最底辺クラス、最初の異変
「はぁ……マジで、あれがFランクかよ……」
訓練場を出てから数時間、Fクラスの連中の視線が微妙に変わったのは、俺のスパーリングのせいだろう。
誰も信じてはいない——でも、完全にバカにもできない。
「風刃って、お前が使ってたの……偶然か?」
「いや、でもカザミの見た後だし……コピー……? んなわけねぇか」
まだ疑念止まり。だが、それでいい。
いきなり全開でぶっちぎったら、スキル管理局に目をつけられる。それだけは避けたい。
今は「地味に、でも確実に」見せつける時期だ。
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翌日。
朝の授業が終わり、昼休み。学食でパンを取ろうとしたその瞬間——
「……ちょっと、いいかしら?」
凛とした声が背後から響いた。
振り返ると、そこにいたのは——
長い金髪に、透き通るような青い瞳。制服の胸元には、最高位である『Sランク』のエンブレム。
リヴィエール・ユナ——スキルランクSの新入生。
「君、昨日の……Fランクの子よね?」
いきなりの爆弾投下に、周囲の生徒たちが一斉に振り返る。
空気がピキリと凍りついた。
「……そうだけど?」
俺は冷静を装った。
相手は間違いなくこの学園のトップクラス。関わらないのが無難だ。
だが、ユナは臆することなく言い放った。
「あなた、昨日『風刃』を使ったわよね? Eランクのカザミくんのスキルを」
……マジか。そこまで見られてたか。
「まさかFランクのくせに、スキルを模倣できる能力? それとも偶然?」
その瞳に宿るのは、好奇心とも警戒とも取れる光。
なるほど、彼女はただの優等生じゃない。ちゃんと戦闘者の目をしてる。
「さぁな。たまたま、手が勝手に動いただけかもよ」
「ふうん……でも、もしそうなら、今日の演習戦で証明してみせて?」
「……演習戦?」
ユナが微笑んだ。
「今日、Bランク以上の実戦訓練に、特別参加者として『Fクラス』からも一人出ることになったの。名指しで、あなたが」
——また面倒事だ。
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午後。訓練場には、すでに多くの上位クラスの生徒が集まっていた。
B〜Sランクの連中が勢揃いのなか、俺一人だけ、場違いな制服。
「うわ、本当にFランク来てんじゃん……」
「自殺志願者?」
そんな嘲笑の中、教官が口を開く。
「特別試合を始める。対戦は——Sランク、リヴィエール・ユナ vs Fランク、天城レン」
どよめきが起こる。
ユナとやる? 本気か?
「安心して。殺しはしないから」
ユナが剣を構えた。
スキルは光属性——光剣
圧倒的な精度と出力を持つ斬撃スキル。
一発食らえば即終わり。
「始め!」
教官の声と同時に光が閃いた。
(速い——!)
ユナの突進はまるで閃光。通常なら反応すらできないが——
(見えた……!)
俺は足を横に滑らせ、ギリギリで回避。
その手で、ユナの剣の柄に触れる。
ギュイン——
《スキル解析開始:ラディアンスブレード》
《コピー中……》
《解析完了》
「……なにっ!?」
ユナの目が見開かれる。
俺の手の中に、光が集まり——
その場で、まったく同じ光剣が形を成した。
「まさか……模倣スキル!?」
ユナが素早く距離を取る。
彼女は察した。俺のスキルがただの偶然じゃないと。
(悪いが、こっちはさらに強化もできる)
俺の光剣が、さらに濃密な光を帯びて脈動する。
そして——
「ハァッ!」
閃光と閃光が激突した。
ユナの攻撃を真正面から受け止め、火花が散る。
力では押し負けていない。むしろ——
「——っ、これは……!」
ユナの剣が弾かれた。
俺の光剣は、彼女のものよりわずかに出力が上がっていた。
観客がざわめく。
「Sランクと互角……!?」
「Fランクって言ってたよな?」
「なんだこいつ……本当にFか?」
俺は言った。
「だから最初に言っただろ? たまたまだって」
それでも、ユナは口元に笑みを浮かべた。
「面白い……あなた、本当に無能なの?」
そして教官が割って入る。
「——そこまで!」
試合は中断。結果は引き分け扱い。
だが、それで十分だった。
今日の一戦で、俺の名は一部の上位ランクに刻まれた。
Fランクの異常値として——
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その夜。
寮の一室、俺は一人ノートを広げていた。
光剣の構造式、風刃の応用型、そして——まだ触れていない他人のスキルの空欄。
(俺の空白は、他人のスキルを取り込み、書き換える)
(吸収し、解析し、強化する)
ノーコード。無とされる力。
だがそれは、何でも書き込める白紙だった。
「まだだ……こんなもんじゃない」
世界最強? 遠い話。
でも、踏み出した。もう一度、ここから。
無能と呼ばれた少年の、反撃の物語は——まだ、始まったばかりだ。