013
その日は、
「修行だ」という理由で、
アカリは俺に――
自分を頭の上に担がせて歩かせた。
「ほら、背中を伸ばせ。」
「それじゃあバランスが悪い。」
正直、
めちゃくちゃ腹が立った。
首は痛いし、
脚は震えるし、
今にも倒れそうだった。
でも、
相手は師匠だ。
文句は言えない。
アカリはケラケラ笑いながら言った。
「今日だけだ。」
「我慢しろ。」
そして、
少し真面目な声で続けた。
「今日は――
壁まで行く。」
「坊主、
平民区に行ってみたいか?」
新しい区域。
それだけで、
胸が一気に高鳴った。
知らない場所へ行く――
まるで、
別の国へ行くみたいな感覚だ。
俺は思わず聞いた。
「本当か?」
「俺、
スラムの外に出たことない。」
「向こうは、
どんなところなんだ?」
アカリは答えなかった。
ただ、ニヤリと笑っただけだ。
俺は少し迷ってから、
思い切って聞いた。
「なあ、アカリ。」
「……あんた、
一体何者なんだ?」
「なんで、
そんなに何でも知ってるんだ?」
アカリは肩をすくめる。
「ただ――」
「お前より、
少し多く知ってるだけさ。」
その答えは、
曖昧だったけど、
不思議と安心した。
日が沈み、
夜が近づく。
アカリは低い声で言った。
「今夜、
俺たちは壁を越える。」
「その後、
もし望むなら、
外の世界について教えてやる。」
俺は息を呑んだ。
アカリは続ける。
「正規に平民区へ行くには、
身分証が必要だ。」
「なければ、
大金を払う。」
「しかも、
長い間待たされる。」
俺は黙り込んだ。
金はない。
身分証なんて、
最初から存在しない。
だが、
アカリは自信満々に笑った。
「でもな――」
「俺たちには、
そんなもんはいらねぇ。」
俺は顔を上げた。
「……どうやって?」
アカリは、
まるで当たり前のことのように言った。
「簡単だ。」
「服を一着、盗むだけだ。」
……一瞬、
言葉を失った。
怖いのか、
ワクワクしているのか、
自分でも分からなかった。
ただ一つだけ、
はっきりしている。
今夜――
俺の人生は、
また一歩、
別の世界へ踏み出す。




