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15/26

015

翌朝、

俺はとても早く目が覚めた。


理由は簡単だ。

ワクワクしすぎて眠れなかった。


体が勝手に動いて、

俺は宿の周りを跳ね回った。


朝焼けの空は本当に綺麗で、

世界が新しく生まれ変わったみたいだった。


俺は屋根の上に登り、

空を見上げる。


雲が、

いろんな形をして流れていく。


竜みたいな雲。

動物みたいな雲。

何か分からないけど、

ずっと見ていたくなる雲。


俺はしばらく、

その場に寝転がって

ぼんやり空を眺めていた。


その時――


向かいの家から、

女性の怒鳴り声が聞こえた。


「洗濯物、早く干しなさい!」


ガタン。


屋上の扉が開く音。


赤い髪の少女が、

少し不機嫌そうな顔で

洗濯かごを抱えて出てきた。


「はーい!」


そう大きな声で返事をして、

洗濯物を干し始める。


俺は……

完全に固まっていた。


彼女は、

俺が向かいにいることに

まったく気づいていない。


半分ほど干したところで、

突然――


彼女は洗濯をやめて、

ぴょんっと跳ねた。


くるくる回って、

踊って、

意味もなく走り回って、

変な動きで手足を振る。


そしてまた戻ってきて、

何事もなかったかのように

洗濯を再開する。


……かと思えば、

今度は

手のひらサイズの

小さなサボテンの鉢を持ち出し、


大きな声で――

歌い始めた。


俺は、

完全に動けなくなった。


綺麗とか、

可愛いとか、

そういう言葉じゃ足りない。


ただ、

目が離せなかった。


夢中で歌っていた彼女は――

ふと、

視線を感じたのか、

動きを止めた。


そして、

俺を見た。


「――――っ!?」


彼女は驚いて跳び退いた。


俺も同時に、

我に返る。


見つかった。


完全に。


彼女は眉をつり上げて言った。


「ちょっと!」


「何見てるのよ!」


俺は慌てて、

手をこすりながら答えた。


「い、いや……」


「たまたま通りかかっただけで……!」


彼女は腕を組み、

じっと俺を見る。


「ねえねえ。」


「嘘つかないで。」


「ずっと見てたでしょ?」


俺は焦った。


頭が真っ白になる。


「そ、そんなこと――」


……言いかけて、

口が勝手に動いた。


「だ、だって……」


「き、君が……

その……

綺麗だったから……」


「あっ、違う!」


「違う違う!」


「歌が!

歌がすごく上手で!」


言った瞬間、

自分でも何を言っているのか分からなくなった。


彼女は一瞬、

ぽかんとした顔をして――


次の瞬間、

目を見開いた。


「……え?」


「今、

歌が上手って……言った?」


どうやら、

初めて言われた言葉だったらしい。


少しだけ、

顔が赤くなる。


「……へ、変な人。」


そう言いながらも、

彼女の声は

さっきより柔らかかった。


「私はナオミ。」


そう名乗って、

俺を見る。


俺も、

少し緊張しながら答えた。


「……クロ。」


こうして――

不思議な朝の屋上で、

俺たちは出会った。


そして気づけば、

二人で並んで座り、

どうでもいい話をしながら

笑っていた。


この出会いが、

俺の旅を

大きく変えることになるなんて――


この時の俺は、

まだ知らなかった。

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