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012

こうして――

俺、クロの旅は本当に始まった。


アカリと一緒に。


目的地は決まっていない。

明日のことすら、よく分からない。


あるのは、

自分の足と、

ボロボロの地図と、

果てしなく広がる世界だけだった。


旅の途中、

俺は本当にたくさんの場所を見た。


山奥にひっそりと佇む小さな村。

俺がいた場所よりも

さらに酷いスラム街。

夜になっても灯りが消えない、

眩しいほどの大都市。


そして、

数え切れないほどの人間に出会った。


優しい人もいた。

俺の痩せた体を見て、

黙ってパンを半分くれた人。


冷たい人もいた。

ボロ切れみたいな服を着た俺を、

汚いものを見る目で見た人。


笑ってくれた人。

騙してきた人。

殴ってきた人。

それでも、助けてくれた人。


外の世界は――

決して優しくはない。


けれど、

完全に残酷でもなかった。


旅の中で、

アカリは俺の道案内であり、

師匠でもあった。


昼は、

体術を教えてくれた。


倒れない立ち方。

重心の取り方。

骨を折られないための受け身。

自分を壊さずに殴る方法。


「強くなる必要はねぇ。」


アカリは言った。


「生き残れりゃ、それでいい。」


夜は、

魔法を教えてくれた。


小さな火。

弱い風。

集中したときに、

体の中を流れる奇妙な感覚。


俺は、

それがたまらなく好きだった。


好きで、好きで、

疲れ果てても、

こっそり一人で練習した。


手の皮が剥けた日もあった。

力を使い果たして、

気を失った日もあった。


それでも、

一度も諦めたいとは思わなかった。


初めて――

俺は、

強くなっていると感じられたからだ。


一方のアカリは……

本当に、どうしようもない男だった。


ある夜は、

酒場で泥酔し、

女に絡んで、

挙げ句の果てに追い出される。


「逃げろ、クロ!」


そう叫んで、

二人で全力疾走したこともある。


別の日には、

賭博にハマり、

数日分の金を一晩で失った。


その夜は、

腹を空かせたまま、

橋の下で眠った。


それでもアカリは、

笑って言った。


「ツイてなかっただけだ。」


食べ物がなくなれば、

盗むこともあった。


好きでやっているわけじゃない。

生きるためだ。


パン一個。

芋一袋。

果物少々。


怯えながら、

黙って食べた。


それでも、

アカリには守るルールがあった。


「全部は取るな。」


「相手にも、生きる道を残せ。」


その言葉は、

今でも俺の中に残っている。


俺たちの旅は、

決して楽じゃなかった。


楽しい日もあった。

苦しい日もあった。

進めないと思う日もあった。


それでも、

俺が立ち止まりそうになると、

アカリは肩を叩いて言った。


「なあ、クロ。」


「お前はもう、

出発点より

ずっと先に来てるんだ。」


その通りだった。


牛小屋で眠り、

床の水を舐めて生きていた少年は――


今、

自分の足で世界を歩いている。


まだ弱くて、

まだ小さい。


それでも、

確実に前へ進んでいる。


そして俺は知っている。


この旅は――

まだ、

始まったばかりだ。

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