第16話 王都の風
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鐘の音は冷たく、胸に刺さるように響く。
軋む荷車には焦げ跡を残し、布に包まれた樽が揺れていた。
中には幼い狼型と子供獣人型ヴァルグルム――小さな命が震えている。
彼らを乗せた荷車は、王都の門へと進んでいた。
ジョゼアの弟が帳簿をめくりながら声を上げた。
「えっとね……幼いヴァルグルムが一匹、樽の中で生きてるんだ。それと、人に近い姿をした獣人型ヴァルグルムも一匹。どっちもお金にはならないけど……ギルドに見せる証拠になると思うんだ!」
ジョゼアの母がうなずき、樽の蓋を少し開ける。
中で幼い狼型と子供獣人型ヴァルグルムが震え、布に包まれていた。
「殺さずに運ぶわ。これは命の証拠。粗末には扱えない」
ロシュが青ざめた顔で剣の柄を握りしめる。
「……斬った命と、まだ震えている命。しかも人に近い姿まで……ギルドはどう裁くんだろうな」
レティアが冷静に《マナトラック》を撫でながら言う。
「合理的よ。換金対象外でも、群れの存在を示す証拠になるし、獣人型は議会で議論されるはず」
グラウが腰の袋から、ひびの入った祈祷鈴を取り出した。
砕けたはずの鈴は、銀の補強具で繋ぎ直され、魔力の糸が淡く光を帯びていた。
ジョゼアの母が横で静かにうなずく。
「応急修理よ。完全ではないけれど、祈りを響かせるには十分なはず」
グラウは低い声で呟き、鈴を鳴らした。
「恐怖を和らげる祈りをかけよう。王都を越えて首都ノワルマルシュまで眠らせて運ぶんだ」
欠けた音はかすかに濁っていたが、それでも恐怖を和らげる響きが広がった。
ミナが尻尾をぱたぱた揺らしながら、樽にぴたりと顔を近づけた。
鼻をひくつかせ、まるで樽と会話するかのように声をかける。
「ちっちゃい匂いが二つもする!……ねぇ、聞こえてる?怖くないよ!あたしがいるからね!」
彼女はさらに樽を軽く叩いてみせる。
「ほらほら、返事してみ?……って、樽だから返事できないか!」
ライルが吹き出し、帽子を押さえて笑った。
「ミナ、とうとう樽に話しかけ始めたか。次は肉串にも話しかけるんじゃねぇだろうな?」
ミナは胸を張り、尻尾をぱたぱた揺らす。
「だって匂いがするんだもん!樽の中で震えてるけど、ちゃんと生きてる匂い!……肉串は匂いが美味しいから、話しかけてもいいでしょ?」
健二は帳簿に小さく書き添えた。
――「幼い狼型と子供獣人型ヴァルグルム、共に換金対象外。だが、命の震えは数字に収まらない」
石畳の街道を抜けると、灰色の尖塔が夕陽に染まり、空を突き刺すように並んでいた。
鐘の音は冷たく胸に響き、制度の重みを告げる。
その下には、黒鉄の門が石壁に組み込まれ、魔導符の光が淡く走っていた。
門前には荷車の列が軋み、冒険者や商人が帳簿を手に検査を受けながら門をくぐっていく。
列の中には、焦げ跡の残る荷車もあった。
寄せ集めた部品で再編された一台に、ジョゼアたちが分けてくれた補給物資が積まれている。
さらにその後ろには、厚い布で覆われた荷車――雷嘴と狼型ヴァルグルムの残骸を載せた、Aランク五位勇者ジョゼア率いる商人・魔導具士付き補給部隊の荷車が続いていた。
鐘の音と荷車の軋みが重なり、王都クレールヴァルの門前は「制度の冷たさ」と「戦場の余韻」が同時に漂っていた。
門兵が近づき、布に手をかける。
