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破滅より王子の溺愛が脅威なんですが!?  作者: ささい


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14/22

【ラスティエル視点】足りない


セシリアを乗せた馬車が王宮を出てから、二日が経った。


執務室の窓から見える景色は変わらない。

だが、俺の中で何かが確実に変わっている。


「殿下、レヴィーナ王女殿下から本日三度目の謁見のご要望が参っております」


文官が淡々と報告する。

その声には、僅かに苛立ちが滲んでいた。


「……断れ」


「しかし、外交上——」


「分かっている」


俺は書類から目を上げずに答えた。


分かっている。

イゾルデ王国との同盟強化は、南の国への牽制として必要だ。

レヴィーナ王女を無碍に扱えば、外交問題になる。


だが。

書類から視線を外し控えていたテオドールに指示を出す


「テオ、午後の会議後、五分だけ時間を作れ。それ以上は無理だ」


「かしこまりました」


「五分だけとはっ! な、なにを……」


文官の腕をつかみ、テオが一礼して退室しようとした時、扉がノックされた。


「失礼いたします」


入ってきたのは、フェルミオ・レンベルドだった。

テオドールは文官を押し出し扉を閉め、フェルミオを俺の前へと誘導した。


「近衛で何かあったか?」


「はい。レヴィーナ王女殿下の護衛についてですが……」


フェルミオは言葉を選ぶように、慎重に続けた。


「王女殿下が、王宮内を頻繁に散策されており、

 その際、複数の貴族の方々と親しく会話されているようです」


「……誰だ」


「レグナント侯爵家のアルフレイド様、アレシュフォード侯爵家のエドウィン様、

 エルロイ伯爵家のリシャール様。そして、オルディアス侯爵家のセルヴァン様も」


俺は静かにペンを置いた。


「内容は?」


「詳細は分かりかねますが……王女殿下は、

『ルーンフェルド王国の未来』や『同盟の強化』についてお話しされているようです」


側で聞いていたテオドールが僅かに眉を寄せた。


「殿下、これは……」


「ああ。分かっている」


レヴィーナは無自覚に、貴族たちを味方につけつつある。

あの無邪気な笑顔と、純粋な善意で。


「フェルミオ・レンベルド、貴殿はいいのですか? 王女の護衛を抜けてまで

 殿下に自身で報告に来るとは」


テオドールはセシリアの侍女から警戒するべき人物を伝えられている。

だから尋ねたのだろう。王女の取り巻きにならなくて良いのかと。


「いえ、あまりにご自由に散策に出られるので、他国でこのような振る舞いは普通なのかと。

 自分には……少し考えつかない行動でして。正直に申し上げますと、戸惑っております。

 ですので、報告の任を仰せつかってきました」


要は自由すぎてついていけないから離れたかったと。


「あれは特殊だろう。我が国であのような振る舞いをする淑女はいない」


「そ、そうですね。リヒトヴェルト様を見て基準が高くなっているだけかと思ってしまって」


「は?」


今なんと言ったか。


「殿下、こちらの書類にサインを急ぎですので。

 フェルミオ・レンベルド殿、報告ご苦労。下がって結構です」


どのリヒトヴェルトか問いただそうと思ったが、テオドールが畳みかけるように

フェルミオを追い出したため機を逃した。


「テオ」


「はい、殿下」


「リヒトヴェルトとはどのリヒトヴェルトだと思う?」


「公爵夫人のことでしょうね。ええ。では、私は午後の調整に行ってまいります」


あ、逃げたな。

テオドールが出ていった扉を睨み、渡された書類に目を落とす。


「……セシリアが足りない」


誰にともなく呟いた言葉は、空虚な執務室に吸い込まれていった。



その日の午後、約束通りレヴィーナと会うことになった。


「ラスティエル殿下! お忙しい中ありがとうございます!」


レヴィーナは満面の笑みで俺を迎えた。

その屈託のない笑顔に、俺は内心で舌打ちする。


(セシリアのような計算も、駆け引きもない。ただ愚直に言葉を吐き出すだけか)


だからこそ、扱いづらいとも思う。


「レヴィーナ王女。本日はどのようなご用件で?」


「あの、わたくし、この国がとても好きになってしまいました。

 皆様とても親切で、優しくて。特に、アルフレイド様やエドウィン様、リシャール様は

 この国についてとか、色々なことを教えてくださるんです」


「……そうですか、それは良かったです」


「はい! それで、わたし思ったんです。

もっとこの国と深く繋がりたいって」


レヴィーナは一歩近づいてくる。


「殿下とわたしが婚姻を結べば、

 ルーンフェルド王国とイゾルデ王国はもっと強固な同盟になれます。

 南の脅威にも、一緒に立ち向かえますわ!」


「王女」


俺は静かに、けれど明確に告げた。


「俺には婚約者がいます。セシリア・フォン・リヒトヴェルトという」


「存じております。お綺麗で優しい方ですよね! でも……国益のためなら、

 婚約は変更できるものではないんですか?

