強制力「え、いや、自分やれます! あ、お呼びでない……」
「……え、ストーカー?」
思わず心の声が口からも飛び出てしまいましたわ。
わたくしが観察記録を読み進めていると、ふと隣から声が響きました。
「セシリア」
隣を見上げると、そこには満面の笑みを浮かべたラスティエル殿下。
ああ、金色の御髪と笑顔が相まってまぶしいです。
革装丁の観察記録を手に、誇らしげにしていらっしゃいます。
いえ、待ってください、ストーキングの記録は誇れることなのでしょうか。
扉のそばにはマリーが申し訳なさそうな笑顔で立っています。
「部屋に入る前に声は掛けたんだけど、返事がなかったからね。
侍女がお茶の時間だというから一緒に入れてもらったんだ。
俺の愛の記録、読んでくれているんだね。嬉しいな」
「な、な、な! これは……これは! 違うんです読んでません……!」
観察記録を思わず落としてしまいましたが、構っている余裕もありません。
じりじりと後ずさりしつつ、逃げられる道を探します。
「読んでるところを見られて恥ずかしがるセシリアが可愛すぎて困るな。
これではまた筆が乗ってしまう」
わたくしが落とした本を何事もないように拾い上げ
ニコリと笑うその表情に、思わず言葉が詰まりました。
まだ書くんですか。ストーキング継続宣言?
「しょ……、しょはん。」
わたくしは恥ずかしさのあまりまともに言葉が出てきません。
どうしてこのタイミングで入ってくるのよぉぉぉ。
初版かどうかなんてどうだって良いでしょうわたくしぃぃぃ。
「うん?初版だよ。 重刷する?」
ラスティエル殿下はひとつひとつの巻を見ながら楽し気にしています。
うう、そんな顔をされてはリサイクルできないかなとか考えていたわたくしが
非道な人間のようではありませんか。
非道……。もしかして、これが悪役令嬢ということですの?
「そ、そんなことより、わたくしは……これは……心臓に悪いですわ(身の安全という意味で)」
「心配しなくていいよ。君を守るための愛の記録だから」
はて、……守るため、って?
護衛騎士は常に側に控えてくれていますよ。
公爵邸にもたくさん騎士がいますし、王家からも派遣されています。
わたくしにはもったいないくらいの待遇です。
「セシリア様、ひとまず殿下をお席に案内されてはどうでしょう」
見かねたマリーがお茶の用意を終え、声を掛けてくれました。
わたくしの侍女はなんて優秀なのでしょう!
そうでした。こんな殿下でも国の大事な方、そんな方を立たせたままにするだなんて。
ん?悪役令嬢ポイントが貯まって来ているのは?
「ラスティエル殿下、お茶をご一緒していただけますか?」
「もちろん、喜んで」
席につくまで完璧なエスコートを受けました。
やればできる方なのに、どうしてこうなってしまったんでしょう?
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