あ、やっぱりまだ尋問は終わらないのですね
午後の柔らかな日差しが、レースのカーテン越しに差し込んで
暖かくて気持ちがいいです。
白を基調とした優雅な内装はわたくしのお気に入りです。
窓辺に置かれた小さな円卓には、ティーセットと焼き菓子が美しく並んでいます。
殿下から贈られた王室御用達の白磁のティーセットが美しく輝いていて
これが使えるお茶の時間は、わたくしにとって至福の時です。
ラスティエル殿下自作の本を読んでいたのを
見られた恥ずかしささえなければですが。
ラスティエル殿下はいつもよりリラックスした姿勢でカップを手に取りました。
執務中の緊張した表情とは違う、穏やかな顔。
お茶を飲む様も優雅で一枚の絵画のようです。まさに王子様です。
「そういえば、セシリア。ずっと気になっていたんだけど」
彼は何気ない調子で口を開きました。
ラスティエル様はカップをソーサーに置いてわたくしをじっと見つめています。
「破滅って何?」
唐突なラスティエル様の言葉に、わたくしは固まってしまいました。
「え? 破滅? あの、それはどういう」
「うん? いつだったかな、寝言でね。『破滅を避けなきゃ』って」
にこにこと、本当ににこにこと笑っています。
笑ってるわ。え。なんで?
なぜそんなに楽しそうなんですか。
目が、目が輝いてますよ?
わ、わぁ薄紫の瞳ってほんと、どんな宝石よりも綺麗ですね。
って現実逃避してる場合じゃないんですけども。
「破滅、というのは……」
「というのは?」
ああ、もうダメです。
前世の記憶が蘇ってから、いつかこんな日が来ると覚悟はしていました。
だってとてもじゃないけど隠し通せそうにありません。
何故かラスティエル様と居ると不思議と気が抜けてしまうんですもの。
でも、まさかこんなに楽しそうに追及されるなんて!
「そのぉ……私は、悪役で……」
「悪役? セシリアが?」
ラスティエル殿下は首を傾げた。そして、少し考えるように顎に手を当てる。
「……想像できないな。悪いことしちゃうの?」
「い、いえ、その、前世の記憶では……」
「前世?」
ぴたり、とラスティエル殿下の動きが止まる。
やばい。やばいやばいやばい。言ってしまった。前世とか言ってしまった。
「前世って何?」
「わたくしが、えーっと、こちらに生まれる前に生きてた記憶といいますか」
恐る恐る顔を上げると、さらに目を輝かせていました。
ひぇ、反応が怖いです。どうして楽しそうなんですか。
「そうか、そういうものがあるのか不思議だね」
ラスティエル殿下は、また何かを考えるように間を置いた。そしてーー
「で、その前世で、君が悪役だったの?」
「その……正確には、この世界が、前世でプレイしていた乙女ゲームの世界で……」
「プレイ? 乙女ゲーム?」
ラスティエル様が首を傾げています。
ああ、そうでした。この世界に乙女ゲームなんて概念、あるわけがないんですよね。
「あの、そのぉ……女性が恋愛を楽しむための娯楽?という感じのものでして……」
「恋愛を、楽しむ?」
「はい。自分が主人公になって、色々な男性と恋愛をして……」
「ふむ」
真剣な顔で頷いている上に、メモを取りたそうにしていますね。
覚書などしなくても覚えていらっしゃるのが殿下なんですけど。
「で、その乙女ゲームというものの世界が、我々の生きている世界だと」
「はい……」
「それで、君は?」
「私は、その、悪役令嬢という立ち位置で……」
言えば言うほど、ラスティエル殿下の笑みが深まっていく。
怖い。恐ろしゅうございます、ラスティエル殿下。
それでもわたくしも、もう秘密を一人で抱えるのは限界だったこともあり
全てを話してしまう覚悟を決めました。
ゲームの流れをかいつまんで殿下に説明していくと
大まかなことがわかって安心したのか先ほどよりは和らいだ表情を見せてくれました。
「なるほど。それで、破滅を避けなきゃに繋がるんだね」
「はい、国外追放などはさすがに困ってしまいますから」
「悪役令嬢は婚約破棄された上に修道院?」
「……はい。国外追放の場合もございますね」
ラスティエル殿下は軽く微笑み、わたくしをじっと見つめています。
その瞳の奥には、ただの好奇心や楽しみ以上の、何か……、
計り知れない感情が潜んでいるように感じられました。
「そう、ならば、もう少し君の話を聞かせてもらおうかな」
次の瞬間、わたくしはまた心臓をきゅっと掴まれたような気分になった。
やっぱりまだ尋問は続きますよね。
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