最底辺からの一矢
神託学園には、月に一度の恒例行事がある。
その名も——ランク別実戦演習。
これは同ランクのチーム同士で模擬戦を行い、戦績や連携能力、実力を評価する制度だ。
そして何より、生徒間で格を見せつける絶好の舞台でもある。
だが、Fランクは、毎度のように参加すら危うい。
教師陣にとっては、時間の無駄とすら思われている。
しかし今回、彼らは違った。
Fランク代表チーム——天城レンとカグラ・シンエンが、演習に志願したのだ。
「……ふん、珍しく度胸あるじゃねえか、底辺ども」
そう言って笑ったのは、対戦相手のDランク代表チーム。
火属性スキル持ちのエース・クロウ・バーンズが率いる、いわゆる平均以上の中堅軍団だ。
「マジで出てくんの? バカじゃねーの?」
「お前らは座って授業受けてるだけでいいんだよ。せめて邪魔だけはするなよ?」
見下しと嘲笑。
だがレンは、そのすべてを静かに受け流した。
「大丈夫。こっちには獣がいるから」
「……テメェ、誰が獣だって?」
カグラが後ろから小突いてくる。
レンは小さく笑って手を上げた。
演習場、中央。
合図とともに戦闘が始まった。
「燃えろ!《フレイム・レイン》!」
開幕、クロウが火の矢を連射。
範囲制圧、燃焼付与——初手から殺しにきていた。
だがその刹那。
「任せろッ!」
カグラが前に出る。《獣撃》で地面を打ち抜き、火矢の軌道を歪ませた。
同時にレンが後方から分析開始。
(クロウの動き……詠唱パターン……スキル発動のタイミング)
《スキル解析開始:フレイム・レイン》
「お前……コピーなんかで、俺の本物に敵うと思うなよッ!」
「さぁ、どうだろうな」
レンが木刀を振る。
瞬間、彼の後方に残像のような光の軌跡が現れ、同じ火矢が放たれる。
「なっ……俺の技を……!?」
——《フレイム・レイン(複製)》
本来は単純コピーの劣化技になるはず。しかし、レンはそこから進化させていた。
「再構築した。《着弾遅延》を加えたから、そっちの火矢の影に、俺の火矢が潜ってる」
「っ、なにっ——」
ズドンッ!!!
直撃。クロウの左肩にレンの火矢が炸裂する。
避けたつもりが、時間差で襲う影の火矢。
「ぐっ、くそ……っ、まさか……Fランクが……」
カグラが拳を振り下ろす。
クロウの足元の地面が砕け、体勢を崩した彼にトドメの一撃が叩き込まれた。
ドンッ!
クロウ、失神。
《試合終了——勝者:Fランク代表チーム》
場内が、静まり返る。
Dランクの敗北。底辺が中堅に勝利した——それだけの事実が、学園を揺るがせた。
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「……天城レン、カグラ・シンエン。お前たち、Fクラスにしては出来すぎだ」
試合後、現れたのは教官のアーク・ライトニング。
冷徹で知られる元軍人で、レンに辛辣な評価を与えていた張本人だ。
「まぁ、あれだ。多少は見直した」
「そりゃどうも」
「……ただし」
アークが鋭い目を向けた。
「お前の能力、普通の模倣とは違うな。進化してやがる……空白だったか?」
「……はい」
「今は見逃してやるが、調子に乗れば潰す」
「望むところです。俺の力がどれだけヤバいか……いずれ、みんなに教えてやりますよ」
アークが去った後、カグラがにやりと笑った。
「お前、やっぱ気に入らねぇ。けど、面白ぇわ」
「お褒めにあずかり光栄です、相棒」
こうして、Fランクの名が学園中に轟く第一歩となった。
最底辺からの反撃は——今、始まったばかりだ。