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001

俺の名前は クロ。

俺は、弟と同じ日に生まれた。


その日は、両親がとても嬉しそうに笑っていた。

「一緒に誕生日をやれば、節約になるね」

そう言って。


そして、こう決めた。


「偶数の年は弟の誕生日。

奇数の年はクロの誕生日。」


その時の俺は、まだ小さくて、

その言葉の意味が分からなかった。

ただ、うなずいただけだった。


俺が 7歳 になった年。

奇数の年。

本当は、俺の誕生日のはずだった。


俺はケーキも欲しがらなかった。

プレゼントも欲しがらなかった。


ただ、一つだけ聞いた。


「……俺、学校に行ってもいい?」


父は俺を見なかった。

母は、少しため息をついた。


「うちはね、そんな余裕ないの。」


とても静かな声だった。


「学校に行かせられるのは、

一人だけなのよ。」


俺は立ったまま、もう一度聞いた。


「……じゃあ、俺は?」


父が答えた。


「お前は家にいればいい。

勉強なんかしなくても、別に困らない。」


その日は、俺の誕生日だった。

でも、誰も覚えていなかった。


次の年。

弟が学校に行く年になった。


新しいカバン。

新しい服。

新しい靴。


母は笑って言った。


「ちゃんと勉強しなさい。

お兄ちゃんみたいになっちゃだめよ。」


俺はその横で、

自分の背より大きな薪を抱えて立っていた。


「兄ちゃんみたいになるな」


それが、当たり前の言葉みたいに言われた。


俺が 9歳 の時。


もう分かっていた。

俺は、学校には行けない。


だから、お願いを変えた。


「……字を覚える本を、

一冊だけでいいから……」


母は俺を見て、

それから机で勉強している弟を見た。


「今は弟が勉強してるでしょ。

本だって、たくさんお金がかかるの。」


そして、こう言った。


「クロは、別にいらないでしょ。」


その言葉を聞いた時、

胸の奥が、少し冷たくなった。


その夜、俺は地面に棒で字を書いた。

読めない字だった。

正しいかどうかも分からなかった。


でも、消さないように、

何度もなぞった。


次の年。


弟が言った。


「最新のスマホが欲しい。」


値段は、

弟が 三年間学校に行くお金 と同じくらいだった。


父は聞いた。


「色はどれがいい?」


母は聞いた。


「ケースも買う?」


高い、とは誰も言わなかった。


俺は思い出していた。

あの、一冊の文字の本。


その次。


弟は、さらに言った。


「海外の研修に行きたい。」


とても遠くて、

とても高い。


俺は思った。

さすがに、今回は無理だろう、と。


でも父は言った。


「将来のためなら、仕方ない。」


母もすぐにうなずいた。


「お兄ちゃんは学校行ってないし、

その分、貯められてるでしょ。」


その瞬間、

頭の中が真っ白になった。


ああ、そうなんだ。


俺が学校に行かなかったのは、

家が貧しかったからじゃない。


俺が、後回しにされる存在だったからだ。


その夜、俺は天井を見つめていた。


もし、俺がいなくなっても、

誰か気づくだろうか。


弟が憎いわけじゃない。

ただ、分からないだけだ。


同じ日に生まれて、

同じ「子供」なのに。


一人は「未来」で、

一人は「いなくてもいい存在」。


俺は拳を強く握った。


泣かなかった。

泣いても——

誰も必要としていないから。

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