スキル判定Fランク、俺、無能確定です
「……天城レン。スキル判定、Fランク。該当クラスは——『零等級区画』」
その瞬間、空気が止まった。
会場の中心、巨大な水晶球に右手を触れたままの俺——天城レンは、ひときわ重たい沈黙を背中に浴びていた。
「マジかよ……Fランクって……」
「今の時代にまだ存在したんだ」
「かわいそう……」
ざわつく周囲。呆れ、憐れみ、そして明確な侮蔑。
目の前の水晶球に浮かぶ、鈍い灰色の光。それは、スキルの適性ランクを示す色だった。
「次、リヴィエール・ユナさん」
俺のことなど誰も覚えていないと言わんばかりに、司会の教師が淡々と次の名を呼ぶ。入学式当日、神託学園のスキル判定は一人一人の運命を決める儀式。そして俺は——最底辺に落ちた。
(はは、なんだよこれ……マジで無能じゃん、俺)
わかっていたはずだった。けれど現実に突きつけられると、やはり胃の奥が重くなる。
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この世界では、人間は全員「スキル」を持って生まれる。火を操る者、空を駆ける者、時間に干渉する者——その力の有無と強さが、そのまま人間の価値に直結する。
中でも、俺が入学したこの『神託学園』は、全てのスキル保持者の中からエリートを育てる国家直属の特権校。
入学には「才能」が必須。そして、その才能は「ランク」によって数値化される。
S・A・B・C・D・E・Fの七段階。
Sなら天才、Aで優秀、Bが一般。C以下は補欠、E以下はゴミ、Fは……論外。
俺はその論外だった。
「こっちが、零等級区画か……」
案内されたのは、本校舎から隔離された裏の寮棟。雑草が伸び、扉は軋み、内装もボロボロ。
「ようこそFランククラスへ、俺たちの学園の墓場にな……」
出迎えてくれたのは、同じくFランクの連中だ。どいつも目に光がなく、敗者の烙印を受け入れた者たち。
(あーあ……なんでこうなった)
答えはわかってる。「空白」という、俺のスキルのせいだ。
判定不能。スキル効果不明。実体なし。水晶球が反応しない謎スキル。
そのせいでFランク、そしてこの扱い。
けれど——
(俺のスキル、本当に無能なんだろうか?)
確かめたい。だからこそ、俺はこの学園に入ったんだ。
自分が何者なのか。俺の空白に、何が隠されているのかを。
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翌日、基礎訓練の時間。
「今日はスパーリングだ。ペアを組んで簡単な模擬戦をしてもらう」
担当教官が言った。
そして、俺の前に立ったのは、Eランクの男子生徒・カザミ。
「おい、無能。俺が手加減してやるからよ、ありがたく思えよ?」
カザミは両手に風をまとっていた。Eランクの「風刃」——斬撃系のスキル。
ま、強くはないが、Fの俺からすれば十分脅威……ということになっている。
「——はじめ!」
号令と同時に、風が唸った。
カザミが弧を描いて踏み込み、風の刃を放つ。俺は紙一重でそれを回避した。
「おらおら、逃げんなよ無能!」
鋭い風刃が再び飛来する。
(見える……軌道も、タイミングも)
俺は、直前で体を捻り、逆に踏み込んだ。
「なっ——」
空振りしたカザミの懐に入り、彼の右手首を掴む。その瞬間——
ギュイン——
視界の奥に、データのようなものが浮かび上がった。
《スキル解析開始:風刃》
《コピー中……》
《解析完了》
「——!?」
俺の右手が、淡い風のエネルギーを帯びた。
「な、なに……!?」
風が、俺の指先から螺旋状に巻き起こり、刃となって伸びる。
(……できた。俺にも風刃が使える)
初めての感覚だった。まるで、他人の力が俺の中に、染み込んでくるような奇妙な体験。
でも、理解した。
——これが、俺のスキル『空白』の本質。
(他人のスキルをコピーして、強化できる。制限は……今のところ不明。使用中のリスクもない)
試すには十分な舞台だ。
「はっ!」
俺は風刃を打ち放つ。
シュンッ——
風が唸り、カザミの足元すれすれを切り裂いた。わざと狙いを外したが、威力は……本家以上。
「ひ、ひいっ……!」
カザミは尻餅をつき、顔を蒼白にする。
教官が笛を吹いた。
「そこまで!勝者、天城レン!」
静寂。
ざわ……ざわ……と騒めくFランククラスの連中。
その目が、わずかに変わっていた。軽蔑から——疑問へ。
「え、今の……どうやって……?」
「風刃って、お前使えたっけ?」
「いや、さっきカザミが使ってたやつじゃ……」
ざまあみろ。俺は無能じゃない。むしろ——
(俺のスキルは、使い方次第で最強になれる)
もちろん、真実を全部晒すつもりはない。
だが、少しだけ、見せてやるくらいはいいだろう。
自分を「無能」と笑った世界に、少しずつ、逆転の一手を。
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その日の夜。
俺はFクラスの部屋の隅で、一人静かにスキルノートを広げていた。
そこには、さっきコピーしたスキル——風刃の構造式が記されていた。
(吸収はできた。あとは、どこまで強化できるか……)
静かに拳を握る。
このスキルには限界がない。俺自身が制御さえできれば——
いや、制御してみせる。
——俺は無能なんかじゃない。
ただのFランクが、世界を揺るがす存在になる。
そんな物語が、今日、始まったのだ。