前途多難
執筆自体初めてなので、趣味程度のものと捉えてください<(_ _)>。
「――すぅ」
息を大きく吸い覚悟を決めた俺は、俺を含めた生徒の情報が登録された大結界を通り抜ける。
結界を通り抜けるなんてことは、魔法大陸の日常の一部でしかない平凡な行為だが、これは違う。
なんせこの結界は魔法大陸一の魔法学校、あの『メウルカリア魔法学園』のものだ。
「うぐっ・・・・」
『アレン・アレイス』として入学した俺は、結界を越えるとまず最初に大気中の魔力量の違いに肺が重くなる。
「ここの生徒となって一週間も経ったのに、未だに慣れねえな」
魔法大陸一の名門高校であるメウルカリア魔法学園に通う一年生、それが俺の新しい肩書きだ。
自分の素性に似つかわしくないその肩書きに思わず背筋が伸びてしまう。
「この前の魔力量検査だと、俺の魔力量はこの学校だと平均かそれ以下だって結果だったな」
魔力量がすべてではないが、おそらく俺以下の魔力量の入学生は俺以上に気分を悪くしているのだろう。
実際に正門から校舎へ続く道の脇で、腹と口元を押さえている入学生らしき生徒がチラホラ見える。
上級生が気にしていないところを見るに、毎年の恒例なのだろう。(それにしたって酷いと思うが)
その中で、凛とした佇まいを保ったまま堂々と道の中央を歩く、濃い茶髪に桃色の目をした女生徒の姿が見えた。
「あれは確か・・・」
『リア・グウェン』だ。この学校で彼女を知らない学生はまずいないだろう。
彼女が入学生代表として全校生徒の前で見せた、固有スキル『魔法式の最大化』で『範囲』を最大化された中級炎魔法『メド・ローガ』は、魔法大陸一の魔法学校にふさわしい入学式の余興となった
グウェン家という名家の娘なだけあって、魔力量や魔導技法に優れているようでこの重苦しい魔力にあてられても顔色一つ変えていない。
「まったく羨ましい限りだな」
理不尽な憤りを抑えて、俺は今日も自分の目的のために、学校の施設の間取りを把握しようと教室までの道を逸れて歩き出す。
それからしばらくして、昨日までの分も含め主要施設とその周りは大体把握し終えた。
「ホームルームまではもうちょい時間がある、今なら人もいないだろうし魔道具倉庫のほうも軽く見とくか」
主要施設のあるエリアから魔道具倉庫までの間にある射撃魔法場は、ホームルーム前の今は使われていないはずだ。
「ひやあああああああああああ!!!!」
射撃魔法場の扉に手をかけたとき、中から凄まじい魔力と悲鳴が漏れてきた。
「はぁ!?一体何が・・・!」
俺は慌てて扉を開け、中へ入る。
するとそこにいたのは例の『リア・グウェン』だった。
どうやら外まで漏れていた魔力は、彼女の唱えた上級無属性魔法『グラン・ノーマ』によるものらしい。
だが様子がおかしい、安定した魔法式で組まれた魔法が、発動前にこんなに魔力を漏らすはずがない。
「なぁおい!これ式ミスってるぞ!早く止めろ!」
「わかってるわよ!けど既に魔法式に通った魔力が攻撃魔法に変換されてるの!こんな大量の魔力をすぐに変換しなおすなんてできない!」
「はぁ!?優等生様が何やってんだよ!?」
こんなに大量の魔力を使った上級魔法が、不完全なまま発動して指向性を失いでもしたら、射撃魔法場の結界でも耐えられない。俺たちと一緒に木っ端微塵だ。
こうなったら、俺の固有スキルを使うしかない。
「おい!俺ならその魔法をほとんど抑えられる!魔法式への干渉許可を!」
「はぁ!?貴方も一年生でしょう!そんなことできるわけ・・・」
「このままだと二人仲良く木っ端微塵だ!それとも今からでも俺だけ逃げてやろうか!?」
「くっ、本当に抑えられるのでしょうね!?ほら、これで干渉できるわよ!」
状況を理解し魔法式への干渉許可を出したリア。
俺はその決断の早さに驚きながら、固有スキル『魔法式の改訂』を使い、『グラン・ノーマ』の『威力』を、俺の覚えている低級炎魔法『レイ・ローガ』の最低威力と置き換えた。
「うげぇ!」
「きゃあ!?」
最低威力の無属性魔法が炸裂し、俺たちは軽く尻もちをつく。
事故を防いで一件落着・・・・と、言いたいところだが。
「むしろ俺にとっては最悪の状況になったな。」
俺は不安げな表情でこちらを見る優等生様を後目に、そんなことを考えた。