「中身を確認する。ギルドに提出する前に、検査が必要だ」
その瞬間、猫獣人の耳がぴくりと動き、ジョゼアの母が一歩前に出て、鋭い声で制止した。
「待ちなさい。これはギルド提出用の証拠物資。魔力波形が残っている以上、素人が布をめくれば漏出の危険がある」
門兵が眉をひそめる。
「だが、規則では――」
ジョゼアの母は深紅の外套を翻し、魔導具士の徽章を示した。
「私は補給監督であり、魔導具士でもある。責任を持って解体所とギルドに直送する。門前で粗末に扱うことは許されない」
尻尾が静かに揺れ、補給監督としての冷静さと母の誇りを同時に示していた。
門兵は一瞬ためらい、布の下から漂う焦げた臭いに顔をしかめた。
「……確かに、ただの残骸じゃないな。だが、記録は残すぞ」
健二が帳簿を抱え直し、すかさず声を添える。
「記録ならこちらで。雷嘴三羽、狼型ヴァルグルム十二体分。証拠として提出予定。数字はすでに記載済みです」
門兵は帳簿をちらりと見て、渋々手を引いた。
「……わかった。通れ。俺たちの仕事は門を守ることだ」
ミナが樽に顔を近づけ、鼻をひくつかせて小声で囁いた。
「ほらね、怖くないよ。ちゃんと通れたでしょ?」
ライルが苦笑する。
「ミナはほんと……樽に話しかけるなんて聞いたことねぇよ」
鐘の音と荷車の軋みが重なり、王都クレールヴァルの門前は緊張と安堵が入り混じる空気に包まれていた。
黒鉄の門を抜けると、王都クレールヴァルの内部が広がった。
夕陽に染まる尖塔の影が石畳に長く伸び、街全体を冷たく覆っている。
鐘の余韻がまだ胸に刺さり、制度の厳しさを告げていた。
ライルが帽子を押さえ、肩をすくめる。
「やれやれ、王都は商人にゃ居心地が悪い場所だぜ。数字と議論ばっかりで、飯の匂いが薄い」
健二は帳簿を抱え直し、尖塔を見上げた。
「でも、ここに記録を届けなきゃ意味がない。雷神裁の裁きも、SOS魔導符も、全部制度に刻むために」
ミナが鼻をひくつかせ、耳をぴくりと動かす。
「……匂いが固い。王都の風って、数字と契約の匂いがする。でも……鐘の音も冷たいね。胸に刺さるみたい」
彼女は少し首をかしげ、尻尾を揺らした。
「でも……焼きたてパンの匂いもする!王都の屋台かな?お腹すいたぁ……」
ライルが苦笑して肩をすくめる。
「お前はほんと食いしん坊だな。制度の匂いより飯の匂いに反応してやがる」
健二は帳簿を抱え直しながら、微笑んだ。
「でも、その嗅覚があるから助かってる。危険も食べ物も、匂いでわかるんだから」
ミナは得意げに胸を張り、尻尾をぱたぱた揺らした。
「うん!あたし、匂いでみんなを守る!……でも、まずはご飯!」
ジョゼアが魔導馬から降り、尻尾を揺らす。
銀灰の毛並みが夕陽を反射していた。
「ここで私は別れる。王都の勇者議会に呼ばれている。――私はリュミエール王国の国民ではないから、今回の旅の報告を求められているんだ。雷神裁の記録は、私の剣で証言する」
ジョゼアは弟たちの肩に手を置き、母に視線を向けた。
「母さん、残骸の換金は任せる」
ジョゼアの母は静かにうなずいた。
「わかったわ。あなたは議会へ。解体買取所には私たちがいくわ。……ギルドに届ける証拠は、補給部隊の責任で守る」
ミナがジョゼアの前に近づき、鼻をひくつかせる。
「……匂いが優しい。怒ってない。守るために戦ってる匂い。ジョゼア、また会える?」
ジョゼアはしゃがみ、ミナの頭を軽く撫でた。
「風が呼べば、また跳ぶ。命の震えが届けば、私は応える。それが雷神裁の剣だ」
