再会、そして断罪
Fランクの勝利から数日後——
神託学園の空気は、明らかに変わっていた。
「おい、あのレンってやつ見たか?」
「Fランクの癖に、Dランク倒したんだろ?」
「模倣能力らしいけど……ただのコピーじゃなかったって話だぜ?」
噂が、噂を呼ぶ。
冷たい視線だった無能というレッテルが、今や奇異と興味の混じった目に変わっていた。
だが、レン本人はというと——
「……面倒くせぇなぁ」
昼休み、木陰で寝転ぶレンの隣に、カグラがパンを咥えて座る。
「なんだ。注目されんの嫌いか?」
「俺は静かに過ごしたいだけなんだ。目立つのは、性に合わない」
「無理だろ。あんな勝ち方して」
「……だよな」
肩をすくめたそのときだった。
「——そこまでだよ、レン」
静かに、だが凛と響く声が頭上から降ってきた。
レンが顔を上げると、そこに立っていたのは——
「……ユナ」
光を宿した金髪と、真っ直ぐな瞳。
学園最強・Sランクの光術師、そして、かつての幼馴染——ユナ・エヴァンス。
「ちょっと、話があるんだけど。少し、時間ある?」
「……そう来ると思ったよ」
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二人は人気のない中庭へと移動した。
傍目には穏やかに見える対話だったが、その空気は張り詰めている。
「久しぶりだね、レン」
「三年ぶりかな。最後に会ったの、推薦試験の日だったか」
「うん。あの日……あなたは無能と判定された」
ユナは、あえてその言葉を使った。
「なのに、今では火の魔法を使いこなしてる。どういうこと?」
「さあな。少しばかり、珍しいスキルを持ってるだけさ」
「……空白でしょ?」
レンの目がわずかに動く。
その反応を見て、ユナは言葉を続けた。
「私は調べた。模倣系スキルの記録には、そんな名称は存在しない。あなたの能力は……規格外」
「それが分かってどうする? 怖くなったか?」
「違う」
ユナは一歩、レンに近づく。
その瞳に宿るのは、憎しみでも、恐れでもなく——悲しみ。
「私は、あの日あなたを、裏切ったことをずっと悔いてる」
レンの肩が、微かに震えた。
「本当は、あなたが何か特別な力を持ってるって、薄々分かってた。けど——認めるのが怖かった。私より強くなるかもしれないって……そんな自分が、嫌だった」
沈黙。
「……今さら、謝罪でもしに来たのか?」
「違うよ。——私は、あなたに宣戦布告しに来たの」
光が走る。
ユナの手に宿ったのは、眩い光の剣。
「私はSランク。光の覇者。絶対的なトップであるべき存在。なのに、あなたは……そんな私を揺らがせる」
「だったら、倒してみろよ」
レンが立ち上がる。
その手には、何も武器はない。だが、空気が変わる。
——まるで、周囲のスキルが彼のもとに吸い寄せられていくような、不可視の重圧。
「俺はもう、無能なんかじゃない。もしお前がそれを証明したいなら——全力でかかってこい、ユナ」
二人の間に、電撃のような緊張が走る。
だが、次の瞬間——
「ユナ様!」
騎士服に身を包んだ数人の上級生が、慌てて駆け寄ってきた。
「Fランクの者と接触するなんて危険です! この男は……!」
「やめて」
ユナの声が鋭く刺さった。
「——彼は、私のライバルよ。侮辱したら、ただじゃ済まさないから」
そう言い残し、ユナは去っていく。
残された騎士たちは、レンに怯えたような視線を残して後に続いた。
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「……女ってのは怖いな」
戻ったレンのもとで、カグラがぼそっとつぶやいた。
「どうだった、元カノとの再会はよ?」
「カノジョじゃねぇよ……」
「顔、赤いけどな?」
「……気のせいだ」
その日から、天城レンという存在は、学園内で決して無視できない存在として意識され始める。
Fランクの反撃。
それは、学園そのものの秩序を壊していく——