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エピソード1 発端

プロローグ


 世界に隕石群が降りそそいだ。そして隕石とともにやってきた未知のウイルスで人類はあっけなく4か月で滅亡した。


 ぼく以外の人間はみんな滅んでしまったらしい。そう思いながら1年間さまよっていると女の子がぼくを見つけた。

それは息をのむほどにきれいな女の子だった。


「こんにちは…」


 久しぶりに話した日本語。この言葉がいまの状況に適切だったかどうか、自信はなかった。気がつくと涙が溢れていた。女の子は駆け寄って、ぼくを泣きながら抱きしめた。


「生きてて良かった…。」


 生きている人に出会えた喜びと、ぼくの身体に押しつけられた彼女の胸の柔らかさの感触が混じり合い、ぼくの心はざわついた。


 これは僕と彼女のアダムとイブの物語だ。


──────────────────


エピソード1「発端」


 ぼくはユイト。19歳。父が「自由に生きる人になってほしい」とつけた名前だそうだが、ぼくはその真逆を生きてきた。最終職はニート、ということになるのだろう。ぼくはあの時紛れもなく底辺だった。変な話だが自信をもって言える。


 小さな頃から内気で、クラスメイトから空気として扱われ育ち、恵まれない学校生活を送っていたぼくは、無限地獄のような日々を耐え抜いて、童貞のまま高校を卒業した。学び舎という檻からやっと逃れることができたぼくには、就職という言葉がすごく魅力的に映った。ブラック企業での週8勤務で現実を見るまでは。

 過酷な労働に耐えきれず、精神を病み、ついにはニートとなってしまったぼく。日々は陰鬱な思いに包まれ、朝起きてすぐに「消えてなくなりたい」「地球に隕石が落ちて滅びればいいのに」という願いが繰り返し心に浮かんでいた。ぼくの体はストレスと運動不足でぶくぶくと太り、自己嫌悪に苛まれる毎日。それが僕の日常だった。


 7月。ある静かな夜だった。空は突然異変を告げた。


 星々が輝く夜空に無数の隕石が現れた。夜の色を真っ赤に上塗りするその光景は、これが終末であることを容易に表していた。隕石群は地球に向かって急速に接近し、空気は焦げるような熱気に包まれた。大地は振動し、建物が次々と崩れ落ちる音が響き渡った。少しあとで分かったことだが、これは世界中で同時に起こった現象だった。


 人々は恐怖に駆られ、大声をあげながら右往左往しながら逃げ惑った。「お母さん」と叫ぶこどもの声が、今も耳から離れない。ぼくはマンションの自室の布団に潜り込んで恐怖に抗うこともできず震えていた。ぼくのマンションは倒壊から免れ、なんとか生き延びたけれども、人類はその7割をこの時点で失っていた。しかし、逃れようのない運命がさらに訪れた。隕石と共に未知のウイルスが地球に降り立ち、それからわずか4か月の間に人類を滅亡の淵へ追いやったのだ。

 人から人へと軽薄に伝染るこの病は、ウイルス感染すると、高熱と激しい倦怠感、激しい水ぶくれに苛まれた。そして人は人を避け、人に攻撃を開始した。しかし、それらも人々が息絶えることで、文字通り終息した。


 ぼくもしっかりこの病にかかった。「死ぬ」という意味を強く考えていた。だけど奇跡的にぼくだけが生き残ることができた。周囲の人々が次々と命を落としていく中、ぼくはなぜ自分だけが生き延びたのか、その理由を考え続けた。布団から起き上がり、変わり果てた両親を見たときも、ぼくにはその答えがわからなかった。


 電気が通っていないことは明らかだったけど、ぼくはテレビをつけてみようとした。真っ暗な画面を何時間も眺めたあと、両親の亡き骸ともいえないとものに別れを告げて、形見として両親の趣味のキャンプ道具一式を持って、生まれ育った家を出た。


 荒れ果てて生きた人が誰もいなくなった街。ときどき道路にうつ伏せるような死体を見る。その近くには大きな建物が必ずあるのでこの人が飛び降りたであろうことは推測できた。歩き回りながら、壊れた建物や焼け跡を見つめては、人類が迎えた終末の日々を思い起こしていた。生存のために食料や水を探し求め、廃墟の中で新たな生活を始めた。サバイバル知識なんてほぼない。父の趣味のマンガでさいとう・たかをの「サバイバル」とか、「ドラゴンヘッド」「自殺島」を読んでた程度だ。狩りなんてできないから、もっぱら無人になったスーパーで缶詰やカップ麺を食べていた。

 ただアナログ腕時計と太陽の位置から方角を割り出せたときは「コナン読んでてよかった」と心底思った。


 死ぬことができなかったぼくは「死ぬまで生きてみよう」と思った。生きるということと死ぬことは延長線のことだと、ごく自然にそう思った。


 気がつけば1年間を生き延びていた。もともと運動不足だったぼくも、日々の行動の中で少しずつ体力を取り戻し、身体を鍛え直していった。生き残ってる人がいないかなんて期待をすることも忘れた頃に、ぼくは小さいころ家族と一緒に観光をした紐島市に向かうことを決めた。今いる都会では崩落の危機があることは肌で感じていたし実際に目の前で崩れたビルを見た。昔「飛行機がぶつかって壊れた」というビルの映像を見たけれど、あれはCGじゃないんだな、なんて思った。なにより都会は死体が多い。それに群がる獣も増えてきていた。


 紐島市は適度に田舎という印象だった。ビルは少なく、お店も多かったので物資もあるだろう。なにより両親と見た美しい海と山の思い出がぼくをそこへと向かわせた。ぼくはもう電車が通らなくなった線路上を歩き、途中駅の待合室で眠り、2日かけて歩いて紐島市の駅に着いた。駅で放置され、持ち主がいなくなった自転車を見つけた。


 ぼくは自転車で海を目指した。浜辺に座ってで少し泣いた。そして街に行き物資を調達に行こうと立ち上がったときだった。


「おーーーーーーーい!」

 声。これは声だ。


 その方向に身体を向けると女の子がぼくを見つめていた。ぼくが挨拶をすると彼女は笑っているのか泣いているのかわからない、でもきれいな顔でぼくに駆け寄ってきた。そこからの光景はまるでスローモーションだった。黒髪ショートカットでメガネの女の子。走るたびに彼女の胸は揺れていた。よくしまってショートパンツから伸びた綺麗な脚も僕の目を泳がせた。

 ぼくも人に会えた喜びと安堵で泣いていた。そしてどちらともなく強く抱擁をしていた。


「生きてて良かった…。」


 生きている人に出会えた喜びと、ぼくの身体に押しつけられた彼女の胸の柔らかさの感触が混じり合い、ぼくの心はざわついた。直感だと思う。すぐに理解した。


(人類の存亡は、ぼくたちに委ねられているんだ…)


 ぼくはぼくの直感と、下腹部が「生きよう」と熱を発しているのを自覚しながら、今はただ人に会えた喜びと、彼女の甘い香りを噛みしめることにした。


挿絵(By みてみん)



エピソード2「新居」へつづく


あとがき

最後まで読んでくださりありがとうございます!

これから彼女の拠点に向かいます。じわーっとエロエロにしていきますので。じわーっと。ぜひフォローをば!

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