(ツボ? 壺を押すのか?)
それから、わたくしは思い出せる限りのことを全て話しました。
殿下はもう話の腰を折ることなく最後まで聞いてくださいました。
話し終わると、納得とも安堵ともとれる表情で笑ったのです。
でも、その笑顔がどこか疲れて見えたのは、わたくしの気のせいでしょうか。
いえ、疲れていないわけありませんよね。
ラスティエル殿下はずっと真剣に聞いてくださっていたのですから。
それに、わたくしが「断罪される」とか「婚約破棄される」とか、
そんな話ばかりしていたのですもの。
もしかして、殿下を不安にさせてしまったかもしれません。
「あの、殿下、お疲れでしたら、少しお休みになりませんか?」
「ん? 大丈夫だよ。セシリアが心配してくれるなんて嬉しいな。
でも、まだ執務が残ってるから」
「でも……」
わたくしが言いかけた時、殿下がこめかみに手を当てました。
ほんの一瞬の仕草でしたが——
「お休みください。お願いですから」
わたくしは、泣きそうになりながら、いつもより強めに言いました。
殿下は驚いたように目を見開きましたが、やがて、困ったように笑いました。
「……君に強く言われると、断れないな」
「では、ソファにどうぞ」
わたくしは殿下の手を引いて、部屋の奥にあるソファへと案内しました。
「セシリア?」
「少しだけ、横になってください」
ぐいぐいと殿下の手を引きます。
きっと嫌なら振り払ってますよね。ちょっと強引にでも休んでいただかないと。
わたくしの必死のひっぱりが功を奏したのでしょう!
殿下はため息混じりに笑って、ソファに横になってくださいました。
「これでいい?」
「はい! では、少しお待ちくださいね」
わたくしはマリーを呼んで、ハーブティーを淹れてもらうようお願いしました。
そして——
「失礼いたします」
ソファに横たわる殿下の頭をわたくしの太ももに下ろしました。
か、髪がサラサラですわ……。
「セシリア?」
髪のさわり心地にうっとりしている場合ではありませんでした。
以前はわたくしに肩マッサージをしてくださったんですもの
わたくしもお返ししなければとツボ押しを練習してみました!
マリーに実験台になってもらって、褒められましたので
とてつもなく下手ということにはならないと思います。
「頭痛に効くツボを押させていただきますね。
痛かったらおっしゃってくださいませ」
そう言って、わたくしはそっと殿下のこめかみに指を当てました。
「ん……」
優しく、ゆっくりと円を描くように。
殿下は最初驚いたような顔をしていましたが、慣れたのかすぐに目を閉じられました。
「……気持ちいい」
「そうですか? よかったですわ」
わたくしは、さらにゆっくりと指を動かします。
部屋には、穏やかな時間が流れていました。
◇
◇
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