた顔で立ち上がろうとした。
次の瞬間――
**ドンッ!**
鋭い蹴りが腹に突き刺さり、
クロの身体は壁に叩きつけられた。
「俺は、お前を甘やかしすぎた」
アカリの声は、氷のように冷たい。
「今日、俺が戻らなかったら――
お前はここで死んでいた」
クロは言葉を失う。
「闘技場でも同じだ」
「お前は、あの場で死ぬつもりだった」
「勘違いするな」
アカリは見下ろすように言った。
「お前がどう死のうが、
誰も気にしない」
「評価されるのは、
**生き残った者だけだ**」
彼は指を立てる。
「生きるためには、常に**複数の計画**を持て」
「計画A。俺が戻るのを待つ」
「計画B。自分で食料を探す」
「計画C。この場所から這い出る」
「お前には、一つしかなかった」
「それが失敗した時点で、
お前は終わりだ」
アカリは背を向ける。
「次からは、正面から戦うな」
「頭を使え」
「強者は、正々堂々なんて気にしない」
「強者は――
**生き残ることだけを考える**」
クロは、その場に立ち尽くした。
その言葉は、
胸の奥、
誇りの芯を**粉々に砕いた**。
その瞬間、クロは理解した。
*自分が弱かった理由は――*
*力が足りなかったからじゃない。*
*“生き方”を知らなかっただけだ。*