 皆様も、そう仰ってましたわ」


レヴィーナは首を傾げながらふざけたことを言う。


「誰が、そう言った」


思わず声が低くなる。


「え……? あの、アルフレイド様やエドウィン様が……

 『王太子殿下なら、国のために最善の選択をされるはず』って」


(くそっ……やはり、な)


俺は深く息を吐いた。


「王女。俺の婚約は、何があっても変わらない。

 それだけは、理解していただきたい」


「で、でも……わたし、国のためを思って……」


レヴィーナは困ったように眉を下げた。


「その善意は理解します。しかし、俺の答えは変わりません。

 時間ですね。失礼します」


「あ……ラスティエル殿下……」


レヴィーナの困惑した声を背に、俺は執務室を出た。



廊下を歩いていると、柱の影からエドウィン・アレシュフォードが現れた。


「おや、殿下。話に聞きましたが、レヴィーナ王女殿下に

 随分と冷たい対応をなさっているようで」


飄々とした笑みを浮かべるエドウィンに、俺は足を止めた。


「何の用だ、アレシュフォード」


「いやあ、レヴィーナ王女は本当に純粋で可愛らしい方ですね。

 そんな方を悲しませるなんて、殿下も罪な方だ」


「……お前、何を企んでいる」


「企む? 何も、ですよ。

 王女殿下は王国のことを真剣に考えておられる。

 それを支援するのは、貴族としての務めでは?」


「セシリアを遠ざけるための口実か」


「殿下は誤解しておられる。

 誰も公女様を排除しようなどとは思っていません」


「では何だ」


「ただ……」


エドウィンは声を潜めた。


「王国の未来を考えれば、より有益な選択肢もあるのではないか、と。

 そう考える者が、増えているだけです」


俺はエドウィンを睨んだ。


「貴様ら、何をしている」


「何も。ただ、レヴィーナ王女殿下の素晴らしさを、

 多くの方々に知っていただいているだけですよ」


エドウィンは軽く会釈をすると、廊下の奥へ消えていった。




執務室に戻ると、テオドールが待っていた。


「殿下、状況が芳しくありません」


「報告しろ」


「はい。貴族たちの間で、レヴィーナ王女殿下を支持する声が高まっています。

 特に、アルフレイド・レグナント、エドウィン・アレシュフォード、

 リシャール・エルロイの三名が中心となり、

 『王国の未来のために、より良い選択を』という論調を広めているようです」


「……セルヴァンとフェルミオは?」


「セルヴァン・オルディアスは慎重な立場を取っていますが、

 王女殿下との会話には応じています。

 フェルミオ・レンベルドは……」


テオドールは言葉を切った。

やや間をおいて言いにくそうに重い口を開く。


「セシリア様に好感を抱いているようですが、

 近衛騎士として現在は王女殿下の護衛も務めているため、

 複雑な立場にあるようです」


俺は椅子に深く腰掛けた。


(セシリア……)


君を遠ざけたことが、正しかったのか分からない。

だが、この状況に置いておくわけにはいかない。

侯爵家、伯爵家の馬鹿子息どもが、学園時代と同じように

自分たちの気に入りの女を持ち上げ地位を得ようと騒ぎ立てている。

いや、社会に出た分だけやり口が汚くなったか。

周囲の低位貴族も巻き込んでいる。


「テオドール」


「はい」


「セシリアへの連絡経路は確保しているな」


「無論です。マリーを通じて、随時情報を送っております」


「……俺からの手紙も、頼む」


「かしこまりました」


窓の外を見る。

セシリアのいる方角を、俺は見つめていた。


(必ず、取り戻す)


王宮に渦巻く陰謀も、世界の強制力も、全て叩き潰してでも。

俺の婚約者は、セシリア・フォン・リヒトヴェルトただ一人だ。

それだけは、絶対に譲らない。

 

 

フェルミオ・レンベルド、無自覚に地雷原を全速力で走り抜ける男。

テオが苦労するだけだから殿下に近づけたくないNo.1!


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