試験開始、そして適応
神託学園では、月に一度、戦闘適性再判定が行われる。
表向きは、個々の生徒が正当なランクに振り分けられるための制度——
だが実態は、下位ランクを潰すための口実だった。
「Fクラスからは、1名のみ参加。希望者がいなければ、ランダム選出となる」
担任の教師がそう言った瞬間、教室がざわついた。
だが、レンは立ち上がって言う。
「……俺が出る」
「はあ!? 正気か、お前!」
「まだ死に足りねぇのかよ!」
仲間のFクラス生徒たちが止めようとする中——
「レンなら勝てる」
と、カグラが言い切った。
その言葉に教室は静まり返る。
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試験会場は、巨大なアリーナ。
待ち構えていたのは、Cランクの上級生3人。
それぞれが異なる属性のスキル持ち——氷、風、そして土。
「よお、Fランクの星さんよ。調子に乗ったツケ、払ってもらうぜ?」
「スキルは一つずつ使ってもらうよ。試験だからな」
レンは、無言で前に出た。
「——始めッ!」
審判の合図とともに、氷の術式が放たれる。
空間を凍てつかせる冷気。
だがそのとき——
「……はい、もらった」
レンの手が、氷術の軌道をなぞるように振るわれた。
直後、彼の背後から凍気が放たれる。
「なっ、今のは俺のスキルだろ!?」
「その通り。悪いな、空白は相手のスキルを一度見たら、即座に再現できる」
観客席が騒然とする。
「模倣じゃねぇ! 完全なコピーだ!」
「いや、それどころじゃねぇ……威力が上がってる!?」
次いで、風の術者が突撃する。
だが——
「風の流れを読み取る……今の俺なら余裕だ」
レンの目が光を宿す。
空白は、ただのコピーではない。
使用者の戦闘センス、適応力、そして、意志によって、スキルそのものを進化させる。
風の刃を巻き上げ、レンの手から放たれた風弾が、敵の術者を吹き飛ばす。
残る一人、土属性の男が叫ぶ。
「ふざけるなよ……ッ! お前、Fランクじゃねぇだろッ!!」
「言ったろ。俺は無能だってさ」
土の壁が立ち上がる。
だがレンは、それを見て笑った。
「——見えた」
レンが地を蹴る。
空気が振動し、土の壁を軽々と跳躍。
そしてその手が、敵の額に触れる。
「《空白・発動:地陣強化》」
ズゥゥン……!
レンの足元が発光し、瞬時に地面が彼の支配下に入る。
「お前の得意分野ごともらった」
轟音とともに、土塊が逆流。
敵は意識を失い、場外へ吹き飛んだ。
——静寂。
そして、歓声。
「勝者——天城レン!!」
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試験後、職員室。
報告書を読んでいた一人の男が、口元を吊り上げる。
「空白……この学園に、こんなバケモノがいたとはな」
学園教官・アーク=レイヴン。
元・帝国軍の精鋭であり、現役最強の戦闘教師。
彼は、レンの報告映像を何度も巻き戻しながら呟いた。
「模倣じゃない。進化……いや、最適化だ。やはり、こいつは——」
そのとき、背後からユナが現れる。
「どう思います? 天城レンの力」
「評価せざるを得ないな。……だが、同時に危険でもある」
アークの瞳が鋭く光る。
「使い方を間違えれば、世界を焼く力にもなりうる……お前は、彼を止められるのか?」
「私は、彼と——並び立つためにここにいるんです」
ユナの答えに、アークは口角をわずかに上げた。
「なら、どちらが本物の怪物か……見せてもらおうか」