わたくしにできることをひとつ (1371字
王宮での生活にもだいぶ慣れたある日の午後、
わたくしは困惑した様子で立ち止まる年配の貴族夫人を見つけました。
「ごきげんよう、何かお困りですか?」
「まあ、ごきげんよう。 実は道に迷ってしまいまして」
「それはお困りでしょう。どちらに向かわれるか教えていただければ
ご案内いたしますわ」
わたくしの申し出に、夫人は侍女ともはぐれて困っていらしたそうです。
それは侍女も慌てていることでしょう。
この場所は人が薄くなりやすいので尋ねられる人も限られてしまいますし。
夫人の侍女が困っていないか、マリーに探しに行ってもらい
わたくしは夫人をひとまず来客控室へ案内することにしました。
そこはそれほど時間もかからず向かえますし
出口までの一本道になりますからマリーとも合流できるでしょう。
護衛騎士には部屋の前で目印になっていただきましょう。
夫人を控室へお通しして、すぐにマリーと夫人の侍女とも合流できたことで、
わたくしは詰めていた息をそっと吐き出しました。
王宮のような広い建物では、こうした些細な行き違いはよく起こります。
人の少ない場所の巡回も増やしていただこうかしら。
けれど今日は運よく早めに気づけました。
無事に見送ることができて良かったですわ。
「執務を長く中断してしまっては申し訳ありませんし、戻りましょうか」
マリーに声をかけると、彼女も微笑んでこくりと頷きました。
そうして二人で歩き出しながら、わたくしは息を整えました。
王宮で過ごす日々の中で、わたくしにもできることが少しずつ見えてきている気がします。
マリーと共に殿下の執務室に戻ると、殿下の側近である
テオドール・フォン・ランスヴェルト公爵令息が書類を整理されていました。
「リヒトヴェルト様、お申し出のあった例の件です。こちらにお目通しをお願いいたします」
ランスヴェルト卿から書類を受け取るとすぐに確認項目を見ていきます。
傷病兵と困窮する使用人家族への支援リストに目を通し、間違いがないことをしっかりと確認し頷きました。
「わたくしの名は伏せて。彼らが必要としているものを……」
その時、軽いノックの後、扉が開きました。
「セシリア、少し時間ができたからお茶にしよう」
ラスティエル殿下の声です。
「ああ、テオも戻ってたのか。ご苦労」
ランスヴェルト卿は殿下に挨拶をされると、わたくしに向き直りました。
「では、ご指示の通りにいたします。殿下はご休憩とのことですので、私はこれで失礼します」
「はい、よろしくお願いいたしますね」
マリーはお茶の用意をするためにすぐに退室していきました。
殿下はわたくしをソファへと誘い、ご自身も隣に腰掛けます。
「テオと話してたの、君が言っていた支援の?」
「はい。殿下のおかげで、ランスヴェルト卿に動いていただけている分
とても円滑に各所へ話が通りましたの。ありがとうございます」
「俺は口添えしただけだよ。……名前、出さなくていいなんて」
「良いのですよ。それで」
わたくしの支援はそれほど多くの方には回らないでしょう。
手を差し伸べられる範囲の狭さが情けなくなるときもありますが
何もしないよりは、と私費からの寄付を続けております。
こうやって何かをしていれば、いつか断罪されたとしても
どこかに救いの手を求められるのかという打算もあるのだと思います。
ただただ、身の内にある不安をどうにかしたいだけの浅はかな考えです。
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