016
そしてその日、クロはこの土地の名物料理を山ほど食べることになった。
見た目からして、今まで一度も見たことのない料理ばかりだった。
空中にふわふわと浮かぶ串焼きは、ゆっくり回転する魔法陣によって焼かれている。
淡く光るスープの器は、一口飲むたびに味が変わった。
甘くなったかと思えば、次の瞬間には辛く、そしてまた冬の風のように冷たくなる。
クロは目を輝かせながら、食べては次々と質問した。
「これは何でできてるの?」
「どうしてこれは浮いてるの?」
「この動物……まだ生きてるの?」
アカリはただ笑い、酒を一口飲んで言った。
「これが本当の世界だ。ようこそ。」
市場には、クロが今まで見たこともない不思議な生き物たちがいた。
蝶の羽を持ち、星のように光る尻尾を揺らす猫。
くちばしが水晶でできた鳥たちは、鳴くだけで空気を震わせる。
二本足で歩く丸い小動物は、転ばないように呪文を唱えながら歩いていた。
そのすべてが、クロの胸を高鳴らせた。
だが、その賑わいの中で、クロは一つのことに気づく。
アカリは――決して立ち止まらない。
彼は長く同じ場所に留まることがなかった。
その視線はいつも遠くを見ていて、この世界ですら満足していないかのようだった。
クロは不思議に思って聞いた。
「師匠……どうして一つの場所に住まないの? ここはいいところなのに」
アカリはしばらく黙り込み、空を見上げた。
雲の間を、空飛ぶ船がゆっくりと進んでいく。
やがて、低い声で語り始めた。
「俺が子どもの頃の夢はな……世界中のすべての土地を歩くことだった。」
「見たこともない料理を食べて、」
「誰も知らない武術を学び、」
「伝説にしか存在しない魔法を、この目で見ること。」
彼は軽く笑った。
だがその笑顔には、どこか遠い寂しさが滲んでいた。
「世界がどれほど広いのかを知らないまま、死にたくなかった。」
クロは言葉を失った。
初めて気づいたのだ。
世界は、生き延びるためだけの場所ではない。
――夢を羽ばたかせる場所なのだと。
その夜、クロは屋根の上で、アステリオンの満天の星空を見つめていた。
ぎゅっと拳を握りしめる。
彼の胸の奥で、新しい炎が灯った。
それは魔法だけではない。
力だけでもない。
――世界へ踏み出すための、渇望だった。




