019
まさか――
ナオミがアステリオン王国の王族区域へ入っていくなんて。
ここは、
一般貴族ですら簡単には立ち入れない場所だ。
「……あいつ、一体何者なんだ?」
そう思えば思うほど、
胸の奥がざわつく。
そして――
俺は、またしても好奇心に負けた。
警備は想像以上に厳重だった。
兵の数は多く、
巡回は規則正しく、
魔法による探知結界まで張られている。
だが――
「所詮、小国だろ。」
俺は鼻で笑った。
これまで鍛え上げてきた力を、
一気に解放する。
筋肉が軋み、
魔力が全身を駆け巡る。
速度。
俺は前方へ一気に踏み出した。
――ドンッ!!
巨大な砂煙が巻き上がる。
「何事だ!?」
兵たちが一斉に集まってくる。
前方の馬車の一団も動きを止めたが、
異常が見つからないと判断したのか、
そのまま進んでいった。
その間に――
俺は馬車の下へ滑り込んでいた。
馬車はゆっくりと進む。
二時間後――
「……長すぎだろ。」
心の中で愚痴りながらも耐える。
ようやく到着したのは、
王宮の厩舎だった。
御者が去り、
周囲に人の気配が消える。
俺は静かに這い出た。
夜。
そして――
「……でっか。」
目の前には、
途方もなく巨大な城がそびえ立っていた。
月光を反射する白い城壁。
空へ伸びる尖塔。
淡く輝く防御魔法。
「さすが王宮……。」
一階は無理だ。
人が多すぎる。
俺は呼吸を殺し、
風のような跳躍で――
一気に三階へ。
目の前に広がるのは、
長机が並ぶ大広間。
その上には――
山のような料理。
「……天国かよ。」
俺はつまみ食いをしながら進んだ。
そのとき。
足音。
兵だ。
俺は即座に扉の影へ隠れる。
三人。
最後の一人が通り過ぎた瞬間――
バンッ!
拳を叩き込む。
一人目は壁に叩きつけられ、即失神。
残り二人も、
反応する間もなく沈めた。
ガタン。
音が響く。
すぐに別の兵たちが駆け寄ってきた。
「どうした?」
そこにいたのは――
頭を掻いている兵士一人。
「いや、転んだだけだ。」
平然とした声。
疑う者はいない。
なぜなら――
それは、俺だったからだ。
本物の兵士は、
隣の部屋で静かに眠っている。
俺はそのまま城内を歩き回った。
長い回廊。
豪奢な装飾。
魔法灯の柔らかな光。
「……綺麗だな。」
だが――
突然。
廊下の奥から、
とてつもない気配が押し寄せてきた。
空気が重い。
足が――止まる。
姿はまだ見えない。
それなのに――
全身が警鐘を鳴らしていた。
「……なんだ、これ。」
今までとは違う。
これは――
本物の強者。
一歩でも進めば、
取り返しのつかない何かが起きる。
俺は直感で悟った。
この王宮には――
俺の知らない“世界”が、まだある。
そしてその中心に、
ナオミがいる可能性が高いことも。
――逃げるか。
――進むか。
その選択が、
俺の運命を大きく変えることになる。