尻尾が揺れ、赤の紋章旗が風に翻る。
王都クレールヴァルの尖塔を背に、補給部隊と勇者たちと共に健二たちは冒険者ギルド王都支店へと足を運んだ。
ギルドの一角――解体買取所。
石造りの広間には、魔物の残骸を積んだ荷車が並び、鉄の匂いと獣臭が重く漂っていた。天井の梁には古い血痕が黒く染み、鎖に吊るされた牙や翼が揺れている。
刃物が骨を断つ音、魔核を抜き取る「きぃん」という魔力の響きが交錯し、解体師たちの声が次々と響いた。
「毛皮一枚、銀貨七枚!上質だ、冬用の外套に使える!」
「翼骨一本、銀貨五枚!魔導具の骨格素材に最適だ!」
「爪三本、銀貨二枚!紋が刻まれている部分は金貨一枚半!」
「魔核は金貨一枚!波形がまだ残っている、提出用に記録!」
記録係が帳簿に素早く数字を書き込み、商人たちが目を光らせて素材に群がる。
金貨と銀貨の響きが広間に重なり、血と魔力の匂いに混じって鉄の冷たい匂いが漂った。
雷嘴の残骸の布が外されると、焦げた翼と砕けた嘴が現れ、周囲の解体師たちがざわめいた。
「……こいつは大物だな。雷嘴の残骸なんて、王都でも滅多に見ねぇ」
「紋嘴か……」
ざわめく中、奥から現れたのは年配の解体師。
血染めの前掛けに、魔導具士の古い徽章が縫い込まれている。
「これはただの紋じゃない。雷嘴の紋は、魔力の流れを記録する“雷刻”だ。魔導具に組み込めば、魔力を貯めることが出来る、普通紋の何倍もだ。……金貨一枚半じゃ安すぎるな」
横で記録係のギルド職員が、魔導具の水晶盤に指を走らせた。
魔力の波形が浮かび、検索結果が淡く光る。
「……あっ、あります。雷嘴の紋は“雷刻嘴片”(らいこくしへん)。魔導具素材として登録済みです」
周囲がざわめき、若い解体師が思わず口をつぐむ。
その場に、ジョゼアの母――マリナ・セルジーヌが姿を現した。
深紅の外套に魔導具士の徽章を下げ、補給監督としての冷静な眼差しを残骸に向ける。
「魔力波形はまだ残っているわ。解体の際は魔力漏出に注意して。……この残骸はギルドに提出する証拠でもある。粗末には扱えない」
健二が思わず息を呑む。
「……母親が補給監督って、すごいな」
マリナは健二に視線を向け、柔らかく微笑んだ。
「補給は命を繋ぐ仕事。娘が戦場に立つなら、母は後方で支える。それだけのことよ」
その隣で、まだ幼さの残る少年が耳をぴんと立てて声を張る。
「解体師さん!嘴の欠片は別枠で査定してください!紋が刻まれてる部分は、魔導具素材として高値がつきます!」
尻尾が落ち着かず揺れているのは、まだ子供らしい緊張の証だった。
交渉に立ったのは長男――レオン・セルジーヌ(13歳)。
商人としての才覚を早くも発揮し、現場対応に慣れた口調で解体師を押し込んでいく。
「おいおい、子供が交渉か?」
解体師が苦笑するが、レオンは怯まない。
「子供でも商人です。ギルドに提出する記録は、値段も含めて正確じゃないと困りますから」
解体師がヴァルグルムの毛皮を広げ、牙を並べて査定した。
「こっちは狼型ヴァルグルムだな……牙は損傷があるな……魔核も大きさがバラバラ……だが毛皮は上質だ。全部で十二体分、金貨十枚だ!」
解体師が帳簿をめくりながら、声を張り上げた。
解体師たちがどよめき、金貨の響きにさらにざわめきが広がる。
「雷嘴三羽で金貨十枚半!さらにヴァルグルム十二体分で金貨十枚!――合計二十枚半だ!」
査定額を聞いた解体師の一人が、口笛を吹きながら笑った。
「独り身なら十年は遊んで暮らせる額だが……四人家族なら二、三年ってところだな。五人ならもっと短ぇ。家族持ちは金貨の減りが早いんだ」
ミナが首をかしげて尻尾をぱたぱた揺らし、目を輝かせて身を乗り出した。
「えっ、それって……肉串何本分?屋台のやつ、いっぱい食べられるよね!でも……みんなで分けなきゃいけないの?うーん、やっぱり一人で全部食べたい!」
ライルが吹き出し、帽子を押さえて笑う。
「お前はほんと食いしん坊だな。金貨を肉串で換算するやつがあるかよ!」
健二は帳簿を抱え直し、苦笑しながらもうなずいた。
「でも、そうやって匂いと食べ物で考えるのも悪くない。命の重さを数字だけじゃなく、日常の匂いに置き換えるのは……ミナらしいな」
健二は金貨の数字を見て思わず息を呑んだ。
「……二十枚半。庶民が十年以上暮らせる額……。数字で見ても重い。けど、これが命の重さを全部表してるわけじゃないんだよな」
彼はペンを走らせ、帳簿の余白に小さく書き添えた。
――「金貨二十枚半。だが、命の震えは数字に収まらない。肉串換算2本銅貨一枚だから十二万三千本分だな…ミナ…一度には無理だ」
ミナはそんな健二の真剣な横顔を見て、首をかしげた。
「でも……肉串いっぱい食べられるんだよね?」
健二は思わず笑ってしまい、帳簿を閉じた。
「そうだな。肉串何百本分だ。でも、それ以上に重い記録なんだ」
その後ろで、帳簿を抱えたもう一人の少年が黙々と数字を書き込んでいた。
次男ティオ・セルジーヌ(12歳)。
在庫管理と帳簿記録を担当する彼は、尻尾をきゅっと巻き、兄の交渉を冷静に数字へ落とし込んでいた。
「雷刻嘴片、推定金貨二枚半。翼の残骸、金貨一枚。……1羽分の合計で金貨三枚半×3羽で金貨10枚半。補給部隊帳簿に記録済み」
耳がわずかに伏せられてるのは、兄の交渉を支える責任感の重さだった。
健二が驚いたように目を見開く。
「……十二歳で帳簿管理?俺が新人営業だった頃より正確だ」
ライルが肩をすくめて笑う。
「さすがジョゼアの家族だな」
ミナは鼻をひくつかせ、兄弟の匂いを感じ取る。
「……匂いが似てる。ジョゼアと同じ、守るために戦ってる匂い。でも、ちょっと甘い匂いもする。まだ子供だからかな」
雷嘴と狼型ヴァルグルムの残骸が解体され、金貨の音が帳簿に記録される。
その響きは、戦場の余韻を制度へと変える音だった。
マリナが帳簿を閉じ、静かに言葉を落とした。
「分配については補給部隊で決めたわ。私たちは金貨三枚だけ受け取る。残りは――君たちよ」
健二が思わず声を詰まらせる。
「えっ……三枚だけ?あれだけの残骸を管理して……」
ライルが帽子を押さえ、目を丸くした。
「おいおい、残り全部って……十七枚半だぞ!?独身庶民なら八年近く暮らせる額だぞ!」
勇者たちの面々もざわめき、ジョゼアの弟たちまで驚いた顔を見せる。
その言葉に、勇者ロシュが青ざめた顔で剣の柄を握りしめた。
「十七枚半……。俺たちが命を懸けて戦った証だが……重すぎる。ギルドに報告する責任も背負わなきゃならないな」
戦士ザルドが大剣を肩に担ぎ、豪快に笑った。
「はっ!金貨十七枚半だと?俺なら肉と酒に全部使っちまうぜ!……だがよ、母上が三枚しか取らねぇってのは筋が通ってる。前線に立った俺たちが受け取るべきだ」
魔法使いレティアは冷静に腕の《マナトラック》を撫でながら、淡々と口を開いた。
「数字は冷たいけれど、分配の仕方に温かさがあるわ。補給部隊が三枚だけで満足するなら、私たちはその信頼に応えるしかない」
僧侶グラウは祈祷鈴を鳴らし、低い声で呟いた。
「金貨は命の代償ではない。だが、制度に刻まれる証として受け取るなら……祈りと共に使うべきだ。十七枚半の重みを、忘れてはならん」
ミナは尻尾をぱたぱた揺らしながら、きょとんとした顔で言った。
「じゃあ……肉串は全部あたしたちの分?やったぁ!」
健二は苦笑しながらも、胸の奥に重みを感じていた。
「……数字以上の信頼を渡されたんだな。これは、ただの報酬じゃない」
その時、ジョゼアの母マリナが尻尾を揺らしながら近づいてきた。
深紅の外套の下から、小さな布包みを取り出す。中には雷紋が刻まれた嘴の欠片が収められていた。
銀灰の耳がぴくりと動き、弟たちも緊張した面持ちで見守っている。
「これを渡しておくわ。検査に回せば、SOS魔導符との関連が分かるかもしれない。私たち補給部隊はここまで。後はあなたたちの役目よ」
健二は驚きに目を見開き、慎重に布包みを受け取った。
「……嘴の欠片。ギルドに提出すれば、記録に残る。魔導符のSOSと繋がる証拠になるかもしれないな」
横でレオンが耳をぴんと立て、尻尾を落ち着かず揺らしながら声を張る。
「兄さんたち、これ……絶対にギルドに届けてね!大事な証拠なんだから!」
ティオは帳簿を抱え、尻尾をきゅっと巻きながら冷静に補足する。
「嘴の欠片、推定金貨二枚。……でも今回は換金じゃなくて、提出用。記録済み」
ミナが鼻をひくつかせ、欠片の布包みに顔を近づける。
「……雷の匂いがする。ちょっと怖いけど……優しい匂いも混じってる。ジョゼアの剣と同じ匂いだ」
マリナは静かにうなずき、尻尾を揺らした。
「行きなさい。あなたの剣が証言するなら、私たちの記録も証言になる。国の制度は冷たいけれど、命の震えは数字に刻めるはず」
健二は帳簿を抱え直し、深く頭を下げる。
「本当に助かりました。補給がなければ、ここまで来られなかった。……刻まれるのは数字だけじゃない。あなたたちの支えも記録に残します」
レオンが照れくさそうに耳を伏せ、ティオは真面目に帳簿を抱え直した。
「……子供でも商人だよ。ギルドに届けるのは責任なんだ」
マリナは尻尾を揺らして微笑んだ。
「あなたたちの旅路に、風が味方しますように」
別れの言葉が交わされ、ジョゼアの母補給部隊は荷車を王都の宿屋へと進めていく。
健二は自分たちの護衛4人に残りの賃金を手渡した。
「これで契約は終わりだ。……本当に助かった」
銀貨を受け取った護衛たちは、それぞれの思いを胸に笑みを浮かべる。
屈強な護衛は拳を握りしめて言った。
「これで数か月は暮らせる。家族に胸を張って帰れるさ」
若い護衛は銀貨を数えながら肩をすくめる。
「命を守れたことが誇りだ。……また会えたらいいな」
ミナが鼻をひくつかせ、尻尾をぱたぱた揺らす。
「護衛さんたちの匂い、優しかった!……でも、ちょっとお酒の匂いもした!」
健二は苦笑しながらも、胸の奥に重みを感じていた。
「……金額以上の信頼を渡したんだな。これは、ただの賃金じゃない」
護衛たちが去り、焚き火の火が静かに揺れる。
残されたのは勇者たちと健二たちだけだった。
健二は帳簿を抱え直し、南の街道へと視線を向けた。
「……報告も、記録も、全部制度に刻まなきゃ意味がない。行こう、ノワルマルシュへ」
夕陽に染まる街道に歩みを進めた。




